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21 終演

無断欠稿すみませんでした。


~ドギヘルス軍戦傷者部隊「クラックス」~


「全員薬を入れろ、やるぞ。」


 戦傷者部隊「クラックス」暫定リーダーのエドガーは、部隊の他二名、デズモンドとアーティーに指示する。


『本気か?

 …まぁ、俺も消化不良だったんだ。』


『リーダーはエドガーだ、指示に従う。』


「恩に着る。」


プシュッ…!


 エドガーは、気付いているにもかかわらず快く了承した二人に、罪悪感が沸いたが礼を言い「刃持ち(カインを殺した敵)」に意識を向けた。


(「希望」か…。)


 エドガーは自機の名の意味に苦笑する。

 彼ら(「クラックス」)の乗機、中型殲滅ポッド「エスペランス」。

 機動力でドギヘルス軍機を上回るキャトラス軍ポッドを殲滅することを目的に開発されたN(神経)C(接続)C(制御)S(システム)搭載機である。

 NCCSによる直感的な操作は訓練の期間を短縮し、熟練パイロット以上の機動を可能としている。

 短期間での熟練パイロット以上の兵の量産。

 ゆえにこの機体には「(ドギヘルス軍勝利の)希望」と名付けられたのだ。

 しかしエドガーら戦傷者はNCCSに希望を見出だして“いた”のだった。

 事実彼ら(戦傷者)のほとんどが悩まされていた幻肢痛が、NCCSに繋いだら和らいだのだ。

 だが機体からの痛覚フィードバックに対する処置である鎮痛薬、そう説明された薬の存在は不信を抱くのに十分な理由となってしまった。

 幻肢痛に特に悩まされ、情緒の不安定さから家族と別居せざるを得なかったというカイン。

 彼は軍に召集された直後からあの鎮痛薬を投与されていたが、情緒の不安定さは無くなったものの日に日に攻撃的な性格となっていったのだ。

 そして死の直前に見せた正気に戻ったカインの様子から、鎮痛薬と説明された薬の中身が強い麻薬だと察したのであった。


(結局俺たちは“詰み”だった。)


 軍の機密を知っていたが故に一般で働くことは出来ず、欠損を抱えているが故に軍内での扱いは悪い。

 そうなった原因は何か?

 キャトラス軍だ。

 ならば復讐だ。

 キャトラスを滅ぼせ。


(効いてきたか…。)


 エドガーは、思考がキャトラスへの憎悪で埋められて行くことを自覚するが、止めようとはしない。


「お前ら行くぞ、まずは「刃持ち」(あいつ)だ!」


『『オオォッ!』』


 エドガーの号令に「クラックス(欠けた者達)」の返答は咆哮。

 薬で引き出された攻撃性そのままに行動する様は、まさに手負いの獣そのものであった。


















~ピコ視点~


 要塞「ゲート」から上がった信号弾と、敵総指令官の

演説を聞き、戦いが終わったと思えたのも束の間のこと。

 取り敢えずシステムの再起動を待っていたところ、敵兵が暴れ始め再び戦闘が始まった。

 当然ピコも戦闘に巻き込まれ、襲い掛かってきた異形の部隊との交戦が再開されていた。


ヒュヒュヒュンッヒュンッ


「ふっ…、はっ!」


 フェイントを織り交ぜ敵の攻撃を回避する。

 先ほど(停戦前)までとは違い明らかに荒々しくなり、密度が増した触手の攻撃。


(再起動はまだにゃ!?)


 要塞から放たれた攻撃により機体のシステムが停止(シャットダウン)してから、連続して魔力で機体を稼働させていたため、ピコの魔力は底を尽きかけていた。


ヒュヒュウッ…、ピィッ!


ジッ!


「くぅっ!」


 触手の打撃に加え、全方位から撃たれるレーザー。

 体内魔素の欠乏による体調の不良も相まって、直撃ではないが被弾が増える。


ヒュッ


「ああぁっ!」


ブチンッ!


 やられっぱなしにされる訳にはいかず、触手の何度か弾いた部分を狙い、ようやく気合いで一本減らすことに成功する。


ヒュヒュッ


「っ!」


バシバシィッ!


「っう!?」


 しかし「それがどうした?」と言わんばかりに連続して振るわれた触手により、機獣はゴムボールのように弾かれる。

 機体には然程ダメージのない打撃であるが、コックピットの中でシェイクされたパイロットは堪ったものではない。


キュイィ


「!」


 やっとのことでシステムが再起動し、機獣の稼働に使用する魔力がグンと減る。


(これなら!)


『オオオオッ!』


 動きが鈍ったと見て敵が迫る。


グワッ


 振り上げられたアーム。

 あれに当たればコアはともかく、外装はバラバラにされてしまうだろう。

 だがそうはならない。


フッ


『オオ!?』


 標的を一瞬で見失った敵が驚愕の鳴き声(こえ)を上げた。

 

『何処に…、っ!』


 敵のリーダー格も一瞬機獣を見失い、発見した時には警告などする間は無かった。


(ここ!)


ドオッ!


 迫っていた敵の懐に潜り込んでいた機獣の右ストレートが、敵機のメインフレーム( 背 骨 )をへし折った。


『ォッ、グゥ…。』


 痛覚を鈍らせていると言っても限界はある。

 また一機の異形がその機能を停止させた。


『テッ、メエエェッ!』


 仲間がやられたにもかかわらず、リーダー格とは別の機体が横から強襲してきた。


『待て、くっ…!』


 リーダー格の静止も最早効かず。


キイィィッ…


「ふっ!」


クルリ


『アアァッ!』


スパッ!


『ァエ…?』


 振り返りざまの斬艦ブレードの横振り。

 上下二つに分かれた敵機は機獣の後方へと流れて行く。

 これであと一機。

 だが、完全に狂ってしまっていた他の三機のパイロットと異なり、リーダー格の彼は理性が残っていると思える。


「もう戦う意味は無い筈にゃ。」


 自称平和主義者のピコにとって、命令されているわけでもなく戦うのは命を無駄にする行為に映る。


『無意味だと?』


 向き合う敵機のパイロットの声音から、説得が失敗したことを覚る。


『ああ、足の復讐だったらその通りなんだろうな?』


(足…?

 …まさか!?)


 彼とカインというパイロットの散り際の言葉から、異形の機体のパイロット達が何らかの身体的障害を抱えていることに思い至る。




 


 

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