20 等しく訪れる
お待たせ(?)しました。
少し長めです。
主に被害を被っているのがドギヘルス軍側であったとしても行われているのは戦闘であり、キャトラス軍側も被害を出していた。
要塞制圧部隊を守るため大ハッチに空いた侵入口前に陣取っていた「アーチャーフィッシュ」は、武装解除の済んでいない多数のドギヘルス軍機から集中的に攻撃を受けていた。
ガガガッ…ドォッ!
「くっ…!
被害報告!」
「右舷格納ブロック大破、火災が発生しています。」
「隔壁封鎖、右舷ブロックを切り離せ!」
ガガッ、ガガガガッ!
「艦長、艦の損傷が危険域に達しています!」
最新鋭艦であっても所詮は一兵器。
墜としても減らないように錯覚してしまうほどの数の敵機から砲火を食らえば、とてもではないが耐えきれない。
要塞「ゲート」を背にしているため、状況を打破出来そうな最大火砲を使用出来ないこともあったのだろう。
ドオォッ!
「メインブロックから出火!
艦出力の低下止まりません!」
「もはやこれまで…。
総員退艦、脱出せよ!」
キャトラス宇宙軍本隊所属、複合艦型強襲戦闘輸送艦キャノンヘッド型三番艦「アーチャーフィッシュ」。
キャトラス宇宙軍の新たな力の象徴となるべく建造されたその艦は、要塞「ゲート」攻略後の戦闘により、建造から1ヶ月で撃沈することとなった。
また別の場所、キャトラス軍に間接的な大被害をもたらした要塞砲跡地付近では、2機のキャトラス軍ポッドが離脱しようと奮闘していた。
『伍長、これ使うっす!』
バチン
ランナー機は機体側面にマウントされたボックスケースを分離する。
パカンッ
『これ曹長の予備じゃ…?』
自動で開封されたケースから出てきたのは、携行武器のショットガンであった。
『自分にはこれがあるっすから。
伍長はそれで自衛するっす。』
ディックが言うように、ランナー機は超硬突撃槍を左右の両アームで保持して扱っていた。
対してグラスフィールド機は固定武装は故障中で、携行武器のランチャーは要塞砲の破壊に使用し、武器無しの状態である。
ランナー機がショットガンをぶら下げながら一機で戦闘するよりは、ユキに使用していない武器を渡してしまった方が戦い易いということであった。
『自分が前に出て道を作るっす。
後ろは任せたっすよ!』
『了解!』
ランナー機がグラスフィールド機から離れ、撤退を妨げる敵機を次々に屠っていく。
(凄い…!)
先ほどまでは接近してくる敵機を追い払うように戦っていたランナー機だが、本来のスタイルは速度を活かした突撃槍での一撃離脱である。
無手のグラスフィールド機の護衛という、ある意味での枷から解き放たれたランナー機は、先ほどまでの停滞が嘘のように退路を切り開いて行く。
『コイツっ…、「青鮫」の…!』
これだけ目立った活躍をしてしまえば、脅威と判断され集中攻撃されてしまうのは戦いの常であった。
現にドギヘルス軍の正規兵がランナー機の所属を看破する。
しかしランナー機に仕掛けるドギヘルス軍機は疎らであった。
態々強敵に挑むことを避けたのではない。
徴用兵らにとって、話で聞いただけの脅威より優先するべき標的がいたのだ。
『居たぞ、あいつだ!』
『あいつが俺たちの切り札をやったのか!?』
『許さねぇ、あいつだけは墜とすぞ!』
徴用兵が殺到するのはグラスフィールド機。
自分たちが必死に守ろうとした「栄光」を破壊された怒りは、他の者には想像もつかないものであった。
また事情を詳しく理解していない兵士らにとって、「栄光」が破壊された直後の敗北宣言も敵意を向ける理由となっていた。
『離れて!』
ズダァンッ!
群がる殺意剥き出しの敵機に、ユキはショットガンを放つ。
ボボンッ
『ぎゃっ!』
『グェッ!』
接近するほど密集度の高くなる敵機の群れに、散弾は高い効果を発揮した。
ズダァンッ、ズダァンッ!
一発放たれるだけでも複数が倒れる攻撃が連続して放たれる。
『伍長、今っす!』
自分に向かって来た正規兵パイロットのポッドを処理したディックが、ショットガンの連射により薄くなった敵の壁を強行突破するようにユキに合図する。
ズダァンッ!
返事は無く、また一発の散弾が放たれる。
『ぐわっ!』
『しまった!』
薄くなっていたグラスフィールド機を包囲する壁は、これにより完全に穴が空いた。
ゴォッ
包囲から飛び出すグラスフィールド機。
『逃がさぬ!』
ガシィッ!
しかし一機の作業機がグラスフィールド機を掴む。
『このっ!』
ジャキッ
ユキはショットガンを自機を掴む作業機に向ける。
『作業機だからってぇっ!』
非武装であっても拘束してきた以上は敵である。
ユキはショットガンの引き金を引いた。
ガチンッ
『弾詰まり!?』
正確には弾詰まりではない。
排莢の際に開いたシェル窓に敵機の破片が噛んだことで、暴発防止の安全機構が働いたのだ。
『そのまま押さえていろ!』
ゴオオォォッ
敵機を振り払おうとするグラスフィールド機に、船体から炎が上がるドギヘルス軍駆逐艦が迫る。
『伍長!
間に合えぇっ!』
作業機のパワーで組み付かれたグラスフィールド機救出のために、ランナー機は全速で向かう。
『曹長、来ちゃ駄目です!』
ガッ!
ユキが止めるも、ランナー機はグラスフィールド機に取り付いた敵機を槍で撃破する。
オォッ
グラスフィールド機の拘束は外れたが、駆逐艦はすぐそこまで迫っており離脱は間に合わない。
『伍長、こっちに!』
パシュウッ
ディックはコックピットハッチを開き、ユキに乗り移るよう促す。
ディックの機体はフルMM機、フレームのみがMM製のグラスフィールド機よりは耐久性が高い。
パシュウッ、タッ…
ユキはディックの意図を察知し、自機のコックピットから跳ぶ。
ガバッ
「よしっす。」
パシュンッ
ディックはユキを受け止め、ハッチを閉じる。
ゴオォッ!
「…っ!」
ディックとユキを乗せたランナー機は、離脱のために加速する。
オオッ!
だが間に合う筈は無かった。
『うおおぉっ!』
カッ!
ベキベキベキッ、ズウゥン!
ドギヘルス駆逐艦は要塞砲の建設現場を巻き込み、要塞「ゲート」の岩壁へ衝突。
ディックとユキの乗ったランナー機と、乗り捨てられたグラスフィールド機を押し潰したのであった。
メメントモリ(死を想う)
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