17 決する~time is up~
ユキ視点メイン
(ユキ視点が長くなったので、文章も長くなっております。)
戦争も終盤です。
~ユキ視点~
『自分がついたらどうっすか?』
やっぱり私が役に立とうなどと不相応だったと後悔していると、同年代の先任メンバーのランナー曹長が発言しました。
確かに曹長の機体の装備は近距離用ですが、残弾には余裕がありそうです。
『だがそのために他の者を危険に曝せない。』
ランナー曹長に向けた言葉の筈ですが、まるで自分が「我が儘を言うな」と叱責されたように思えました。
『曹長、私…』
『ならガイウスはエリカ達を連れて戻れ。
ランナーとグラスフィールドは俺が預かる。』
大人しく班長に従うとランナー曹長に言おうとしたら、キングハート大尉も話に加わって来ました。
キングハート大尉は残って戦闘するための口実にしていることを覚りましたが、渡りに舟であることも確かでした。
『魔力は保つのか?』
『うっ…。』
キングハート大尉も自覚しているようで、反論することなく引き下がります。
『伍長だってマルコシアス隊っす!』
突然ランナー曹長が怒鳴りました。
『分かっている。
だからこそ全員で生き残るために』
『あんたのそれは市民に対する態度だ!
伍長がやるって言ってるんだ!
なら仲間として信頼して送り出すっす!』
口調が変わるほどの激怒。
ランナー曹長の普段の態度からは想像もつかない姿に誰もが面を食らっていました。
しかしそのかいはあったのでしょう。
『伍長、やるなら成功させるつもりでだ。』
『っ、はい!』
『ディック、伍長を頼む。
二人無事に帰って来い。』
『任せるっす!』
『ディックと伍長は目標の破壊を先行。
他は補給に帰還、すぐに戻ることになる。
急ぐぞ!』
こうして私とランナー曹長は班長達を見送り、目標の破壊に動き出します。
『伍長、弾は何発あるっすか?』
『各一発、二発です!』
曹長の質問に答えると試みが成功することは限り無く低いことに気付きました。
ドクドクドク
心拍数が上がり、緊張で操縦レバーを握る手が震える。
『ちょっと待つっす。』
タイミングを図っているとランナー曹長に静止されました。
「何ですか?」
目標である敵要塞砲のチャージはこの間にも進み、焦りからか少しぶっきらぼうな返事を返しました。
『もっと近くで撃った方が良くないっすか?
自分もいつもそうしてるっす!』
曹長の意見に、私はポカンとした表情になっていたと思います。
遠くから当たらないなら当たるところまで近付く。
シンプルですが効果は言うまでもありません。
ですが要塞砲に接近するということは、自ら敵部隊に囲まれに行くのと同義です。
私が戦闘に参加出来ない以上、曹長は一機で自身と私を守らなければならないのです。
『大丈夫っす!
伍長を守るのが自分の役目っすから。』
『はい。』
私の不安を感じ取ったのでしょう。
楽観的に言う曹長ですがなぜだか頼もしく思え、私は返事を返しました。
『それじゃ、ついて来るっす!』
……………。
………。
ズガッ!
『通らせて貰うっすよ。』
突き刺した槍を引き抜きながら前進する曹長について行きます。
曹長は宣言通りに、次々と向かって来る敵機に危なげなく対処していました。
そして目標の要塞砲が眼前に聳え立って見える位置まで接近出来ました。
「曹長、ここで撃ちます!」
距離はまだ少しありましたが、離脱のことを考慮すると限界の距離でした。
『了解っす!』
そう言うと、曹長は周囲の安全確保を開始しました。
おかげで目標の破壊に集中出来ます。
ボシュッ!
一発目、左アームのランチャーが空になります。
ゴォッ
『させん!』
ボンッ
タイミングは良かった筈でしたが猛スピードで敵機が射線に割り込み、その身を盾にロケット弾を防ぎました。
「くっ…!」
ボシュッ!
右アームのランチャーも発射して残弾は0、最後のチャンスです。
『やらせはせんぞおぉっ!』
ドギヘルス軍機と異なる機体が要塞砲から向かって来ました。
武装は無し、作業機でした。
『ブーメランっす!』
ヒュゴッ!
曹長の機体が作業機の排除に向かいます。
しかしロケット弾に対し向かう形である敵機に命中する方が早い。
失敗が頭を過りました。
『どぉりゃあぁぁっす!』
ビュンッ
最高速度を保ちながら曹長の機体が槍を投擲しました。
ガギイィィン!
硬さと質量と速度の乗った槍は狂い無く作業機のコックピットに刺さり、尚も残った慣性が敵機をロケット弾の軌道から押し出しました。
シュウゥゥ
要塞砲は無防備で、ロケット弾を阻むものはもうありませんでした。
「当たってっ!」
~惑星ドギヘルス 王都攻防戦~
ドゴンッ!
ガラガラガラッ
戦車の砲撃を受けて、王都を囲む防壁の一部が崩壊する。
「壁が崩れた!
あそこから攻め入るぞ!」
歩兵部隊は防壁が崩壊した穴から王都に雪崩れ込み、ある者は固く閉じられた門の解放に、またある者は防壁の内階段を駆け上がって防壁上陣地の制圧に向かう。
「戦車隊前へ!
歩兵は近付く敵兵を撃て!」
装甲車が相手にならなかった戦車であるが、敵兵の決死の突撃で何両かが爆破されていたため、歩兵による警戒が必要とされた。
王都のメインストリートを戦車隊は進む。
次なる目標は城壁の破壊であった。
~ガウルフ王城~
「陛下、反乱軍が防壁を突破したようです。」
ファーテイルの後任の軍務卿がガウルフ王に告げる。
「なんという体たらく!
陛下、いかが致しましょう?」
宰相は軍務卿を非難し、ガウルフ王に処罰を求めた。
「……卿はどうするべきだと?」
しかしガウルフ王は宰相の期待と裏腹に、頭を垂れる軍務卿に意見を聞いた。
「は、…王都は明け渡すべきかと。」
「なっ、陛下に逃げろと言うのか!?
不敬であるぞ!」
「宰相、貴様は黙れ。」
ガウルフ王は騒ぐだけの宰相を黙らせ、軍務卿に続きを促す。
「反乱軍はあろうことか、キャトラスと手を結び陸上
戦の用意をしていたようです。」
市政を監視する憲兵隊は軍務卿の管轄であった。
「私の不徳の致すところですが、正規軍に反乱軍の陸
上兵器に対抗する手段は僅かです。」
勿論その気になれば、兵が多数犠牲になるがいつかは全ての戦車を破壊可能だ。
「ですので一旦アローン大公の元に身を寄せ、軍を強
化するべきです。」
アローン大公はガウルフ王の弟の家門である。
反乱は静観していたが王に反抗的ということはなく、むしろ従順と言えた。
さらに領地も広く資源も豊富であった。
軍務卿の計画は現状最適のように思えた。
「宰相。」
「………。」
ガウルフ王が宰相を呼ぶも返答が無い。
「宰相、城使えと近衛、精鋭隊を集めろ。」
「はっ、…は?」
漸く軍務卿を睨むことを止めた宰相は反射的に返答し、命令の内容にガウルフ王に聞き返す。
「城を出る。
準備をしろと言っておるのだ!」
「は、はいぃ!」
……………。
………。
…。
それから数時間後、14日の日が落ちる頃。
反乱軍は王城を制圧。
約一万年ぶりにシバーズ家の血筋が王都に帰還したのであった。
ドギヘルス(ドギーヘブン)なのにガウルフ(牙狼)が王様だった理由が明らかになりました。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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