12 自棄
タイトルは「やけ」と読みます。
~要塞「ゲート」作戦指令室~
「前線が最終防衛ラインに後退。」
要塞「ゲート」の最奥、防衛するドギヘルス軍の総指揮を執る作戦指令室の大モニター。
そこには戦闘開始前から地図に引かれた赤のラインに、戦闘が開始されてから引かれた黄色のラインがほぼ重なっていた。
「本隊はどうした、もう保たんぞ!」
キャトラス軍も兵はともかく弾薬類は予定以上に消耗している。
本来であれば既に作戦の第二段階に入っていなければならない状況だ。
「本営より緊急連絡。」
(連絡?
通信では無く?)
急を要する内容であるのにやり取りに手間のかかる暗号化電子文書による連絡に違和感を覚える防衛戦総指令官。
「やっとか、開け。」
しかし通信が傍受されていることを思い出した総指令官は、違和感を頭の隅に追いやり内容の確認を行う。
「そんな馬鹿なっ!?」
[反乱軍が王都に接近。
万全を期す為、防衛に更なる兵を動員。
要塞「ゲート」の防衛は現存する戦力であたられ
たし。]
総指令官が驚愕するのは当然であった。
連絡が遅くなったこともこの状況では許せる範囲に無いのに、その内容は作戦を無に帰すものであったのだ。
それは今尚奮闘している大多数が徴用兵である防衛隊に対する明確な裏切りである。
(彼らの死を無駄にする訳には…!)
総指令官はこの状況を打開する方法をなんとか考え出そうと唸る。
(……はっ、アレを使えば…!)
暫く唸っていた総指令官は閃く。
(どうせ破壊されるならば…。)
「要塞のエネルギーをアレに回せ!」
「指令!?
あれはまだ半分しか完成していません!」
「分かっておる!
だがやらねばならないのだ!」
総指令官が思い浮かべたのは、キャトラス軍がドギヘルスに侵攻するに至ったきっかけ。
トラン・アビシャスによって秘密裏に建設された移動要塞を消滅させた爆発。
それに匹敵するかは不明であるが、膨大なエネルギーは戦況を一変させる可能性がある。
「「偉大なる栄光」、発射準備!」
~マルコシアス隊~
『おらよ!』
ドカッ!
『うわあぁあっ!』
『うおっ!?』
ガヅンッ…、ボボンッ
機獅子が殴り飛ばした機体が別の機体にぶつかり、衝突した2機のポッドは爆発に変わる。
『おし、次はどいつだ?』
シンの軽めの口調とは裏腹に、機獅子は周囲の敵ポッドを威圧するように睥睨する。
『っ…。』
こちらを囲んだまま動かないドギヘルス軍ポッド。
(良くないにゃ…。)
敵要塞砲の建設現場の目前まで順調に戦線を押し上げてきた。
しかし敵指揮官の素早い後退の判断で合流した多数の敵機と、枯渇しかけた弾薬類がここにきて戦線の停滞を招いていた。
ブゥン…
「何にゃ!?」
打開策を考えようとした時睨み合うドギヘルス軍防衛隊の後方、未完成の要塞砲に光が灯る。
巨大な砲口だ。
後方で艦砲支援を行うアンカーヘッドでもこの現象を確認したのだろう。
アイリス分析官から通信が入った。
『隊長、敵要塞砲にエネルギーが集中しています。』
「見えるにゃ。
…予測される被害は?」
あのアイリス分析官のことだ。
見ればわかることを報告するために態々通信などして来ない。
もし被害が無視できないものであれば、少し無理をする必要がある。
『キャトラス製レーザー兵器の構造を参考にすると、
建設中の要塞砲にはレーザー光の収束装置どころか
増幅装置もついていないように見受けられます。
…………………………………………………………。
…………………………………………………………。』
予想通り推測があるようだが思ったより詳細だ。
「つまり分かりやすく言うと?」
『申し訳ありませんでした。
…要するに「電子系統に障害」もしくは「暴走に
よる爆発でこの宙域が消滅する」かのどちらかで
す。』
ドギヘルス軍は何ということをしてくれたのか。
まさか自軍諸共にキャトラス軍を吹き飛ばすつもりかも知れないということらしい。
さらにもう一つの結果であっても、主に電子系統の技術の塊であるキャトラス軍の兵器には致命的だ。
「マルコシアス隊、聞いたにゃ!
至急敵要塞砲を破壊するにゃ!」
ゴォッ!
そう指示を出し、スラスターのスロットルをFULLに入れて機体を加速させる。
(あれを破壊出来る武器は…)
敵機を無視し要塞砲に迫る。
ヒュッ
「!」
要塞砲を目前に意識が逸れていたことは自覚している。
しかしその上でピコに気付かれることなく接近し攻撃を仕掛けてきたその機体は4機。
『よう、毛玉の英雄。』
『邪魔させて貰うぜ。』
『相手してくれるよな?』
『お前に勝って殺す、逃げても殺す。』
ピコの行く手を阻んだ小隊の機体。
それは既存のドギヘルス軍のポッドでも戦闘機でもない。
しかし見覚えはあった。
それは要塞「マズル」で撃破した巨大兵器。
サイズはポッドの三倍程度であり、生理的嫌悪感が半端じゃなかった動くケーブルも大分減ったようだが。
『隊長!』
「狙いはわたしにゃ!
要塞砲の破壊を優先!」
援護に来ようとしたディックを突っぱね異形の敵機と相対する。
(「行けるにゃ、私。」)
(『もちろんにゃ、わたし。』)
機獣が異形の獲物に飛び掛かった。
次回更新は土曜日です。
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