10 day4 三度目の激突
キャトラス宇宙暦3023年8月14日。
再編されたキャトラス軍と新たな増援を加えたドギヘルス軍の戦いは表面上、当初の1対3以上の戦力比で開始された。
出典「敗戦に学ぶ戦略」
~惑星ドギヘルス ガウルフ王家~
反乱が発生して5日目。
王領の領界線に集めた兵と、領内の主要都市を守らせていた親王派貴族の私兵団は既に突破されていた。
「陛下、反乱軍がすぐそこまで迫って来ております!
いかが致しましょう?」
解任した前宰相に代わる現宰相は、ガウルフ王の指示を仰ぐだけであった。
「何度言わせるつもりだ宰相。
我はさっさと反乱を鎮圧しろと言った筈だ。」
宰相とてそれくらいは分かっている。
だからこそ勧告も無しに攻撃するよう境界防衛軍には指示を出したし、貴族には王命として兵を供出させたのだ。
「それは重々承知しております。
しかし反乱軍は予想以上の戦力でして…。」
現政府が軍事関係を統括している以上、貴族が集まったとしてもその戦力は高が知れている。
特に王家の敵視している辺境貴族など親王派の高位貴族にすら敵わないのだ。
「……待機している軍があったな。」
王の示す軍は、要塞「ゲート」防衛のため作戦待機している正規兵の軍隊であった。
「はい…。」
察しの悪い現宰相は肯定の返事しかしない。
(愚図が…、しかし反対されないだけましというもの
か。)
苛つくガウルフ王であったが、ここで察して口煩くなる前宰相と比較して気分を落ち着ける。
「防衛は今いる軍で十分だ。
待機している軍をここの防衛に充てろ。」
「おお!
流石は陛下、ご慧眼で御座います!」
「いいからさっさと伝えろ!」
「はいぃっ!」
ガウルフ王の剣幕に逃げるように退出する現宰相。
(どいつもこいつも愚図ばかりめ。
……………。
ラクーンに聞いてみるか……。)
前宰相は有能ではあったが反抗的、現宰相は従順だが無能。
有能で従順な者を思い浮かべようとして浮かばず、ガウルフ王は軍事開発部の老狸を思い出した。
~マルコシアス隊~
要塞「ゲート」の攻略も4日目。
三回目の戦闘でマルコシアス隊は、一回目の戦闘と同様に建設中の敵要塞砲の防衛部隊と戦闘を繰り広げていた。
ダダダダダダダダッ!
ダダダダダダダダッ!
『おらおら~っ!
死にたくない奴は退きやがれ!』
シンが先陣を切って改修Dマシンガン改Ⅱ二丁を乱射する。
『と、止めろ…、止めるんだ!』
『止めろって、どうやって!?』
『奴に弾切れは無いのか!?』
ドギヘルス軍のパイロットがそう思うのも無理は無い。
銃身の上に細長い箱型マガジンを乗せて更に改造されたマシンガンには、キングハート機から弾帯が延びる。
『銃撃はそんなに続かない!
その隙に囲むぞ。』
弾があろうが永久的な射撃は行えない。
そして同時に三方向以上は狙えない。
冷静に判断を下した指揮官。
『『ピーッ!』
くそっ、過剰加熱だ!』
現に射撃を続けたマシンガンの銃身は加熱され、警告音が暴発の危険をシンに知らせた。
射撃が止む。
『今だ!』
デブリに隠れ遮蔽物にしていたドギヘルス軍機が一斉に飛び出す。
ガシャッ
『!』
しかし指揮官は見た。
敵機の保持するマシンガンが銃身外装の中程から折れたのを。
バシュッ
そして赤熱した銃身が飛び出るのを。
『カバーは?』
『要らねぇ!』
ジャキンッ!
ピコの問いにシンは手短に答え、その間にも銃身が交換され射撃可能となる。
『っ、退避!』
指揮官はそう指示するも、飛び出した直後で遮蔽物に隠れるのは無理な話であった。
『遅ぇよ!』
ダダダダダダダダッ!
ダダダダダダダダッ!
再びばら蒔かれ始めた弾丸。
『どわっ!』
『うっ…!』
『ぐがっ!』
嵐の雨のような弾丸の猛威に曝され次々と墜ちるドギヘルス軍機。
『畜生、済まない…。』
ボンッ
その謝罪は部下か星に残してきた家族か。
最後の一機が回避仕切れずに撃墜された後、弾丸の嵐はひとまず治まったのであった。
~要塞「ゲート」大ハッチ前戦場~
一つ二つの部隊が文字通りに“全滅”したところで、動員数十万を優に超える戦闘は終わらない。
特にキャトラス軍主力が攻撃する、要塞「ゲート」最大の出入り口のハッチ前は、秒間一機の撃墜では済まない激しい戦闘となっている。
ゴオォ
タタタッ!
ゴォッ
タタタッ!
『くそっ、速い!』
とあるキャトラス軍ポッドがドギヘルス軍戦闘機部隊を相手に苦戦していた。
『へへっ、鈍いぞ毛玉?』
『そら、食らえ!』
ヴォッ!
ガガガッ!
『うわぁっ!』
ドギヘルス軍戦闘機の放ったバルカンが直撃し、悲鳴を上げるキャトラス軍ポッドのパイロット。
『おい、一旦下がるぞ。
遊んでないで早く終わらせろ。』
そう指示する隊長機含め、ポッドをおちょくるように攻撃していた戦闘機部隊の機体はミサイルを撃ちきっていた。
『ちっ、しゃあねぇ。』
『おう。
すぐ墜としてやるからな!』
ドギヘルス軍戦闘機部隊のパイロット達が言うように、散々バルカンを食らったキャトラス軍ポッドは機体耐久値が限界でありいつでも撃墜可能となっていた。
ゴゴオォッ
『ピッ』
2機のドギヘルス軍戦闘機がキャトラス軍ポッドに向かい、ポッドのコックピット内では接近を知らせる警告音が鳴る。
『おおおぉっ!』
ガガガガガガッ!
『お?』
せめて一機とは刺し違えようとしたポッドのパイロットの気合いの叫びが間の抜けた声に変わる。
ボッ、ボンッ…
先に撤退し始めていたドギヘルス軍戦闘機も撃墜される。
『よく耐えた。
後は戦闘機部隊に任せな。』
そう言い残し最前線に向かう部隊の機体の片翼は、白に染まっていた。
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