閑話 置き去り2.5day
主役はまさかの…
キャトラス宇宙暦3023年8月13日。
二日間の戦闘の損耗により、再編の必要性に迫られたキャトラス軍。
要塞「ゲート」攻略3日目のこの日は戦略的な戦闘は行われなかった。
しかし当時の軍の活動記録を読み解くと、確かに戦いの記録が記されていた。
出典「ドギヘルス侵攻~知られざる戦いの記録」
~キャトラス軍バレット隊+α~
要塞「ゲート」周辺宙域、未だ火の手が上がる駆逐艦の残骸が多数漂う場所。
『ザッ…』
沈黙が支配するその場所に無線のノイズがはしる。
『バレット隊、全員いるな?』
『B2、健在。
隊長、よくご無事で。』
『B3もいるぞ。』
『B4、機体に損傷あれど軽微なり。』
『こちらコクーン、航行可能。』
ハロルド・チェンバーが隊長のバレット小隊全機と、バレット小隊母艦であった駆逐艦の脱出艇。
所属していた駆逐艦大隊が壊滅した中での生存だ。
生存の理由としては様々な要因が重なったからであるが、特に言うならば混戦とキャトラス軍の各自撤退にあると言える。
そもそもこういった状況に陥ったのは「混戦で被害が拡大したから」というのはこの際置いておく。
兎に角奇跡的に部隊全体が生存したバレット隊は、敵地からの脱出を目指し行動を開始した。
…………………。
…………。
戦闘部隊隊長であるチェンバー小尉を先頭に、脱出艇を前後左右で囲むようにして進むバレット隊。
『!
止まれ、哨戒だ。』
ゴオォォ…
小尉の小声の指示に全ての機体が動きを止めると、辛うじて目視可能な前方をドギヘルスの哨戒部隊が通過して行った。
『………よし。
前進するぞ。』
哨戒部隊が見えなくなってから暫く、レーダーの探知範囲から外れたとして部隊はまた動き出した。
…………………。
……………。
『隊長、右前方に味方の救難信号が…。』
あれだけの大混戦だ、生き残りはバレット隊だけでないだろう。
大量のノイズの中、脱出艇の右に位置していた三番機が偶然信号をキャッチした。
『脱出艇に空きは?』
『今の倍は乗せます。』
現時点でボートの空きは最大乗員数の半分ほど。
脱出艇を操船するパイロットは、過積載により船速が遅くなろうとも救助するつもりのようだ。
『…了解した。
B3、先導してくれ。』
『分かった。
…こっちだ。』
チェンバー機とB3機の位置が入れ替わり、部隊は最短の脱出ルートから逸れて進む。
…………………。
『…おかしいな、この辺の筈何だが。』
B3機が止まり、困ったように話す。
『……付近を捜索するぞ。
集合は15分後、余り離れ過ぎるな。』
レーダーには幾つかの“生きた”反応が示されているが、そのほとんどがレーダーの誤作動だ。
B3機がキャッチした信号も誤作動の可能性が高いが、チェンバー小尉は一応の捜索活動を決断した。
15分で信号の捜索エリアを網羅することなど不可能であるが、動き回れば発見されるリスクが高まるため十分過ぎるくらいの対応であった。
………………。
15分後、バレット隊は脱出艇の待機する場所に集合していた。
『救助対象は発見ならず。
バレット隊は信号を誤作動と判断し、捜索を打ち
切る。』
しょうがないことではあるが、バレット隊は増員が無いまま脱出に向けた行動を再開する。
チカッ…
『ん?』
『どうした?』
脱出ルートに戻るために隊が進行方向を変えた際、B3が何かに気付いたようだ。
『いや、なんか光った気がして…。』
『見間違いでは?』
周囲には燻る残骸、B4の言うように一瞬上がった炎を見た可能性が高い。
『どっちだ?』
しかしチェンバー小尉は、見間違いと切り捨てることなく詳細を問う。
『9時から10時の方向…。
あの駆逐艦の残骸の辺りです。』
B4が言う方向には確かに比較的原形を留めた残骸があった。
しかし駆逐艦の残骸は明らかに燃え落ちており生存者がいるようには見えない。
(やはり見間違いか?)
チカチカチカッ、パッ、パッ、パッ、チカチカチカッ
チェンバー小尉が見間違いと判断しようとした時、燃え落ちた駆逐艦の格納庫区画内で機械的な光の明滅が起こる。
『生存者だ、救助に向かうぞ!』
…………。
救難信号を発していたのは駆逐艦の脱出艇。
詳しい話を聞くとこの脱出艇は燃え落ちた駆逐艦のものであり、エンジントラブルにより脱出が困難となったためどうにか隠れていたようだ。
B2がエンジン部を確認したところ金属片が突き刺さっており、艦の撃沈時に至近にいたことが推測された。
艦の撃沈ぎりぎりまで乗員を収容していたこともあり、バレット隊の脱出艇は搭乗率が120%となった。
…………………。
…………。
『もうすぐ戦闘区域を抜ける、油断するな。』
バレット隊以外の生存者たちと合流してから十時間近くが経ち、何回かドギヘルス軍の哨戒をやり過ごしようやく脱出と言える地点まで来た。
『…俺らの扱いはどうなっているんですかね?』
B3の疑問も尤もである。
撤退の指示から一日以上が経過し、本隊では再編が進められている。
『作戦行動中行方不明だろう。』
戦場が敵の勢力圏のため、撤退後に死亡した戦傷者以外は総じてそうだと判断される。
『実質死んだ扱いだろ?』
『ああ。
…だからこうして黄泉帰ろうと努力している。』
『お前たち、隊長が気を抜くなと
『ピッ!』
くそっ!』
冗談交じりの言葉をかわすB3とB4を副隊長のB2が注意する言葉を遮り、レーダーが敵艦の感知を知らせる。
『……やり過ごせますかねぇ?』
『ピピッ!』
B3に答えるようにレーダーに光点が追加される。
『駄目だ、もう見つかっている。』
『隊長、どうします?』
B4は端的に事実を言い、B2はチェンバー小尉に判断を仰ぐ。
『…戦闘用意、B4はコクーンの護衛。
残りは俺の援護を。』
小尉はコクーンを見捨てる判断はせず、敵部隊の撃破を選択した。
『隊長、まさか?』
『ここで死ぬつもりは無い。
コクーン、あれのタイミングは任せた。』
『済まない、任せた。』
隊長の指示に作戦を察する副隊長。
足枷となってしまったことを謝るも、信頼を向ける脱出艇パイロット。
レーダーに映る反応は敵艦1に敵機(速度からポッドと判断)が12機。
『ああ、全員で生きかえろうじゃないか?』
バレット小隊の戦いが始まる。
Topic
軍用の救難信号は非常に高度な隠蔽がなされており、敵軍に探知されることは現時点で有り得ないと言える。
万が一、偶然敵に見つかった場合は己の不幸を呪うしか無いだろう。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆評価、いいね等、
よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。