6 2日目未満 ~急襲~
キャトラス宇宙暦3023年8月12日未明。
前日に行われた要塞「ゲート」攻略戦初戦を制したキャトラス軍は、次なる侵攻戦でも勝利を納めるべく部隊の最適化を図っていた。
しかし部隊の最適化が完了する直前、キャトラス軍はドギヘルス軍航空機部隊の急襲を受ける。
この際ドギヘルス軍は投入した部隊の3割近くを損耗するも、損耗した戦力の1割の被害もキャトラス軍に与えられずに撤退。
また撤退の際の追撃により損耗は半数を超えた。
一般的に失敗と言われる「ドギヘルス反攻空襲」だ。
しかし筆者はこの攻撃はキャトラス軍に無視できない影響を与えたと考える。
そう考察するに至る根拠については後に説明するとして、この日の戦いが「勝者の無い戦い」として数多くの作品のテーマとなっているのは揺るぎ無い事実である。
出典「要塞ゲート攻防戦における新考察」
~12日未明「ゲートキーパー」周辺~
昨日の戦闘で欠員した部隊同士を適性ごとに再度の振り分けが行われていたキャトラス軍本隊。
しかし振り分けられた部隊の配置変更の途中、哨戒に出ていた駆逐艦からの通報によりドギヘルス軍戦闘機 の大編隊の接近を察知。
急襲に対応するべく慌ただしく戦闘準備が行われていた。
「……来た!
ドギヘルス軍の戦闘機部隊探知、第一波です!」
「ミサイルロックオン開始!
バルカン撃ち方、用意!」
キャトラス軍本隊の最前列、駆逐艦隊は一斉に敵機に狙いを定め、同時に飛来するであろう敵ミサイルに備えた。
『ピッ…ピッ…ピッ…ピーッ!』
「ミサイルロック!」
「撃てぇい!」
ボシュウッ!
シュババババババッ
キャトラス軍駆逐艦からは対空ミサイル、ドギヘルス軍戦闘機からは対艦ミサイルがそれぞれに向かって発射される。
「バルカン撃ち方始め!」
ブオォォォッ!
「回避しろ!」
グルッ
パシュシュッ!
艦に搭載されたバルカンがフル稼働し、戦闘機は急機動と|欺瞞目標を射出してミサイルから身を守る。
ドドドドドドドドッ!!!!
果たしてその爆発はどういったものなのか。
兎に角視界一面が一瞬にして爆発の華で埋まる。
ゴオォッ!
「敵機接近!」
「迎撃しろ!」
タタタタタタタタタッ!
「なんて弾幕だ!?」
「避け切れない!」
ボボンッ
爆発の華が散れば回避に成功した戦闘機が艦隊を襲い、パルスガンの射撃を受け墜ちていく。
「なんのこれしき!」
「これでも食らえ!」
シュパァッ!
「迎撃!」
「駄目です、近すぎます!」
ドッ!
しかし奇跡的に弾幕を潜り抜けた機体が、駆逐艦にミサイルを見舞う。
「第二波、来ます!」
「どっちを狙えばいい!?」
足の速い戦闘機の次は対艦ミサイルを満載した攻撃機だ。
配置の定まっていない一部の部隊が混乱する。
「あっちだ!」
「こっちは任せろ!」
「「え?(は?)」」
駆逐艦主砲の前に護衛のポッドが割り込み、砲手とパイロットの声が重なる。
混乱の不幸、標的の重複である。
ズドォッ!
更に不幸なことは既にトリガーが引かれていたことだろう。
リニアキャノンは主砲足る威力を十全に発揮し、ポッドと攻撃機を貫いた。
ボッ…ボンッ
「ああ、違う…。
俺のせいじゃ…、わざとじゃないんだ!」
「それについては後にしろ!
今は敵を撃て!」
艦の合間を飛び交う戦闘機と艦の隙を見てはミサイルを撃つ攻撃機。
キャトラス軍の慢心を狙った急襲はさほどの損害を出さず、しかし一部に心的外傷と疑心を残して、全ての機体のミサイルが切れるまで続けられた。
~急襲時 マルコシアス隊~
12日未明。
マルコシアス隊は補給物質到着の報を受け本隊後方、物資集積所となっている「ゲートキーパー」に訪れていた。
「フローレンス中佐、物資の補給完了しました。」
物資補給の作業責任者が、ピコに補給した物資のリストを手渡し報告をする。
「ご苦労にゃ。」
渡されたリストに軽く目を通す。
補給された物資はポッドの携行武器類、装弾数の関係上消費の激しい長距離火器類が主になる。
逆に中~近距離用の火器は改修Dマシンガンが続役中で、倉庫の隅に積み上がった交換用砲身と弾帯を搬入するだけに留まっている。
『ビーッ!ビーッ!ビーッ!』
「!
任せたにゃ!」
ダッ!
突如「ゲートキーパー」内で響いた警報にリストの端末を隊の整備員に投げ渡し、アンカーヘッドのブリッジに走った。
バッ!
「どうしたにゃ!?」
ブリッジに滑り込むように駆け込み、バリー大尉に詳細を求める。
「哨戒に出ていた艦が敵戦闘機の大編隊と遭遇、消息
を絶ったとのことです。」
防衛側であるドギヘルス軍のまさかの襲来である。
「緊急発進は!?」
仮にマルコシアス隊が迎撃にいないとして、キャトラス軍は大打撃を受けるほど柔じゃない。
むしろ返り討ちにするだろうが、かと言って参戦しない理由にはならない。
「まだ作業員の退避が完了していません。」
補給作業を行っていたのは軍に関連する企業の社員、一般市民を戦場に連れて行くわけにはいかない。
急ぎ作業員を下船させ全速力で出撃したマルコシアス隊であったが、前線に到着した時は敵軍が撤収した直後であった。
『間に合わなかった、か。』
搭乗していたものの、出撃することのなかったポッド班を代表するようにシンが言う。
『こればかりは何とも言えません。』
淡々としたアサメイ小尉の言葉が事実をより強く突き付けて来たように感じた。
『第6駆逐艦大隊が追撃に出ました!』
『はあ!?
指揮官は何を考えている!』
滅多に聞かないバリー大尉の焦った声とガイウスの怒声。
二日目の攻防戦が始まった。
全ての戦場に主人公が居合わせるとは限りません。
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