13 one more time
………………………………………………。
……………………………………。
………………………。
……………。
……。
ふ…と懐かしい感覚に意識が浮上する。
暖かい水の中で、揺蕩う感覚だ。
………。
長い夢を見ていたような気がする。
だが、思考がはっきりするにしたがい、夢の残滓は霧散する。
でも確かに、自身の中に何かあることが分かる。
「…っ。」
眩しさを感じ、目を開く。
コックピットの中ではない。
どこかの部屋に置かれた、カプセルの中らしい。
「…っ!」
周囲を見回そうとするも、頭を動かせない。
全身にも微弱な痺れがはしる。
「だ……っ。」
人を呼ぼうと口を動かすが、声が掠れる。
酷く、喉が渇いている。
カチッ…カコン
ロックが外れ、カプセルが開けられる。
誰かきたようだ。
ピッ、ピピッ……
端末の操作をしているようで、電子音が聞こえる。
…!
視界にちらりと、虎柄がうつる。
ピッ
(ビクッ!)
「に"っ…!」
身体が跳ね、声があがる。
「えっ!?
ピコちゃん!?
『ピーッ』
良かった!
目が覚めたのね!」
機械を停止させ、こちらを見下ろすミーコ。
「ごめんね。
少し待ってて。
……。
…………。
ステーションに連絡、第4集中治療室の患者が、
目を覚ましました!
至急、ドクターに連絡を!
……。
すぐにドクターが来るからね?」
どうやら、ここは病院らしい。
自分は負傷して、運び込まれたのだろう。
それより、喉が渇いている。
「み…。
み…を…。」
「耳?
耳がどうしたの!?」
ミーコが聞き返す。
「…ず。
の……か…いた…。」
「…!
水?
水が飲みたいの?」
肯定の意を込めて、強く瞼を閉じる。
「わかった!
すぐ持って来るね!」
………。
(コクッ…コクッ…)
咥えたチューブから、少し温い水を、ゆっくりと飲む。
「…ケフッ!
ケフケフッ……。
あ~…、あー。」
チューブを口から離し、咳払いする。
声がちゃんと出るようになった。
「ありがとにゃ。
もういいにゃ。」
ミーコにお礼を言う。
「どういたしましてにゃ。」
ミーコはそう返し、チューブを片付ける。
ガヤ…ガヤガヤ………。
複数人が近付くざわめきが聞こえる。
ミーコにも聞こえたようで、
「ドクターが来たようにゃ。」
………………。
………。
…。
「……。
とりあえず、視聴覚は機能しているようだ。
意識もはっきりしている。」
目にライトを当てたり、いくつか簡単な質問をした後、ドクターが言う。
「フローレンスさん。
落ち着いて聞いて下さい。
あなたは、3ヶ月間眠っていました。
………………………………………。
………………………………。
………………………。」
ドクターの話を要約する。
救助時、自分は心肺停止状態で意識不明。
後頭部に、大きな外傷があり、出血していたらしい。
すぐさま、緊急延命装置に繋がれ、ここに運び込まれたらしい。
普通であれば、大量出血により死んでしまう程の怪我であったが、心臓が停まっていたことにより、失血死を回避。
外傷の治療後、心肺蘇生が行われ、一命を取り留めた。
しかし、今日まで3ヶ月、意識が戻らずにいたらしい。
「………………。
…………。
話は以上になります。
これから少しの期間様子を診ます。
安静にしていて下さい。」
ドクターが退室していく。
「でも、良かった…。
このまま意識が戻らないんじゃないかって…。
本当に良かった…。」
ミーコが涙声で言う。
相当、心配をかけてしまったようだ。
「ごめんにゃ…。
心配かけたにゃ…。」
ミーコに謝る。
「ほんとににゃ!…。
退院したら説教にゃ。
お詫びもして貰うにゃ。」
大声を出しかけ、トーンを戻してミーコが言う。
説教は確定したらしい。
お詫びも考えなければ…。
「ふぁ…。」
少し話すと、睡魔がやって来る。
「あ、無理しないでにゃ。
目覚めたばかりなんだからにゃ。
ドクターも安静にって言ってたにゃ?」
ミーコに言われ、睡魔に任せ目を閉じる。
「…じゃあ、少し眠るにゃ…。
おやすみにゃ…。」
何とかそう言って、意識が闇に閉ざされた。
~ミーコ視点~
「おやすみにゃ…。」
そう言ってすぐに、ピコちゃんは、安らかな寝息をたて始める。
心配したことは理解していたみたいだけど、私がどれ程心配していたかは理解していないでしょう?
………………。
…………。
ピコちゃんが大怪我を負った、3ヶ月前のことが脳裏に浮かぶ。
危険なことはしない、みたいなことを言っておきながら、ボロボロのポッドから担ぎ出されるピコちゃんの姿を見た時は、意識を失いそうになる程の衝撃を受けた。
しかし、繰り返しの訓練のおかげで、身体は自然に処置を行っていて、気がついたときには、ピコちゃんは延命装置に繋がれていた。
基地に帰還後すぐに、シャトルにピコちゃんを載せ、私も第十四臨補隊の衛生官として、中央軍病院へと急行した。
それからはずっと、眠っているピコちゃんの看護を行っていた。
この3ヶ月間、諦めの思考が浮かんだのは一度や二度ではない。
その度に、自分を奮い立たせた。
そして今日。
いつものように、筋量保持の電気マッサージを開始した直後に、声が聞こえ、治療カプセルの方を見ると、ピコちゃんが目を覚ましていた!
ドクターが診断するまでもなく、意識、視聴覚がはっきりしていることは分かった。
安心と喜びが溢れてきて、騒ぎそうになる自分を抑えるのは大変だった。
………。
それは、それとして。
嘘をついたピコちゃんを、退院したらビンタして、その後、抱き締めながら説教をしよう。
苦しいって言っても離さない。
私の3ヶ月間の苦痛を、少しでも分かるといいと思う。
………。
ピコちゃんはどんなお詫びをしてくれるだろう?
私に聞いてきたら、その時は………。
「にゃふふっ…♪」
いつも読んでいただきありがとうございます