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 ………………………………………………。

 ……………………………………。

 ………………………。

 ……………。

 ……。




 ふ…と懐かしい感覚に意識が浮上する。

 暖かい水の中で、揺蕩う感覚だ。





 ………。

 長い夢を見ていたような気がする。

 だが、思考がはっきりするにしたがい、夢の残滓は霧散する。

 でも確かに、自身の中に何かあることが分かる。


「…っ。」


 眩しさを感じ、目を開く。

 コックピットの中ではない。

 どこかの部屋に置かれた、カプセルの中らしい。


「…っ!」


 周囲を見回そうとするも、頭を動かせない。

 全身にも微弱な痺れがはしる。


「だ……っ。」


 人を呼ぼうと口を動かすが、声が掠れる。

 酷く、喉が渇いている。


カチッ…カコン


 ロックが外れ、カプセルが開けられる。

 誰かきたようだ。

 

ピッ、ピピッ……


 端末の操作をしているようで、電子音が聞こえる。

 …!

 視界にちらりと、虎柄がうつる。


ピッ

(ビクッ!)

「に"っ…!」


 身体が跳ね、声があがる。


「えっ!?

 ピコちゃん!?

 『ピーッ』

 良かった!

 目が覚めたのね!」


 機械を停止させ、こちらを見下ろすミーコ。


「ごめんね。

 少し待ってて。

 ……。

 …………。

 ステーションに連絡、第4集中治療室(I C U)の患者が、

 目を覚ましました!

 至急、ドクターに連絡を!

 ……。

 すぐにドクターが来るからね?」


 どうやら、ここは病院らしい。

 自分は負傷して、運び込まれたのだろう。

 それより、喉が渇いている。


「み…。

 み…を…。」


「耳?

 耳がどうしたの!?」


 ミーコが聞き返す。


「…ず。

 の……か…いた…。」


「…!

 水?

 水が飲みたいの?」


 肯定の意を込めて、強く瞼を閉じる。


「わかった!

 すぐ持って来るね!」


 ………。


(コクッ…コクッ…)


 咥えたチューブから、少し(ぬる)い水を、ゆっくりと飲む。


「…ケフッ!

 ケフケフッ……。

 あ~…、あー。」


 チューブを口から離し、咳払いする。

 声がちゃんと出るようになった。


「ありがとにゃ。

 もういいにゃ。」


 ミーコにお礼を言う。


「どういたしましてにゃ。」


 ミーコはそう返し、チューブを片付ける。


ガヤ…ガヤガヤ………。


 複数人が近付くざわめきが聞こえる。

 ミーコにも聞こえたようで、


「ドクターが来たようにゃ。」


 ………………。

 ………。

 …。


「……。

 とりあえず、視聴覚は機能しているようだ。

 意識もはっきりしている。」


 目にライトを当てたり、いくつか簡単な質問をした後、ドクターが言う。


「フローレンスさん。

 落ち着いて聞いて下さい。

 あなたは、3ヶ月間眠っていました。

 ………………………………………。

 ………………………………。

 ………………………。」


 ドクターの話を要約する。

 救助時、自分は心肺停止状態で意識不明。

 後頭部に、大きな外傷があり、出血していたらしい。

 すぐさま、緊急延命装置に繋がれ、ここに運び込まれたらしい。

 普通であれば、大量出血により死んでしまう程の怪我であったが、心臓が停まっていたことにより、失血死を回避。

 外傷の治療後、心肺蘇生が行われ、一命を取り留めた。

 しかし、今日まで3ヶ月、意識が戻らずにいたらしい。


「………………。

 …………。

 話は以上になります。

 これから少しの期間様子を診ます。

 安静にしていて下さい。」


 ドクターが退室していく。


「でも、良かった…。

 このまま意識が戻らないんじゃないかって…。

 本当に良かった…。」


 ミーコが涙声で言う。

 相当、心配をかけてしまったようだ。


「ごめんにゃ…。

 心配かけたにゃ…。」


 ミーコに謝る。


「ほんとににゃ!…。

 退院したら説教にゃ。

 お詫びもして貰うにゃ。」


 大声を出しかけ、トーンを戻してミーコが言う。

 説教は確定したらしい。

 お詫びも考えなければ…。


「ふぁ…。」


 少し話すと、睡魔がやって来る。


「あ、無理しないでにゃ。

 目覚めたばかりなんだからにゃ。

 ドクターも安静にって言ってたにゃ?」


 ミーコに言われ、睡魔に任せ目を閉じる。


「…じゃあ、少し眠るにゃ…。

 おやすみにゃ…。」


 何とかそう言って、意識が闇に閉ざされた。











~ミーコ視点~


「おやすみにゃ…。」


 そう言ってすぐに、ピコちゃんは、安らかな寝息をたて始める。

 心配したことは理解していたみたいだけど、私がどれ程心配していたかは理解していないでしょう?

 ………………。

 …………。

 ピコちゃんが大怪我を負った、3ヶ月前のことが脳裏に浮かぶ。

 危険なことはしない、みたいなことを言っておきながら、ボロボロのポッドから担ぎ出されるピコちゃんの姿を見た時は、意識を失いそうになる程の衝撃を受けた。

 しかし、繰り返しの訓練のおかげで、身体は自然に処置を行っていて、気がついたときには、ピコちゃんは延命装置に繋がれていた。

 基地に帰還後すぐに、シャトルにピコちゃんを載せ、私も第十四臨補隊の衛生官として、中央軍病院へと急行した。

 それからはずっと、眠っているピコちゃんの看護を行っていた。

 この3ヶ月間、諦めの思考が浮かんだのは一度や二度ではない。

 その度に、自分を奮い立たせた。

 そして今日。

 いつものように、筋量保持の電気マッサージを開始した直後に、声が聞こえ、治療カプセルの方を見ると、ピコちゃんが目を覚ましていた!

 ドクターが診断するまでもなく、意識、視聴覚がはっきりしていることは分かった。

 安心と喜びが溢れてきて、騒ぎそうになる自分を抑えるのは大変だった。

 ………。

 それは、それとして。

 嘘をついたピコちゃんを、退院したらビンタして、その後、抱き締めながら説教をしよう。

 苦しいって言っても離さない。

 私の3ヶ月間の苦痛を、少しでも分かるといいと思う。

 ………。

 ピコちゃんはどんなお詫びをしてくれるだろう?

 私に聞いてきたら、その時は………。


「にゃふふっ…♪」



 

 

 



 

いつも読んでいただきありがとうございます

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