5 開戦
久々にアイツの視点が出てきます。
キャトラス宇宙暦3023年8月11日。
キャトラス軍は同月9日に発生した、ドギヘルス辺境貴族らによるクーデターに便乗するように最終要塞「ゲート」攻略戦を開始する。
およそ300年続いている戦争。
各陣営の存亡をかけた戦いの初撃は、キャトラス側の新鋭艦3隻の大口径レーザー砲によりもたらされた。
これにより横一列の幅広の帯状に展開していたドギヘルス軍は4つに分断、それぞれがキャトラス軍の包囲攻撃を受け甚大な被害を受けた。
対するキャトラス軍も初戦は制したものの、ドギヘルス軍の物量を一回の戦闘で撃破することは難しく撤退。
攻防は数日間に渡り行われることとなった。
出典「キャトラス300年戦争史」
~ピコ視点~
敵陣左翼、要塞砲建設現場付近の戦場。
スパッ!
そこでピコ率いる近接戦闘班は敵部隊を蹴散らしていた。
『作戦行動終了時間を過ぎました。
マルコシアス隊、全機帰投して下さい。』
アンカーヘッドからの撤退指示。
『ちっ、これからだってのに!』
『シン、ここは退くにゃ。』
『分かってる、殿は任せて貰う。』
『ディック、メグ先に行って退路の確保、
狙撃・支援班、二人に支援射撃。』
『了解した。』
『了解っす!
メグ、行くっすよ!』
『りょーかい。
センパイ待ってよ!』
敵部隊に囲まれた直中から、ディックとメグが後方へ進撃していく。
『待て!』
『逃がすか!』
敵に背を向けた2機のキマイラに敵機が向かう。
『おっと!
お前らみたいなのの相手は俺様だ!』
メキッ!
ゴシャアッ!
機獅子により一機はひしゃげ、もう一機は砕け散る。
『あまりトバさないようにするにゃ!』
これから撤退だというのに機獅子形態となったシンに注意する。
『分かってるって。
『メギッ!』
だからこそだろってな!』
魔力を使用する都合上、消耗の激しい四つ足形態。
戦闘終了に伴ってシンは全力で暴れることにしたらしい。
ピコと通信しながらも敵機を圧潰していた。
『退路の確保完了、脱出して下さい。』
退路が確保できた以上、戦闘を続ける必要は無い。
確保されたルートを全速力で進む。
『止まれ!』
『行かせんぞ!』
早速敵機が退路を塞いできた。
「死にたくないなら退けにゃ!」
キイィッ!
斬艦ブレードが威嚇するように鳴る。
『馬鹿にしやがって!』
『行かせないと言った!』
しかし敵パイロットにその音が聞こえる筈もなく。
スパパッ!
『げぅっ!』
立ち塞がろうとした2機のパイロットは一名は声をあげることなく、もう一名は短い断末魔をあげ戦死した。
キャトラス宇宙暦3023年8月11日。
マルコシアス隊は全機無事に母艦へと帰投した。
~スノウ視点~
敵陣右翼、要塞「ゲート」大ハッチ前での攻防。
キャトラス側は敵要塞への侵入口を確保するため、本隊の精鋭と複数の独立戦闘機部隊を投入していた。
ゴオォォッ!
要塞防衛のドギヘルス軍ポッドと、侵攻のキャトラス軍戦闘機が入り乱れての戦闘。
ゴォッ
迫る戦闘機にマシンガンを向けるポッド。
ダダダダダッ
乱射される弾丸に当たれば、戦闘機の薄い装甲では一堪りもないだろう。
『当たるかよっ!』
そう“当たれば”の話だ。
生憎と片翼を白に染めたその機体は、そう易々と墜とせる機体ではなかった。
「ティアマット」、ドギヘルス側にそう呼称されるキャトラス宇宙軍の高性能戦闘機は、その機動性を遺憾無く発揮して敵ポッドを翻弄する。
ヴォッ!
『『ガガガッ!』
うおっ!』
対するポッドもティアマトのバルカンに被弾するも、その厚い装甲により撃墜を免れる。
『Fox1!』
ボンッ
しかしティアマトに追従していた通常戦闘機のミサイルにより爆散する。
『野郎!』
ボシュシュウッ
仲間が撃墜されたことに逆上した別機体のパイロットは、ロケット弾を全弾発射。
『ふんっ!』
グンッ
ロブ大尉の操縦するティアマトは沈み込むような急下降で、横合いから撃たれた偏差が考慮されたロケット弾を回避した。
『うわっ!』
ボッ
しかしロブ大尉が回避したロケット弾はそのまま流れ、追従していた機体に命中した。
『間もなく作戦終了時間になります。
ホワイトケートス、退却して下さい。』
「了解、ホワイトケートス退却します。」
『おい、待て!』
追い縋る敵ポッドを置き去りにして、ホワイトケートスは全機撤退を完了した。
…………………。
…………。
…。
要塞「ゲート」攻略の一日目はキャトラス軍の勝利と言える。
一番艦がホワイトケートスの母艦である通称「キャノンヘッド型強襲艦」3隻の「トールハンマー」の過剰充填射は敵軍に大打撃を与えた。
「戦闘機の時代の終わり、か…。」
敵軍を薙ぎ払う大量破壊兵器の実用化、小口径火器では墜とせない装甲のポッドの台頭。
つい数年前まで軍の花形であったティアマト部隊も今では落ち目という話も聞いたことがある。
「確かにそうかもな。」
「!」
独り言のつもりの呟きに返答があり驚いた。
振り向いた先にはパックコーヒーを両手に持つ先輩がいた。
「呆けるなんて珍しいじゃないか?」
そうからかうように言って、先輩はパックコーヒーを差し出してくる。
「飲めよ、話を聞かせてくれるなら奢りだ。」
「ありがとうございます。
……ちょっと考えていたことなんですけど……。」
…………………。
……………。
………。
…。
「……です。」
今回の戦闘で感じたことと、それによって抱いた不安のような漠然とした気持ちを思うがまま話した。
「……………。」
からかってくると思えば、先輩は無言。
纏まりのない話し方だった自覚はある、聞いて貰えただけ少しは気持ちが軽くなったと思う。
「あの、」
「安心しなスノウ。」
話しを切り上げようと声をかけると、先輩は話しだす。
「今は陣取り戦なんだ。
撃ち合う都合でポッドが目立っちゃいるが俺たちが不要になったワケじゃない。
俺たちが不要になる時は平和になって武器が必要なくなった時さ。
それまで俺たちは一番槍を譲らねぇよ。」
要は得手不得手の問題と言っているのだろか?
(そうか、もうすぐ武器が必要なくなるのか…。)
「ま、少なくともお前が現役の内はアノ娘の騎士でいれるさ。」
感傷に浸ろうとすればコレである。
兎に角、先輩に制裁を与えた。
(ふっ…、元気が出たようで。)
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆評価、いいね等、
よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。