21 アンカーヘッド
主人公視点不在
~タマ視点~
「前方の敵艦隊、機雷に接触。
電磁ノイズと爆煙により詳細な成果は不明。」
数で圧倒していて敵を逃がしたくない場合、大体が包囲という選択をとるだろう。
だからこそ2班に、あらかじめ機雷を散布して貰った。
流石に左右どちらか、はたまた左右から敵艦隊が包囲して来るかまでは予想できるほどの要素はなかった。
そのため2班の装備を削ることになったが、効果があったようでなによりだ。
しかしまあ、指揮艦くらいは健在だろう。
「爆煙内にリニアとパルスを撃つにゃ。」
「了解。」
タタタッ、タタタッ、タタタッ!
ドンッ…、ドンッ…、ドンッ!
ミケコに指示すると即座に射撃が開始される。
この部隊でなければ、弾の無駄だと咎められたところ。
ドオォォッ
機雷のダメージを受け、辛うじて残っていた敵艦が沈んだようだ。
「爆煙内より敵艦反応、数1。」
敵艦が撃沈した際の爆発でノイズ等が薄まり、レーダーが機能するようになった。
(予想通りにゃ。)
「射撃止め、障壁持ちにゃ。」
これ以上の射撃は本当に弾の無駄使いになる。
(策はあるにゃ。)
アンカーヘッドは進路と速力をそのままに、後方の敵巡洋艦への反撃の機会を伺う。
~ドギヘルス貴族私兵連合艦隊~
「あ奴らめ、なにを!?」
男爵の艦隊が機雷の爆発に包まれたのもつかの間、爆煙が晴れる前に標的艦は追撃を加えた。
伯爵の脳は状況の理解を拒み、思わず口から言葉が飛び出す。
ドオォォッ
伯爵が喚いたところで状況は変化せず、爆煙の向こうに健在していたらしい艦が無慈悲にも撃沈される。
「艦隊の損耗が間も無く4割になります!」
未確認とはいえ別動艦隊の壊滅は確実、実質的にはもう超えている。
盾役のいなくなった輸送艦隊も、艦載機部隊ごと次々と沈んでいっていることが容易に考えられる。
ある程度の被害は予想していたとはいえ、別動艦隊の壊滅により予想以上の被害が出ることだろう。
標的艦は未だ遠く、主砲の射程圏内に捉えていない。
(くそっ、どうする!?)
仮に標的艦を撃沈できたところで「徒に被害を拡大させた」との評価が免れない事態に陥りかけている。
なんとかしたい伯爵だが妙案は浮かばず、ただ拳を強く握り締めることしか出来ない。
「爆煙内に友軍反応!」
しかし戦いの神は伯爵を見捨てていないようである。
レーダーが健在する艦を捉えた。
「数は!?
詳細報告!」
健在している艦によっては挟撃はまだ成立させられる。
要は、伯爵の艦が標的艦を主砲の射程に捉えるまで足止めできれば良いのだ。
「数は1、男爵様の艦です。」
(よしっ!)
男爵の艦は駆逐艦級、一隻では火力としては心許ない。
しかし男爵の艦隊の旗艦であるため当然障壁装置が搭載されている。
つまり標的艦を沈めることは出来ないが、標的艦に沈められることも無い。
それは現状で伯爵の求める理想の条件に限りなく近いものであった。
~タマ視点~
敵巡洋艦を引き離さないかつ射程に捉われないという、絶妙な距離を保ち航行する艦。
「前方の敵艦、進行ルートに入りました。」
別動隊で唯一残存した障壁持ち駆逐艦。
アンカーヘッドは並の駆逐艦一隻の火力で沈む程、柔じゃない。
「雷鎚充填。」
主砲をいつでも撃てるように用意を指示、艦の進路を下方に修正。
第一、第二エンジンの出力最大、艦が加速し敵巡洋艦を引き離し始める。
そして前方の駆逐艦の横腹が近づく。
「総員、衝撃に備えるにゃ!」
ガッゴオォォッ!
~ドギヘルス貴族私兵連合艦隊~
男爵の艦が健在であることが判明し、伯爵は素早く指示を出す。
「男爵に暗文送信!
「標的艦を止めるように」とな!」
「閣下、標的艦が進路を下方修正し加速しています。
おそらく男爵様の艦をすり抜けるつもりです。」
分析官の報告にレーダーを見ると、確かに標的艦が徐々に遠くなっている。
「構わん!
主砲をいつでも撃てるようにしておけ。」
男爵とてそれくらい把握しているだろう。
現にモニターには男爵の艦が標的艦の進路変更に合わせて船体を降下させていた。
男爵の艦と標的艦の距離は近い。
軌道の修正は不可能で、衝突回避のためには停止せざるを得ない。
伯爵の巡洋艦は停止した標的艦に主砲を撃ち込めば良い。
(たわいもない。)
「標的艦、減速しません!
衝突します!」
ガッゴオォォッ
男爵の艦の横面に標的艦が突き刺さり、慣性で標的艦の後部が浮く。
(ええいっ!)
後部が浮いたことにより、直接ブリッジを狙えなくなる。
「閣下!」
逡巡した伯爵だが副艦長の呼び掛けに、主砲であれば大した問題でないと思い切る。
「撃て、撃てぇいっ!」
「主砲一番から三番発射っ!」
ドドドンッ!
伯爵の号令に、遂に主砲が火を噴いた。
ヒュルルッ
砲弾は一直線に縺れ合う二隻の軍艦に向かい、
ドドドオォッ
全弾が命中した。
「はっはっは!
遂にやってやったぞ!」
砲撃を受け火煙を上げる艦に、見えにくいながらも十分なダメージを窺える。
その様子に伯爵は歓喜の笑いを上げる。
「閣下っ!
標的艦は健在!」
分析官の報告に冷や水を浴びせられる伯爵。
(馬鹿なっ!?)
砲撃は確かに命中した。
(ぎりぎり撃沈を免れたか?)
「次弾装填、急げ!」
(次こそ完全に沈めてやる!)
そう決意した伯爵であるが、それが果たされることは無かった。
ボフッ
「標的艦、見えました!」
「なんだ、あの機動は!?」
火煙から飛び出した無傷の標的艦。
副艦長が驚愕した機動。
それは艦の機動ではあり得ない、火煙を中心とした弧を描く縦滑りの機動であった。
イメージはバ○ル・シ○プと鉄○一期ですね。
ネタバラシは次回
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