表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/177

19 転ずる


ヒュッ、バチッ!


[Recharge now...]


 機体の各残エネルギーの表示が明滅し、再充電されていることを知らせて来る。


『隊長、大丈夫ですか?』


 有線通信でトーマスが聞いて来る。


「問題無しにゃ。

 ところで作戦はどうしたにゃ?」


 実は手首の痛みで機体の操作が遅れて撃墜手前であったことなどおくびにも出さず、論点のすり替えを行う。


『すみません。

 実は早々に発見されてしまって…。』


 申し訳なさそうに理由の説明をするトーマスだが、ピコは元よりマルコシアス隊の誰も彼を責めはしない。

 

「謝らなくていいにゃ。

 トーマスのおかげで上手く行っているにゃ。」


 武器こそ長物(対艦ライフル)だが、メインの装備は多目的ケーブルと大容量バッテリーだ。

 早々に発見されてしまったのもデブリに擬態するには不自然な(バッテリー)と、有線通信のためのケーブルの回収に手間取ったからであるだろう。


[Full charge]


「リチャージ完了、助かったにゃ。」


バチンッ


 半分程まで減っていた本体バッテリーと、パルスガンのチャージにかかった時間は僅か数秒。

 ケーブルの接続を解除して戦闘に復帰する。


「隊長、これ(対艦ライフル)を!」


「パルスガンとこれ(斬艦ブレード)があるから大

 丈夫にゃ。

 方針はいつも通り「いのちだいじに」にゃ。」


ゴォッ!


 スラスターを吹かし、乱戦に加わる。


「ちょ、隊長!」


 制止するトーマスの声を背に受けて。






~トーマス視点~


 あっという間に離れて行ってしまった隊長。

 手元には弾が何発か減ったライフルと、未使用のライフルの長物2丁。

 これはデブリに隠れて撃つ前提の装備で、取り回しが悪い。

 激しく移動する必要のある今、正直言えば邪魔になる。

 遠距離攻撃の手段に乏しい隊長に体よく渡す試みは、即時に失敗した。

 だからつい、愚痴が口からこぼれる。


これ(斬艦ブレード)があるからって…。

 それもう鈍器じゃないですか。」


 未使用の高火力武器よりバッテリー切れの大剣。

 その選択が隊長らしく、なんともいえない気持ちになった。
















~ドギヘルス貴族私兵連合艦隊~


ズドオォォン…


「一番輸送艦撃沈、全軍の損耗が3割を突破!」


 まんまと罠にかけられた連合艦隊。

 伏兵の狙撃を受け、輸送艦を改装した簡易空母がまた一隻沈んだ。


「ぐぬぅ…。

 敵はまだ見つからんのか!?」


 幸い…かどうかは別として、敵の狙撃頻度はそれほどでもない。

 艦載機部隊が狩り出しを行っているのも理由の一つであろうが、そもそも数自体が多くない筈なのだ。


「発見の報が一件ありますが狙撃は継続されていま

 す。」


 二度目の狙撃を受けた際、たまたま発火炎(マズルフラッシュ)が目撃され発見に至った敵機。

 その機体はポッドサイズの対物ライフルを二丁も装備しているという報告が上がった。


(正規軍の開発部は愚図ばかりかっ!)


 生身で対物ライフルを二丁扱うことは困難だが、機械ならば出来ないこともない。

 そもそもポッドのアームを遊ばせている時点で無駄なのだ。

 

(後で陛下に開発部の予算カットを上奏しなければ。)

 

 幸いにも敵の狙撃は電磁障壁を貫く威力は無い。

 そのことに伯爵は僅かに余裕を取り戻した。

 しかしその余裕は、残念なことに余計な思考に消費される。


T(ターゲット)5がT(ターゲット)1に接触。

 ……補給が行われたようです!」


 通信官からあげられた前線の状況報告は、エネルギー切れが迫っていた敵隊長機が再び猛威を振るうことを示している。


(厄介な…ん?

 損耗が3割、敵機を5機確認、全機補給を一回…。)


 忌々しさに口の中が苦くなりかけた伯爵であったが、悪い知らせに遊んでいた思考が冴えた。


(多大な被害が出ると言えど無限に戦えるわけではな

 い。)


 至極当たり前な、しかし重要なことに気付いた伯爵。

 戦争は数、これは直接的な戦力に限らず当てはまる。

 連合艦隊が未だに戦線を維持出来ているのは遠慮なく弾を撒ける環境かつ、敵が慎重な戦い方をしているからだ。

 

(この均衡は容易く崩せる!)


 そう、善戦している敵部隊は実のところ薄氷の上を歩くような状況で戦っていた。


(男爵の艦隊は……よしっ!)


 回り込んでいる男爵の艦隊の位置も良い。


「障壁を有する艦は当艦に続け!」


 伯爵は全艦に命令を下す。


「閣下!?

 それでは後方が…。」


 艦を動かすことを察した戦況分析官が難色を示す。

 というのも障壁持ちの艦は輸送艦隊の周りに布陣しており、流れ弾や狙撃から防御力が皆無に等しい輸送艦の盾となっているからだ。


「動かねば被害が拡大するだけだ!

 …それとも何か?」


 伯爵は暗に「代案が無いなら口を出すな」と言う。


「…申し訳ありません。

 それで…、どうするおつもりで?」


 生半可な代案を出したところで強権を発動されるのが落ちであると覚った分析官は引き下がる。


「うむ。

 我輩とて無駄な被害は望まん。

 だから大を生かすための犠牲を覚悟せねばならん

 のだ。」


 フンッと鼻から息を吐き、伯爵は「仕方ないのだ」とアピールをする。


「貴官らは敵が弱みを出すまで耐えるつもりか?」


 伯爵が話す間にも戦場では兵がまた一人散っていく。


「それはチャンスであるがその機会は少なく、また瞬

 く間に無くなってしまう。」


 伯爵の言うように一機撃墜する機会が来るまでに3割が犠牲になったが、成果は出なかった。


「ならばそのチャンスを作り出し、継続的なものにし

 ようと思う。」


 「どうやって?」それが伯爵の言葉を聞く者達の総意だろう。

 それが出来ないから苦労しているからだ。


「そのために(みな)にも同胞を犠牲にする覚悟

 を持って協力して貰う。

 これが成功したあかつきには我輩達の勝利が決ま

 る。」


 そして散々引き延ばされた作戦の概要が伯爵の口から語られる。


本丸を討つ(標的艦を沈める)のだ!」


「「「「「!」」」」」

 


 それはこの戦闘の目的でありながら、誰もが見失っていたことだった。

 

元から絶つのが手っ取り早いって話です。

まあ、それが出来ないから苦労しているのであって…

Aを作るのにBが必要だけど、Bを得るためにA’が必要。

みたいな?



いつも読んでいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆評価、いいね等、

よろしくお願いします。


感想、レビュー等もお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ