17 炸裂
ギリセーフ!
『隊長、待たせたな。
一旦下がっても良いぞ。』
再度仕掛けるタイミングを図っていると、シンからの通信が入る。
3機とも補給が完了したようだ。
補給のみの作業とは言え、対軍装備の武装ラックは多い。
その作業を短時間に3機とも完了させる整備・補給班に脱帽する。
「問題無いにゃ。」
部下を信頼していないわけではないが、奥の手があり斬艦ブレードがある以上補給は不要だ。
『弾も無いみたいだが?』
一見気に掛けているような言葉だが、態とだろう。
シンは直情的ではあるが、敵に通信が傍受されているなかで味方の弱みを曝すような真似はしない。
おそらく、敵機に接近しては全力で後退されるピコのサポートのつもりだろう。
『墜ちろ、刃持ち!』
現に間接攻撃手段が無いことに有利を確信した敵機が仕掛けて来た。
ダダダダッ
下がりはしない。
ゴォッ!
『正気かっ!』
一撃離脱をねらったのだろう。
反転のために速度が落ちた敵機に真っ直ぐに向かっていく。
ガガッ!
数発の被弾。
だが敵機はリーチに入った。
スッ…スパッ!
突き出したブレードの切っ先は抵抗無く深々と刺さり、そのまま上方に離脱すると敵機を縦に切り割いた。
『っ…!』
無線からは何も聞こえて来ないが、敵のポッド部隊がたじろいだ雰囲気が伝わる。
弾が無くとも戦闘力は健在だ。
(次はどう出るにゃ?)
ピコの口は歪な弧を描いていた。
~ドギヘルス貴族私兵連合艦隊~
『敵部隊の隊長機は弾切れ』
傍受した無線からもたらされた味方部隊の優位を示す情報に湧いたブリッジ内。
直後、好機とみた勇士が果敢に挑んだ。
しかし彼らは忘れていた。
標的艦の部隊、その隊長機が何と呼ばれているか。
「刃持ち」、その異名を忘れた代償は勇士一名の命と全軍の士気の低下であった。
しかし伯爵ら上官が悪いわけではない。
希望を抱いたのは事実を知った者、そして今散った勇士の戦闘を目撃した者全て。
たった一機で殿を務めきった機体の初の被弾。
それは余りにも大きな希望となってしまったのだ。
だからこそ伯爵は指揮する。
「敵隊長機には最低一個小隊であたれ!
他は周りの牽制、まず一機を確実に撃墜しろ!」
万全であれば一機で一軍を相手に出来る敵隊長機。
しかし確かに一機撃墜するために被弾した。
それはつまり一対多をこなせる敵が、一対一で互角というところまで消耗していることに他ならない。
当たらないから撃墜出来ないのであって、当たりさえすれば撃墜可能なのだ。
雑兵十数で首級を討てるのであれば、非常に安いもの。
伯爵の非情な指示、しかしこれを理解する士官らは目を逸らすのであった。
~マルコシアス隊 ピコ視点~
スパッ!
また一機、ブレードの餌食となった。
『討った!』
ダダダダッ!
撃破直後の姿勢回復中の襲撃。
(あ~…、これは回避不可にゃ?)
ピコの思考とは裏腹に、機体は動かない。
ガガガッ!
「うっ…。」
被弾の衝撃に声が漏れる。
『畳み掛けるぞ!』
『応!』
離脱した機体と入れ替わりに、2機が襲撃して来る。
(調子に乗る、にゃっ!)
ブゥンッ!
大きく横に振られるブレード。
『あ!』
『マズッ』
スパパッ!
隣合って襲撃して来た2機は横一文字に両断される。
『三番隊壊滅です!』
集中的に攻撃されるようになってから10機前後。
3つ目の小隊を退けた。
だが流石に無補給は厳しかったようだ。
キュウゥ…
ブレードが停止し、唯の頑丈な金属板になる。
(…潮時にゃ。)
レーダーを見てそう思う。
『四番隊、いくぞ!』
『おおっ!』
『了解!』
(うるせぇにゃ…。)
ブンッ
『ヒャッハ』
ズガッ!
ピコに襲いかかる、否襲いかかろうとした4つ目の小隊。
その内の一機、どこか世紀末なパイロットの機体は、ピコが適当に放り投げたブレードで雑に撃破されたのであった。
~ドギヘルス貴族私兵連合艦隊~
一対一で手一杯なら、複数をぶつければ撃破は容易。
そう考えた伯爵を誰が責めれようか。
武器はその異名の理由となった大剣のみ。
それなのに敵部隊の隊長機は被弾などしていないかのように3つの小隊を壊滅させた。
(何故だ!?)
伯爵の脳内をループする思考。
だが口からは指示が出る。
「次の部隊をぶつけろ!」
(被弾は多い。
次だ、次こそは…!)
作戦は上手く行っている筈。
標的艦は逃走を続け、他3機の牽制も出来ている。
(上手くいく筈なんだ。)
伯爵の懇願のような思考は、艦の観測カメラが捉えた映像に中断される。
(武器を投げただと!?)
あまりの暴挙に一瞬止まった思考を再開し、新たに指示を出す伯爵。
「奴は無防備だ!
待機している者もかかれ!」
逃がさぬよう囲んでいた10機程が「刃持ち」に殺到する。
そして、
ドドドドッ、ドゴオォッ!
艦隊の後方から、いくつもの大規模な爆発の衝撃が届いた。
「な、何だ!?
何が起こった!」
「重火力火器による攻撃!
伏兵です!」
「何だと!?」
伯爵はようやく気付いた。
自分たちが敵を追い詰めていたのではない。
自分たちは敵に誘い込まれ、自ら追い詰められにきたのだ、と。
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