16 虎視眈々
短め&遅刻
前回に続き大変申し訳ありません。
にもかかわらず評価・ブックマークありがとうございます。
おかげ様で総合ポイント100となりました。
今後も本作をよろしくお願いします。
~ドギヘルス貴族私兵連合艦隊~
「ポッド部隊の損耗が3割に達しました。」
そう報告する分析官の声には、僅かに驚愕が含まれていた。
(これ程とは…。)
標的が逃走を開始したのは艦隊の2割が損耗した時だった。
内訳としては艦の損耗割合が大きく、ポッド部隊の損耗としては2.5割程であった筈だ。
隊長機を残して標的艦の艦載機は撤退。
逃げ足の速い標的艦を鈍らせるためにポッド部隊に追撃させているが、この残った隊長機に打ち払われているのが現状だった。
つまり隊長機単機に連合艦隊のポッド部隊の5%を撃破されたということだ。
これには流石の伯爵も舌を巻く。
(だが単機だけで戦争は出来んのだよ。)
デブリ帯に入り込んだがゆえに、自慢の足の速さを殺した標的艦。
一瞬「取り逃がし」が過った標的艦には、伯爵家私兵艦隊旗艦である重巡洋艦の主砲が向けられていた。
~マルコシアス隊~
デブリ帯に向かう一隻の軍艦と、それに続く小さな一つの球体。
間を開けて多数の直方体が続き、更に後ろに間が開いて多数の軍艦。
パッと見ではまるで、親鳥と雛鳥そして親子鳥を狙う捕食者のような構図となっている。
しかし実態は異なる。
タタタッ、タタタッ、タタタッ!
ボッ、ボンッ
(間怠っこしいにゃ。)
中々減らない追っ手に少々苛つくピコ。
減らし過ぎも良くないが、意図していない抑制はストレスになる。
チカッ…、チカッ…
モニター端の点滅が、パルスガンのエネルギー切れが間近であることを警告している。(警告音は事前に消音している)
(弾が無いならしょうがないにゃ?)
直後球体が直方体の列に突っ込んで行き、列が大いに乱れた。
『うわぁあっ!?』
『きっ、来たぞ!?』
『退避ぃ!』
スパッ、
退避が遅れた機体の一機が、悲鳴も無く断たれる。
グルッ、バゴッ!
流れるように、大剣の腹が別の機体に叩きつけられる。
『ぐがぁっ!』
飛ばされる機体、パイロットはまだ生きている。
だがその機体の悲劇は終わらない。
『なっ!?』
驚愕の声をあげたのは、また別の機体のパイロット。
ガゴォンッ!
『ぐぇっ…』
『おわぁっ!?』
衝突する2機のドギヘルス軍ポッド。
バチバチ…
『無事か!』
呼び掛けるのは、これまた別の機体のパイロット。
火花を散らす2機は沈黙している。
『応答しろ!
…おい!』
『…うっ、ぐぅ…。』
呼び掛けのかい有り、反応が返る。
バチバチ、バチバチバチ…
『!
しっかりしろ、今』
反応が返り声に喜色を滲ませるパイロット。
バチッ
パイロットが言い切る前に火花が弾けた。
ボボンッ
衝突した2機はレーダー上から消失する。
一度の強襲で3機撃墜。
隊列が乱れたことで、元々開いていた間隔が更に開く。
(上々にゃ。)
艦とリンクしたレーダー表示を見て、ピコは思う。
『ピピッ』
「ん?」
接近警告にレーダーを確認すると、敵の一機が突出して向かって来る。
『このおぉぉっ!』
ダダダダダッ
当人としては決死の突撃。
だが端から見れば、その行為は蛮勇でしかない。
クンッ…
僅かに速度を落とすだけで、偏差を考慮した射撃は外れていく。
すっ…
ブレードを横向きに倒して保持する。
『あっ…』
スパン…!
射撃を回避されても突撃の勢いそのままの敵機は、自ら刃に当たり4機目の撃墜となった。
(これはエゴにゃ。)
敵は殺したい、でも敵が殺すのは許せない。
明らかな矛盾。
しかしそれは誰しもが抱く気持ちだ。
ピコも圧倒的な力を振るうが、たった一部隊を追い回すドギヘルスの貴族私兵艦隊には理不尽を感じている。
戦争はエゴとエゴのぶつかり合いだ。
それらしい大義を掲げたところで“絶対的な正義”など有りはしない。
だからこそピコは、ピコの大切なものを守るために戦うのだ。
そのために平和が必要なだけなのだ。
~ドギヘルス貴族私兵連合艦隊~
「敵艦載機が再出撃したもよう。」
(逃げ切れないことに気付いたか。)
キャトラス軍艦はドギヘルス軍艦より速いのは常識となって久しい。
新型と思われる標的艦も従来型の駆逐艦より遥かに速いことが確認された。
しかし速さで言えば、いくらキャトラスの新鋭艦と言えど艦載機に敵うものではない。
ましてやデブリに阻まれ全速を出せず、囲まれつつあるという状況では振り切るのは難しい。
ならば一か八かで敵の撃退という選択を取るのも、戦闘力に自信があるのであれば有りと言える。
但し“有り”というだけで有効かと言えばそうでもないとしか言えない。
可能性が0から1になった程度。
伯爵は断じる。
(まあ、誤差だな。)
実に貴族らしい考え方と言える。
だが0から1と1から2では差が同じ1だとしても実態は異なる。
何故ならば0から1は言い換えれば無から有になることに他ならないのだから。
次回「炸裂」
お楽しみに!
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