12 理由は
ドギヘルス所属の艦隊と遭遇すること9回、マルコシアス隊率いる先行艦隊は無事に中間地点に辿り着いていた。
ウウィーン
「オーライ、オーライ。」
「そのコンテナは向こうに持って行ってくれ。」
『分かった。』
…ゴォ
「まだ物質はあるか?」
『……………。』
「そうか、了解した。」
そして現在先行艦隊は一時的に停泊して最後の補給作業が行われていた。
「物質の補給状況はどうにゃ?」
「アンカーヘッド」に積載されている物質を一括で管理しているバリキリー大尉に尋ねる。
「随伴一番艦の補給用物質は空、二番艦の補給物質は
一割程余りそうです。」
「それは良かったにゃ。」
マルコシアス隊はこれまでの9回の戦闘で、特に制限などは設けていなかった。
そのため補給物質が不足する可能性もあった。
しかし不足するどころか、引き返す随伴艦隊に余剰を残せたのは最良以上だと言える。
(仮に補給物質が不足した場合、艦載機運用用の物質が譲渡されるのは想像に難くない。
遭遇した敵艦隊は悉くを殲滅したものの、引き返す際に敵艦隊に遭遇しないとも限らない。
マルコシアス隊のような真似が出来ない以上、物質があるに越したことはないのだ。)
……………。
………。
…。
数時間後、補給作業が完了し、作業をしていた部隊も母艦に引き上げた。
これより先はマルコシアス隊のみでの「アンカーヘッド」単艦任務となるのだ。
『これより我々は引き返す、ここまで世話になった。
マルコシアス隊の武運を祈る。』
「世話になったのはお互い様にゃ。
全員が無事に帰還することを祈るにゃ。」
艦隊の指揮を引き継いだ随伴艦一番艦の艦長からの通信に、最早定型となった返答をする。
『有り難い。
……無事に再会出来たら祝杯を上げよう。』
引き返すと言っても、彼らは本隊として「ゲート」攻略戦に参加するだろう。
つまり再会するとしたら終戦後になる。
(『旗にゃ?』)
“私”が不謹慎なことを言っているが、これは誓いだ。
生き残ることは勿論のこと、五体満足かつ勝利してということなのだ。
「楽しみにしておくにゃ。」
「『キャトラスに平和と繁栄を』」
その通信を最後に随伴艦隊はエンジン出力を上げ、マルコシアス隊の進路とは逆に小さくなって行ったのであった。
「バリー大尉、中間地点通過の連絡を入れるにゃ。」
「俺はもう少し経ってからが良いと思うぜ?」
生存報告を兼ねて任務進捗報告をバリー大尉に指示すると、シンが止めに入った。
「何故でしょうか?」
バリー大尉が理由を問うとシンは何でもないように答える。
「随伴艦隊が“巻き込まれる”からな。」
シンの言葉にバリー大尉も察したのか視線が鋭くなる。
元々この任務は囮のようなものだ。
ドギヘルス側にとって最大級と言える功績である「エース級部隊の撃退」。
王家に取り入りたい貴族は私兵団を差し向けることだろう。(実際に同じ貴族家の私兵団との遭遇が多い)
シンの“巻き込まれる”との言葉は、マルコシアス隊の位置情報が敵側に流出することを示唆していた。
それが知らされていない以上正式な作戦とはならず、裏切り行為として厳罰ものだ。
「……分かりました、迎撃の準備を整えてから連絡し
ます。」
幸い予定より早く進行している、猶予は十分ある。
マルコシアス隊母艦「アンカーヘッド」は待ち伏せに適した宙域付近に進路を変更。
並行してキマイラ全機の対軍装備換装が行われた。
…………………。
……………。
………。
「シン、ちょっといいかにゃ?」
機体の換装の待ち時間、出撃待機所で戦闘糧食を頬張るシンに話かける。
「……(モグモグ)、ゴクッ…。
それで、どうした隊長?」
口の中身を嚥下したシンが、話の続きを促す。
「どこまで知っているにゃ?」
シンが仄めかした、故意の情報漏洩。
マルコシアス隊に来た当初、シンは「爺さんの頼み」と口にしていた。
つまりその時にはマルコシアス隊がこのような状況に置かれることは確定していたのだろう。
「少なくとも俺ん家とウィング家、将軍は味方と言え
るな。」
ガウル中将は兵を駒や数字で見るようなことを嫌う人格者と名高く、何より孫娘を死地に向かわせるような真似はしたくなかったであろうと予想される。
キングハート中将も、態々シンをつけてくるあたり敵ではないと言える。
しかしキングハート中将の裏の渾名が「脳筋」である以上、単に孫を死地で鍛えるためという考えも無くはないので微妙なところである。
そしてタシロ将軍だが、いくらキングハート家とウィング家の現当主の提案であっても、直令に全員の名を書かせる程の力は無い。
なのにそれが実現しているということは、将軍の働きかけがあったのだろう。
(一応の筋は通っている、にゃ?)
当然三家に追従する、いわゆる派閥員も直接的な敵ではない、と。
「……復讐にゃ?」
中将のキングハート家やウィング家が強く糾弾出来ない権力を持っているとなると、妬みでないことは確かだ。
心当たりとしては、復讐の可能性が高いのだ。
当時マルコシアス隊ではなかったと言えど、半数近くのメンバーが関わった事件をきっかけに中将階級の者が処刑されたことがある。
処刑された中将の派閥員が恨みを抱いていてもおかしくは無い。
またスタイン家とも浅くない因縁があると言える。
そう思考していると、ピコの呟きが聞こえたのだろう。
シンが首を横に振る。
「そんな大層なもんじゃねぇ。
爺いが権力の使い方をミスっただけだ。」
シンはそれきり無言になる。
権力の使い方を失敗して何故マルコシアス隊が死地に向かわせられるのか?
シンへの尋問とも言えない会話は、解せないものを残して終了したのであった。
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