10 囮悪魔隊 ~Scape team~
お待たせしました。
新年1話目の本編になります。
仮設前線基地「双子小惑星」。
元要塞「マズル」の残骸を利用して設営された物資集積・補給基地である。
特徴としては、二つに割れた要塞「マズル」を構成していた小惑星に架けられた屋外艦用ドッグだろう。
このドッグでは戦艦クラスの艦を、同時に十数隻係留が可能である。
また小惑星部分の元屋内ドッグであった空間を物資保管所として利用することで、本隊の1/3の艦隊の完全補給を可能とする。
現時点では基地内の整備が整っていないため「仮設」とされているが、一大補給拠点であることには違い無い。
マルコシアス隊母艦「アンカーヘッド」は昨日ここに到着し、マルコシアス隊と同時にドギヘルスの最終要塞「ゲート」に先行する駆逐艦隊を待っていた。
速度の違いから第三宙域前線本部基地よりマルコシアス隊に先行して出発していた駆逐艦隊であったが、従来型駆逐艦の巡航速度の倍速である「アンカーヘッド」が途中で追い越してしまったのだ。
「どうせなら俺たちだけで行けば良いのによ。
ご苦労なこった…。」
艦内の通路の手摺にもたれ掛かり宇宙を眺めていると、シンが隣に来て独り言ちる。
シンの言葉に、将階級の者が参加する上層会全員の連名による直令を第三宙域前線本部基地で通達された際のことを思い出す。
…………………………
「先行部隊による進路の確保、か…。」
バリー大尉から直令の内容を聞いたガイウスは難しい表情で考え込んでしまう。
直令の内容としては「本隊侵攻に先行しての、侵攻ルート付近の脅威の排除」という、要塞「マズル」侵攻時にも行われた任務である。
しかしそれと今回は事情が異なっていた。
第一に、「マズル」侵攻時には数ヶ月かけて行われたルートの確保であったが、今回は本隊侵攻時間の関係上、無補給での敵陣突破を成功させなければならない。
第二に、この敵陣突破はマルコシアス隊単体での任務である。
侵攻ルート上にはドギヘルスの貴族私兵団が多数待ち構えていることが判明しており、対多数の連戦が確実である。
更に貴族私兵団は総じて正規軍よりハイグレードな装備であることが予想される。
つまりマルコシアス隊は単艦二個小隊で、武器・弾薬を節約しながらいつもより強い敵を相手とした連戦を強要されているのである。
いくら直令と言えど、出るところに出ればこれを命令した者は唯では済まないだろう。
それほど事態は逼迫している状況であり、故に異例の上層会全員の直令となったのであろう。
若輩部隊であるマルコシアス隊に回された新鋭艦や、隊の増員に装備の強化はこのためが一番大きな理由となるだろう。
……………………………
話を現在に戻す。
シンの言う通り、本来マルコシアス隊単体の任務であるため駆逐艦隊を待つ必要は無い。
むしろ、早く任務を開始しなければならないという状態なのだ。
更に言ってしまえば、駆逐艦隊が二個小隊増えたところで任務の難易度に変わりは無い。
その駆逐艦二個小隊は第三宙域前線本部基地司令長官(階級は小将)の呼び掛けで志願した者達である。
その心意気を無下にする理由もなく、いないよりはいた方が良い。
直令には単体任務とされていたが司令長官が追加で艦隊を采配したあたり、必ずしもマルコシアス隊のみで任務を遂行することはないのだ。
シンとしても足手纏いという意味では無く、危険度の高い任務に態々参加するようなことをしなくても良いという考えからの発言だろう。
番長タイプの雄ではあるが、その中でも面倒見が良く舎弟に慕われるタイプであるとみえる。
「フロス中佐、任務補助艦隊が間も無く到着するよう
です。」
「分かったにゃ。」
バリー大尉に呼ばれ、その場を後にする。
その後、到着した艦隊の各艦長8名に任務協力の感謝を伝え、任務の打ち合わせを行った。
その結果、駆逐艦隊は予定ルートの半分の距離まで武器・弾薬を満載してマルコシアス隊に同行。
戦闘は主にマルコシアス隊が担当し、中間地点で可能な限りの補給を行った後単艦での任務を続行、駆逐艦隊は「双子小惑星」に引き返すこととなった。
おかげで補給の問題が緩和され、駆逐艦隊をなるべく矢面に出さず協力として分かり易い動きに出来たと思う。
「………。」
「…何にゃ?」
「…いや、別に。」
何か言いた気な視線を送るシンに尋ねるも、シンは素っ気なく立ち去っていった。
…………。
…。
駆逐艦隊が到着した2日後、マルコシアス隊を先頭として、最終要塞「ゲート」侵攻ルート先行隊は「双子小惑星」を出撃したのであった。
~第三宙域前線本部基地~
「「双子小惑星」より先行隊が出撃したとの連絡が入
りました。」
基地に集結した部隊や運び込まれた物資の把握に慌ただしくしている司令長官に報告が上がる。
「続けろ。」
資料に目を通していた長官は一端資料を置き、詳しい報告を聞く態勢になる。
「はっ!
マルコシアス隊と志願隊は一時間前に「双子小惑
星」を出撃。
提出された作戦行動予定によると、両隊は敵要塞
「ゲート」までのルート中間まで行動を伴にし、
以降志願隊は引き返すとのことです。」
ここまで聞いて長官は安堵する。
マルコシアス隊に単艦敵陣突破任務を下すことに同意した長官であったが、隊員の平均年齢が50にも満たない部隊に重責を負わせることに後ろめたさを感じていた。
せめてもの協力として自らの権限において志願による随伴隊を編成したものの、やはり随伴隊のことも気にかかった。
長官は随伴志願隊が途中で引き返すという報告を聞き、マルコシアス隊に途中までとはいえ協力出来たということと志願隊が無事に帰って来そうだということの二点で安堵したのであった。
しかしマルコシアス隊には知らせていない、更なる困難に追い込むことに良心が痛んだ。
「そうか…。
では、予定ルートの中間以降のマルコシアス隊の動
きをドギヘルス側に流出させるように。」
敵のトップであるガウルフ王家はマルコシアス隊の隊長機に固執している。
王家の覚えを良くするため貴族私兵団はマルコシアス隊に群がるであろう。
そうすれば、より射ち漏らしが無くなる。
そんなフォレスト派の秘密作戦が遂行されようとしていた。
マルコシアス隊はともかく、従来装備の志願隊は全滅確実の強制任務になります。
奇しくも第一章にかかるタイトルとなりました。
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