Another ピコ達の正月休み
正月スペシャル大増量(同社比2倍)でお送りするif編です。
挿し絵擬人化のためイメージ崩壊注意です。
~本編とは異なる世界線~
年を新たに、これからの一年が良くあることを願う3日間。
現代ではほぼ全ての業種が一斉に休む大々的な休養日。
ピコは婚約者のミーコと恋人のナナサを連れて実家へと帰省していた。
「う~…寒さむ。」
久方ぶりに感じる実家のある地の寒さに縮こまるピコ。
そろそろ昼になるというのに気温は氷点下だ。
それでも学生の頃はアンダーシャツにトレーナー、ナイロン製ジャンパーにネックウォーマーで十分だったはずなのだが…。
(ミーコ達は暖かそうにゃ…。)
慣れ故に地元の寒さを舐めていたことを激しく後悔しながら連れ二人の服装を見る。
ミーコは発熱素材のアンダーシャツとお洒落なウィンドブレーカーを着込み、耳当て、手袋、マフラーと完全防寒装備である。
ナナサは厚手のロングコートの下に何枚も重ね着をして、自前の毛皮も合わさりモッコモコである。
ビッビッ!
駅から外に出ると、黒ママが愛車の4WDで迎えに来てくれていた。
駅周りは除雪されていてアスファルトの舗装面が見えていたが、黒ママの4WDのフェンダーに付着した雪塊から、実家の方は路面が雪に覆われていることが分かる。
「ピコ、何突っ立てるの?
早く乗りなさい。」
ミーコとナナサは既に黒ママの4WDの側に行っており、ピコ待ちの状態であった。
黒ママに急かされたことで早足で寄り、車に乗り込んだ。
「まったく、震えてるじゃないの。」
呆れたように言いながら暖房の温度を上げる黒ママに、ピコは「ああ、帰って来た。」と実感するのであった。
…………………。
…………。
駅から車に乗ること30分。
国道から少し入り込んだ農村の一角に実家はある。
黒ママと白母さんの二人で暮らすには大きい、しかし周りの家と比べると同等か少し大きい程度の家だ。
黒ママと白母さんが駆け落ち同然に母さんの実家(=ピコの祖母の家)を出た際、娘家族と暮らすために出て行く老夫婦から安く譲り受けたらしい。
外観と内装の一部は現代風にリフォームされているが、大部分が現代では珍しい東方風・降雪地様式の家屋となっている。
「ピコちゃんお帰り~♪
ミーコちゃんとナナサちゃんもようこそ♪」
車から着替え等の荷物を下ろし玄関に向かうと、白母さんが相変わらずのふわふわ具合で迎え入れてくれる。
「ただいまにゃ。」
「「お世話になります。」」
それぞれ白母さんに挨拶を返し、家に上がる。
「お昼はまだでしょ?
麦餅汁作ったから食べて。」
麦餅汁とはこの地方の郷土料理で、醤油仕立ての野菜たっぷりのだし汁に、小麦粉に水を加えて固めに練ったタネをちぎって入れて加熱した、冬にぴったりな汁物料理である。
「わぁ、いい匂いにゃ。」
ミーコが麦餅汁から漂う香ばしい匂いに期待値を上げている。
…この匂いは鶏ガラだろう。
環境への配慮からこうした田舎村でしか見られなくなった薪ストーブ、その天板に鍋をのせ水からじっくり煮出した出汁だ。
「お雑煮に似てますね。」
ナナサの言うように、汁に白い塊が入っている様はお雑煮に通じるものがある。
初等部二年生(8才)の頃に地域学習で調べたことによると、麦餅汁は農民の主食であった麦の粉を練り当時貴重品であった米の餅に見立て、腹が膨れるよう食べられる野草を纏めて入れた、いわゆる疑似お雑煮と言える料理であったらしい。
しかし今目の前に置かれる麦餅汁は、沢山の有機野菜と肉厚で甘い雪下キャベツが、地鶏の鶏ガラから染み出した上質な脂を纏い、窓から入る日光で輝いている。
「召し上がれ♪」
「「「いただきます((にゃ))。」」」
…………………。
……………。
………。
地鶏と野菜の旨みを堪能し、ピコ達は東方様式の客間で寛いでいた。
「これが話に聞いたコタツ何ですね。
とても暖かくて気持ち良いです。」
そう言うナナサは白母さんが用意していた“ちゃんこ”に身を包み、一番東方様式を楽しんでいる。
ナナサは元々ドギヘルスの貴族令嬢、様式的には西方様式の生活に近く、暖房家具と言えば暖炉類であったのだろう。
因みにキャトラスでは炬燵は現役バリバリの暖房家具であり、毎年冬には“こたつむり”が大量発生している。
そのためミーコは慣れており、優雅に小魚スナックをかじっている。
その様子はミスマッチながら、どこか玄人の雰囲気が滲み出ていたのであった。
……………………………。
………………………。
…………………。
……………。
帰省2日目、ピコ達3人はクロナに連れられ、祖母の家とはまた別の山道を4WDで揺られていた。
「流石は雪郷、どこを見ても真っ白にゃ。」
外を眺めていたミーコは言葉とは裏腹に、目を雪で反射した光で一層輝かせ白銀の景色を眺めていた。
そしてナナサ。
キュッキュッ、キュ~、キュ
「ピコさん見て下さい!
ピコさんです!」
ナナサは結露した窓に指で絵を描いていた。
「自信作です!」と興奮して見せてきた絵は非常に精巧に描かれていた。
ピコも幼少の頃やった遊びだ。
そのため結露の落書き遊びの欠点も熟知している。
つつー…
「あ“~っ!
せっかくの自信作が~!」
指先で集められた結露が自重と振動により垂れた。
よりによって水滴が垂れたのはピコの絵の目元。
まるで涙を流したように見え、元の絵の精巧さが相まって若干ホラー感がある。
そしてこれを皮切りにしたように絵の各部から続々と水滴が垂れる。
「ああ~っ!」
ナナサがまた悲鳴を上げるも、数分後には見るも無惨な結露アートとなっていた。
…………………。
…………。
ギュッ
自信作が台無しになり、ショックを受けたナナサを宥めることしばらく、車が停止する。
「…防寒対策はばっちりだね。
この先はこれに乗って行くよ。」
車から降りたピコ達の服装を見回し、黒ママが太鼓判を押す。(ピコ達は用意されたものを着ただけだ)
「何ですかこれ?」
「一人乗りの雪上車にゃ?」
黒ママが示すそれに、雪に馴染みのない都市部育ちのお嬢様二名は興味津々である。
一本のキャタピラーにハンドルバーに直結した二本のスキー。
雪上用の単車と言えるそれはスノーモービルである。
そう。
これより我々はスノーモービルを駆り、冬の山でツーリングを楽しもうというのだ!
…………………。
……………。
………。
ブオン、ブオォーッ…
冬山に二台のスノーモービルのエンジン音が木霊する。
ミーコとナナサは運転が怖いということで、黒ママの後ろにナナサ、ピコの後ろにミーコという二人乗りスタイルでのツーリングとなっている。
「わぁ~!
すごい、速いですっ!」
「振り落とされないようにしっかり掴まって!」
最初はおっかなびっくりであったミーコとナナサも慣れ、ナナサにいたっては片腕を放してより風を受けようとして黒ママに注意される程楽しんでいる。
「…………………。(ジー)」
一方でピコの身体に後ろから腕を回し掴まるミーコは、無言で運転するピコを見ていた。
「…ミーコ、寒くないにゃ?」
「うん…。」
(むしろ顔が熱いにゃ∥∥∥)
視線に堪えきれずミーコに尋ねると熱を帯びた声で返事が返って来る。
背中から伝わる僅かな熱が上がった気がするのは気のせいだろうか?
「なら良かったにゃ。」
(運転に集中しないとにゃ。)
気を引き締め直して、ピコはクロナの運転するスノーモービルに追従するのであった。
…………………。
……………。
………。
「ふわぁ~っ!」
「これは…。」
ツーリングを1時間程楽しむと森が開けた場所に到着する。
樹氷の乱立する山肌に囲まれた遮るものの無い雪原にナナサは声を上げ、ミーコは絶句している。
そして何度かここに来た事のあるピコは婚約者と恋人の様子を見ていた。
「ピコちゃん、どうかしたにゃ?」
スノーモービルから降り、風に髪をなびかせるミーコがピコの視線に気付き尋ねる。
遭難対策に派手な色で微妙になりがちなスキーウェアも、ミーコが着るとお洒落に見えるから不思議だ。
「喜んで貰えて良かったにゃ、と思ってにゃ。」
「見惚れていた」と言えれば良かったのだが、ミーコとナナサという美人の登場に、先客達の視線が集まっていたので誤魔化すしかなかった。
「さあ、テントと道具を借りに行くわよ。」
この雪原の下は分厚く凍った湖だ。
そして毎年冬になると氷上釣りを楽しめるレジャースポットでもある。
そのため雪原にはちらほらと氷上釣りのテントが設営されていて、雪原の端(夏には湖畔になる)にあるコテージではテントと釣り道具の貸し出しを行っていた。
「初めてだけど釣れるかにゃ?」
「沢山釣りたいです!」
ピコ達は手分けして道具を運び、日が暮れる直前まで釣りを楽しんだ。
……………………………。
…………………。
………。
「ふ~…、温まるにゃ。」
日も暮れた夜ピコ達は湖から少し離れた宿泊施設の温泉で、釣りで冷えた身体を温めていた。
「これはいいお湯にゃ。」
現在ピコ達の浸かっている温泉は、毛艶が良くなる効能がある。(と看板に書いてあった。)
何度かここを利用していたが、ミーコの言葉でようやく気が付いた。
「皆さん、お外にも温泉があるみたいですよ!」
そう言うナナサの目は「行ってみましょう!」と雄弁に語っていた。
……………。
………。
「思ったより寒くないにゃ?」
外に出るまで渋っていたミーコであったが、思った程寒くなかったようで首を傾げている。
「内で温まってきたからにゃ。
さ、湯冷めする前に入るにゃ。」
そのまま考え込んでしまいそうなミーコに、理由を軽く説明して入浴を促す。
「雪がキラキラしています!」
内湯より熱めの湯に浸かると、ライトアップされた雪景色にナナサのテンションは下がることを知らない。
令嬢時代の抑圧された生活の反動なのか、ここに来てから子供っぽくなっているナナサに、ミーコと共にほっこりする。
「…ん、ちょっと涼むにゃ。」
熱めの湯で逆上せる前に、湯船の縁石に腰かける。
火照った身体に冬山の低い気温が心地良い。
「ちょっ、ピコちゃん!?」
「はわっ、はわわっ!」
ミーコに呼ばれ意識を向けると、二人共顔を真っ赤にしていて、ナナサにいたっては言動がおかしくなっている。
「逆上せたにゃ!?
早くあがるにゃ!」
慌ててミーコとナナサに露天風呂からあがるように言い、一目散に更衣室へと連れて行ったのであった。
…………………。
……………。
………。
「わぁ、美味しそうにゃ!」
「豪華です!」
温泉から宿泊する部屋に戻れば、ちょうど出来立ての料理が運ばれて来た。
小魚の天ぷらに、山菜の和え物、淡水魚の刺身、角山兎の照り焼きなどがお盆に所狭しと置かれている。
天ぷらと刺身の魚は湖で釣り上げた鮮度抜群のもので、照り焼きの角山兎はナナサが捕ったものである。
というのも道具を借りに行った際に、ナナサが突然頭から雪にダイブしたと思えば、起き上がったナナサの手に掴まれていたのだ。
「わたし耳が良いんです!」
とは、固まるピコ達に、自慢の三角耳をぴこぴこ動かしながらナナサが言った言葉だ。
…………………。
……………。
………。
そんなこんなで一品追加された美味しい夕食に舌鼓を打ち、就寝。
翌日はまた雪山ツーリングを楽しんで帰宅した。
そして更に翌日。
「体には気をつけてね?」
白母さんが玄関で言う。
帰省は終了なので実家を離れ、また中央都市に行くのだ。
「二人もまた遊びに来てね?」
ミーコとナナサにハグをする白母さん。
毎度のことながら愛情深いひとである。
「それじゃ、行って来るにゃ!」
「「お世話になりました!」」
そう言ってピコ達は、ナシロに見送られピコの実家を後にするのであった。
2話に分けようか迷いましたが、ちょうどいい区切りがなかったもので…。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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