9 マルコシアス隊、前線へ
今年最後の更新になります。
ズズズ…ズ…
球体の装甲表面が蠢き、各所の損傷が一枚の装甲板に集約されていく。
ズ…。
装甲表面の流動が止まり、損傷が集約された一枚の装甲板以外が新品同様となった。
「大体はOKかにゃ?」
コックピット内で機体に流していた魔力を止め、誰に言うわけでもなく呟く。
損傷箇所の集約を提案したのは坊であった。
損傷だらけで二つに分かれたシンの機体を回収して帰還したピコの機体を見て、
「形を変えれるのに損傷は直せないんです?」
と、本人的にはちょっとした嫌味のつもりの発言に、「試してみて下さい。」とバリー大尉に有無を言わさせて貰えず指示されたのだ。
「親父っさん、後は頼んだにゃ。」
ちょっとした回想をしながらコックピットから降り、予備の装甲板を用意していた親父っさんに声をかける。
「おう、おかげで作業が大分楽そうになった。
ばっちり整備してやるから任せておけ。
おい、お前らやるぞ!」
親父っさんの檄にトムを始めとした整備班が動き始める。
ピコの機体はすぐに修理が完了するとして、問題はシンの機体…と言いたいところだが、実はそうでもなかったりする。
というのも、決闘での戦闘により真っ二つになったかに思われたシンの機体であったが、四肢と頭部のポッド形態時部品は主に接地脚とアームである。
そして機獅子は前半身に偏った装甲となっていた。
つまり、機獅子からポッド形態に戻した時コアフレームにあたる部分は、見た目程の損傷はしていないのであった。
「始めからこのつもりで…。」
とは、換装用のメタモメタル製外装が通知より1セット多いことを確認したバリー大尉の言葉だ。
加えて、親父っさんがシンの機体のコアフレームを確認したところ、配線類は予めメタモメタル製のものが使用されていたようだ。
「フロス中佐、今後の予定ですが…」
艦格納庫から打ち合わせ室に向かうと、室内にはバリー大尉が待機していた。
「サンライト軍曹、グラスフィールド伍長の二名です
が、このまま我が隊に配属になるようです。」
マルコシアス隊が教導を担当した4名の内、新人二名が正式配属となるようだ。
死亡したウィンドラス元曹長はともかく、ベテランのチェンバー小尉は本隊に戻り部隊の指揮官となるらしい。
「今後マルコシアス隊はキングハート大尉を分隊長と
して、アサメイ小尉も加えた二個小隊編成での活動
を行っていくことになります。」
新規メンバーとしてやってきたシンだが、実はもう一名実働部隊メンバーがいる。
エリカ・アサメイ小尉。
彼女の本来の役割は、キングハート家次期当主の唯一子であるシンの護衛である。
現当主のキングハート中将の職権乱用に思える采配であるが、キングハート家を始めとした古代支配種の血を引く家門の保護を目的とする「古代血統保護法」に則った正式な特別措置だ。
アサメイ小尉は軍に入隊したシンの護衛のため、あらゆる軍事的技能を修めているらしく、予備機が割り当てられた。
というわけで各小隊の編成は以下の通りとなった。
◎第一小隊(ピコ分隊)
隊長 ピコ (近接格闘、遊撃)
副隊長 ガイウス(遠距離射撃、全体指揮)
隊員 ディック(一撃離脱、撹乱突撃)
隊員 ユキ (中~近距離射撃、後方支援)
◎第二小隊(シン分隊)
隊長 シン (全距離戦闘、突撃・遊撃)
副隊長 エリカ (遠距離射撃、指揮・前方支援)
隊員 トーマス(中~近距離射撃、部隊支援)
隊員 メグ (一撃離脱、追従突撃)
以上の8名の内、ピコ、シンの機体はフルメタモメタル製、ガイウス、ディック、トーマスの機体はメタモメタル製外装、エリカ、メグ、ユキの機体はコアフレームがメタモメタル製の特務仕様機となった。
元々は旧メンバーがメタモメタル外装機で前衛を張り、新メンバーが艦の護衛と支援射撃を行うという構想であった。
また予算と生産の観点からしても、全機体のメタモメタル外装化は間に合わなかったらしい。
むしろウィンドラス元曹長の死亡により、メタモメタル製コアフレームをエリカ小尉に回し、隊の全機体を特務仕様機と出来ただけでもかなり恵まれているのだ。
「艦の積み荷の入れ換えが完了
次第、仮説前線基地へと向かいます。」
「予定より押しているので。」と付け加えられ、バリー大尉との打ち合わせを終える。
…………………。
…………。
…。
自室に戻る際艦のハンガーの側の通路を通りかかると、ハンガー一杯に積まれていたポッドの換装部品が下ろされていく様子が見えた。
艦の合流が遅れた原因は、換装部品が急遽積み込まれたことにあった。
電磁力式金属杭射出機数十基と射出用パイル数百本、艦のハンガースペース8割を占領していた積み荷の正体だ。
これらは敵艦に搭載され始めたという電磁障壁(敵巨大搭乗型兵器が使用していた)への対抗策として用意されたものだ。
戦艦主砲ですら防いだ電磁障壁であるが、ミサイル等の一定以上の質量兵器または近接兵器であれば貫通できるとのこと。
しかしミサイルでは直撃でなければ防がれるということから、より効率的な打撃を与えるために開発された。
弾速が速く、艦載機数機程度であれば貫通したところで減衰しない破壊力を持つ反面、これを射つ機体はそれ以外の戦闘行為を行えないなどの問題もあり保険のような意味合いでの配備となるらしい。
因みにマルコシアス隊には配備割り当ては無い。
完全についでの積み荷であった。
「おっと、部屋に戻るんだったにゃ。」
タマから聞いた話を思い出しながらいつの間にか止まっていた足を再び動かし始める。
…………………。
…………。
十数時間後、荷降ろしと武器弾薬等補給物資の積み込みが完了した「アンカーヘッド」は、仮設前線基地、通称「双子小惑星」へと進出したのであった。
物語も終盤ですが、後十数話はある予定なので、来年も本作をよろしくお願いします。
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