5 一進一退
ピコがやや有利か?
弾切れの筈のパルスARから放たれた弾によりブレードが逸れ、切断するつもりであったパルスARはアームから弾き落とすに留まった。
(「しくったにゃ!?」)
シンは最初からパルスARの残弾を1バースト分残してマガジンを交換していたようだ。
バースト射撃の安定性に気を取られてしまっていた。
(『中々巧いにゃ。』)
タネが割れると射撃方法の切り替えも単なる弾の節約でなく、1マガジンあたりの弾数を誤魔化すためでもあったのだ。
タタタタタッ!
ブレードを振るった直後の照準の定まっていないパルスガンを、後退する敵機に牽制のつもりで乱射する。
ボッ…ボボボッ
乱射したパルス弾は敵機の発射したロケット弾の一発を撃ち落とし、撃ち落とされたロケット弾の爆発で更に何発かのロケット弾が誘爆する。
やはり敵機もただ後退するだけでは無かったようだ。
シュパパッ
「っ!」
爆煙を切り裂き、時差で発射されたロケット弾が迫る。
ヴォッ!
機体はまだ立て直せていない、回避は不可能。
バルカンでの迎撃を行う。
ボッボンッ!
「うに”ゃっ!」
機体に走る衝撃に、思わず声が出る。
至近弾、直撃は避けれたようだ。
しかし爆煙で視界が悪い。
これでは追撃されても見えない。
ぶわっ
爆煙の中から離脱する。
留まろうが出ようが追撃されるならば、避けやすい方を選択する。
…警戒していた追撃は無い。
『ピー、ピー、ピー』
至近弾でパルスガンが破損したという警告が出る。
バチン
パルスガンを分離すると警告は消える。
更に機体が軽くなった。
(「…そろそろやるにゃ。」)
パルスARはどこかに飛んでいき、パルスガンを犠牲にロケット弾を吐き出させた。
互いに飛び道具はバルカンのみとなり、バルカンは有効打になりえない。
近接武装はこちらが展開式ブレード二本に斬艦ブレードに対し、向こうはレーザーナイフ1基のみ。
リーチも手数も有利であり、接近出来ればほぼ勝ちである。
(『「待っていました!」にゃ。』)
カシャン
機体に魔力を流すと一瞬で機獣形態への移行が完了する。
これで速度の懸念も払拭された。
『ピッ』
近接戦闘に意識を切り換え「さあ、行くぞ。」といったところで通信が入る。
送信はキングハート機、わざわざ全域回線での通信だ。
『やぁっとその姿になったな!
随分ハードな準備運動だったなぁ!』
自機の装備がレーザーナイフのみにも関わらず、シンは全く堪えていないようなテンションである。
その声音から強がりなどではなく、むしろ歓喜していることが伝わる。
(「うわぁ…。」)
圧倒的不利な状況で喜べる気持ちが理解できない、したくも無い。
だからこそ彼のような者は“狂い”と言われるのだろう。
(『同意にゃ。
やっぱり楽に勝てるのが一番にゃ。』)
流石の“私”でも引いているような雰囲気が伝わる。
最近意見が相反していたわたしたちであったが、まさかこのようなことで意見の一致に至るとは思っていなかった。
『俺としてもここまで削られるとは思っていなかっ
たぜ。
噂を聞く限りでは、その姿ありきの強さだと思って
いたからな。
俺が認める、実力は本物だってな。』
何と無く、何故マルコシアス隊を目の敵にする者が多いのか、その者達の考えが透けて見える言葉だった。
パチリ
機体の無線スイッチの[全域]をONにする。
「ということは降参でいいにゃ?」
そんなことは無いと半ば確信しながらも、これ以上続ける必要性を感じず一応確認する。
『それとこれとは別の話だ。』
(『ま、そうなるにゃ。』)
予想していた解答だ。
ならさっさと決着をつけるべきだろう。
『それにこれからなんだろ?
こっちも同じさ。』
確かに戦いたがりの“私”は終了を提案したとたんに機嫌を悪くした雰囲気を出した。
シンが提案を蹴ったことですぐに持ち直したようではあったが。
しかし戦意だけで戦える訳でもなく、続行したところですぐに終わってしまっていいのだろうかと思う。
『流石の俺もレーザーナイフだけで戦うの
は無謀だと思うぜ?』
無言のピコにお構い無しにシンが話続ける。
『だが勘違いしているようだから言っておく。
その機体は特別ではあるが、唯一じゃあ無いって
な。』
それはそうだろう。
元々の設計自体は量産型機とそう変わらず、コアフレーム以外の機体構成部品の素材も新金属製なだけであるのだ。
(『そういうことじゃねぇにゃ。』)
(「じゃあどういうことにゃ?」)
「何もわかっていない。」というような“私”に説明を求める。
しかしその答えはあろうことか、本人に示されることになったのである。
『何処から紛れたか何だか知らねぇが、本物って奴を
見せてやるぜ!
来いよ、ネメアァッ!』
カッ!
キングハート機から黄金の光が発せられ、機体が包まれ見えなくなる。
………。
発光は長くても数秒といったところで、徐々に光が弱まっていく。
光が弱まったことでキングハート機らしき影をメインカメラが捉える。
「っ!」
モニターに映る影を見て驚愕する。
やがて光は消え、キングハート機の全貌が明らかになる。
『驚いたか?
“これ”がキングハートが受け継いで来た戦神「金獅子」の写し身だっ!』
シンの言う写し身、ピコのものとは異なる機体。
しかし“それ”は確かに機械の獣、伝説で伝わる黄金の獅子の姿をしていたのだった。
主人公が努力の末会得した強化をさらりと再現するライバル的な?
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