12 喪失
~ビルフィッシュ ブリッジ フリッター視点~
『『ボンッ!』
に"ゃあ"っ!
………。』
………。
絶望的ななか、果敢に出撃し、状況の打破をなし得たフローレンス伍長の無線が沈黙する。
「通信官、伍長に呼び掛けを続けろ!
解析官、詳細報告!」
「WP1、中破。
バッテリー切れの為、各リンク途絶。
最後の情報では、非常電源への切り替えが行わ
れた模様。
最低限の生命維持装置が稼働していると思われ
ます。」
機体が原形を留めている以上、生存の可能性は高い。
しかし、解った情報は機体は活きていると言うこと、
自力帰還が不可能と言うことの二点だけである。
「機体の位置をマーキング。
艦の進路と速度を維持せよ。」
喫緊の脅威は、排除できたとはいえ、敵本船が迫っている。
留まる事は出来ない。
「敵機1、敵本船から出撃!
………。
この反応は、敵機6番です!」
被弾した機体を出して来たか!
補給は完了していないとみる。
これを凌げば、救援到着まで敵船は追いつけ無い。
「全砲門、左後方に向けろ!
敵ミサイルに集中しろ!
エンジンを死守せよ!」
「………!
前方からミサイル!」
奴ら、いつの間に伏兵を潜ませた!?
…シュウッゥゥ………
ブリッジの超至近をミサイルが通過する。
外したのか?
「っ!
敵機6番、反応ロスト!
撃墜された模様!
艦長、これは!?」
解析官が混乱して聞いてくるが、私にもわからない。
だが、答えは向こうから知らされる。
「第108領域警備隊所属艦、バラクーダより、
個人回線で通信。
開きます。」
『108警備隊艦、管制射撃官のタマ・スタインにゃ。
プレゼントは届いたにゃ?
気に入ってくれたら嬉しいにゃ。
それじゃあ、またにゃ~。』
無誘導で戦闘機にピンポイントで当てるだと!?
スタイン家の三男は、問題児だと?
とんだ奇才の間違いだろう!?
「救援隊、レーダー範囲内に入りました。
敵船、撤退して行きます。」
「操舵手、面舵170!
回頭し、生存者の捜索、収容作業を行う!
ポッドの準備、急がせろ。
衛生官も処置の準備を行え。」
………………………………………。
………………………………。
………………………。
………………。
~第十四臨時物資輸送・補給船隊 任務調査報告書~
(一部抜粋)
キャトラス宇宙歴3023年、○○月△△日開始された
臨時物資輸送・補給任務において発生した戦闘調査
の結果を此に記す。
・
・
(任務経過が続く)
・
・
任務開始から五時間経過時点に不審船に遭遇。
不審船艦載機による攻撃を受け、敵性集団と
判明。
此と、交戦す。
・
・
(交戦記録が続く)
・
・
戦闘開始から約30分後、敵船の撤退により戦闘は
終息する。
此の戦闘における被害を下部に記す。
[ 物的損失 ]
・長距離飛行戦闘機
喪失 1 小破 1 要整備 1 計 3
・高速輸送艦
中破 1 計 1
( 内訳 )
各部船体装甲 多数破損
砲台 大破 1 要整備 1 計 2
中型艦機関 大破 1 小破 1 計 2
艦載作業用ポッド 中破 1 計 1
・
(リストが続く)
・
・その他等
輸送物資 数点
( 内訳 )
二連装艦用パルスガン 1
6ミリ機載バルカン砲 2
艦用軍用合金外装甲板 小 1
・
・
(その他物的損失が続く)
・
・
[ 人的損失 ]
・死亡 5名
(氏名、役職が書かれている)
・行方不明 1名
(氏名、役職が書かれている)
・負傷 4名
( 内訳 )
重傷 3名
(氏名、役職、負傷内容が…)
軽傷 1名
(氏名、役職………)
死傷、行方不明含め 計 10名
此の戦闘において、特筆するべき点は以下の通り である。
〔 戦闘被害の拡大の要因 〕
危険が予測されていた当任務だったが、当初
の予測を遥かに上回る戦闘被害が出た。
此の戦闘被害の拡大は、以下の事が要因に挙
がる。
・任務危険度の設定ミス
報告により、護衛機の配置が行われたが、
敵船の戦力把握が不十分であり、当任務
の危険度が本来に比べ、1段階下に設定
されていた。
・救援隊の到着時間
救援の要請を受け、第七宙域調査・開発
基地より、6機の高速戦闘機の緊急発進
が行われたが、訓練の未実施等により、
規定の発進時間からの大幅な超過がみら
れた。
〔 スペースポッドの戦闘における有用性 〕
上記に示した通り、被害の拡大した戦闘の中、
艦に同乗する機械作業員担当官が艦載作業用
ポッドに搭乗し出撃。応急的な武装改造を施
した機体で敵2機を撃破した。
機体耐久性と生産性、拡張性の高さから、防
衛戦闘における有用性を得る。
以上、任務調査の結果報告とする。
~???~
「久しぶりだな。
君から連絡をもらうとは。
珍しいことも有るものだ。」
そう話すのは、軍服に多数の勲章を着けた初老の雄。
階級章が、中将であることを示す。
「そうですね。
少々、頼みが有りまして。」
向かい合う人物が、淡々と話す。
「何だ、戻って来てくれるという話では無いのか?
悲しいじゃ無いか。」
「今の職場が気に入っていますので…。
それで頼みなのですが………………」
その人物が話す間、中将は黙って聞いている。
「ほう。
成る程な。
………………。
分かった、上層部に掛け合ってみよう。」
暫し熟慮の後、そう答えた。
「…。
ありがとうございます。
では、失礼します。」
「毎回言っているが、いつ帰って来ても歓迎しよう。
身体には気をつけてな。」
退室して行く人物に、そう声をかけた。
いつも読んでいただきありがとうございます