2 初めましてで決闘しましょう!?
目があったからバトルってどうなんです?
「にゃはっはっはっは!」
ピコの「お前誰にゃ?」に堪え切れなくなったのか、タマが爆笑する声がドッグに響きわたる。
「…なっ!?
お前、俺を知らないだと!」
タマの爆笑でピコの発言に固まっていた仮称“番長”が再起動し、ピコに詰め寄る。
「だから艦で言ったにゃろ?」
番長がピコのことを知っているような口振りだったのは、星から基地に来るまでにタマから聞いたからのようだ。
「なのにおまえときたら、
『俺を知らない奴は軍にいない(キリッ)』
って、まじで傑作にゃw」
番長の物真似(?)をして笑うタマに、当人は羞恥を誤魔化すようにタマに怒鳴る。
「うるさいっ!
ったく、だから成り上がりは…!」
タマに怒鳴った番長はピコに向き直る。
「俺の名はシン・キングハート!
キングハート家次期当主の長男、『天武』とは
俺のことだ!」
何やら異名があるらしいが、残念ながら知らない。
ただキングハートといえば、ウィング家と同じような家系だった筈だ。
そこに神と似たような意味合いの天のつく異名から、優れた軍人であることが予想出来る。
「マルコシアス隊隊長、ピコ・フローレンスにゃ。」
名乗られたので、知っているだろうがこちらも名乗り返す。
そして握手しようと手を出そうとしたところで、シン・キングハートはとんでもない事を言う。
「ピコ・フローレンス!
隊長の座をかけて、この俺シン・キングハートとの
決闘を申し込む!」
「ぱーどぅん?」(詳しい意味は分かっていない)
…………………。
…………。
…。
あの後フリーズしてしまったピコに代わり、タマが事情を聞き出したところ、
「強い奴が頭になるのは当然だろ?」
とのことらしい。
なんとも脳味噌まで筋肉のような主張だが、教導の最初にやった手前「駄目だ」とは言えない。
仕方なく模擬戦が行われることとなったが、ここでもシン・キングハートの奇行が炸裂する。
「はぁ?
俺は決闘って言った筈だが?」
まるで「お前らはバカか?」とでも言うような態度で、奴は模擬戦での実弾の使用を要求する。
「命賭けない決闘は決闘じゃねぇよ。」
(((だから模擬戦言ってんだろ!)))
ピコ、ハンナ、ガイウスの内心が重なった瞬間であった。
(『…いや、そいつの言うことも一理あるにゃ。』)
しかし“私”はやるべきだと言う。
(「何でにゃ!?」)
ドギヘルスとの決戦の準備が進む現在、内輪で怪我をしている暇など無い。
(『“奴”は動ける限り噛みついて来る、むしろ傷を負
う程動きが良くなる。
そんな奴なのにゃ…。』)
「面倒臭い」というような感情が伝わる。
過去に似たような敵と戦ったのだろうか?
(『因みに、抑え付けても寝首掻かれるにゃ。』)
「爺さんの頼みだろうがそこは譲らねぇよ。」
外の会話に意識を向けると、ハンナとガイウスが必死に説明と説得を行っているようだが、奴は頑として譲らないつもりのようだ。
我々としては模擬戦を行う代わりに実弾の使用を諦めさせようとしているが、奴は「爺さんの頼み」を受けた代わりに決闘を行うということで、決闘を模擬戦にするという要求は受け付けないとのことだ。
「そもそも貴方は異動命令を受けたのです。
それを貸しだの譲るだのと…。
本来であれば模擬戦も却下されるところなんです
よ!」
組織に所属する以上勝手な真似は御法度で、バリー大尉の言うことは正しい。
「もういいにゃ、バリー大尉。」
しかしあえて、ヒートアップしたバリー大尉を止める。
奴はわたしがバリー大尉を止めたことで、自分が正しいのだといった様子だ。
「キングハート大尉とわたしの模擬戦は実戦武器を使
用した一騎討ち。
どちらか、または両者の行動不能をもって勝敗とす
る。
…でいいにゃ?」
バリー大尉とガイウスは何か言いたそうな顔だが、やってもやらなくても何かしら問題が起きるなら、相手の土俵で叩き伸すのが手っ取り早いのだ。
「ああ、良いぜ。
恨みっこ無しだ。」
拳を掌に叩きつけ、闘志を漲らせる大尉。
バリー大尉の方をちらりと見ると、目が合い大尉が小さく頷く。
(「言質は取ったにゃ。」)
(『これで“万が一”でも問題無しにゃ。』)
…問題無しとは行かないだろうが、訓練中の事故死は無いことは無い。
咎められるとしたら隊長くらいで、最悪でも除隊処分で済む筈。
(『ま、心配する必要は無いけどにゃ。』)
“私”からは気負いは伝わって来ない。
仮にも「戦いの神」といった意味の異名が付くような相手だ。
(「随分と余裕にゃ?」)
(『馬鹿正直に戦う必要は無いのにゃ。』)
わたしがボールで遊んでいるイメージが伝えられる。
(「ああ~、それにゃ。」)
ポッド形態で適当に相手したところで、機獣形態で方をつけると。
戦闘力が拮抗しているから危険が大きいわけで、逆に言えば差が大きければ多少の怪我はさせるだろうが、命までとる必要は無くなる。
少し卑怯かもしれないがルールには違反していないし、そもそもが向こうの希望だから仕方ないのだ。
自己弁護が完了したことで、あとはどう戦うか考えるだけとなった。
…………………。
…………。
…。
(『(奴が出てきたら、また分からせてやるに
ゃ…。)』)
そんなことをもう一人の自分が考えていることを、既に模擬戦に意識を向けていたピコは、気付かなかったのであった。
デュエル、スタンバイ!
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