1 合流・再会・出会い
新章(終章)です。
ストック切れ間近のため、土日更新は一回に戻します。
ドギヘルス貴族の私兵団を壊滅させた哨戒任務から10日が過ぎた。
要塞「マズル」攻略戦から八ヶ月が経過し、第三宙域の各基地には、正規の訓練を終えた新兵を含めたキャトラス軍が続々と集結している。
「戦争の終わりが近そうだなぁ。」
親父っさんが染々と言う。
「ここ数年で随分と変化しましたから。」
バリー大尉が親父っさんの言葉に返す。
「案外まだ続くかもしれないがな。」
ガイウスが真剣な顔で否定的な意見を言うが、親父っさんもバリー大尉も頷いている。
今度の戦いはキャトラスの戦力が劣っているのは明白であり、勝率は4割とも噂されている。
『ビーッ!ビーッ!ビーッ!』
艦整備ドッグ内にアラームが響く。
「お、来たか。」
「予定日から数日遅れですか。」
「間に合わないよりは良い。
そうだろ、ハンナ?」
今更だがピコ達4名がいるのは、艦整備ドッグの横に位置する整備員休憩室である。
ピコ達はドッグ内の様子を、備え付けられた大きな強化ガラス窓から見ながら話していた。
ゴォォォ…
ドッグ内に独特な形の駆逐艦級艦がゆっくりと入港してくる。
「こりゃまた、整備が大変そうな…。」
「開発部の悪い癖が出てますね…。」
「その分強そうじゃないか。」
三者三様の反応をしているが、ピコ達はこの艦を待っていたのだ。
青い船体に白のライン。
高速輸送艦ビルフィッシュから続く、今やマルコシアス隊のシンボルカラーの新型艦。
資料によると、複合艦型強襲戦闘輸送艦二番艦「アンカーヘッド」。
マルコシアス隊の新たな母艦である。
…………………。
…………。
…。
「久しぶりにゃ、ピコ中佐。」
「アンカーヘッド」の入港が完了し、ドッグに出ていくと、下船したタマ中佐が声をかけてきた。
「何ヵ月かぶりにゃ、タマ中佐。
…タマ艦長の方がいいにゃ?」
プライズ艦長が異動となったため、マルコシアス隊の母艦の艦長はタマ中佐に引き継がれた。
「ん~…。
そんな柄じゃないけど、そうすればいいにゃ。」
少し考えてタマ中佐は肯定した。
なんでも、マルコシアス隊にピコとタマの中佐二人がいることによる混乱を避けるため、呼び方を分けた方がいいとのことである。
「じゃあ我々の家は任せたにゃ、タマ艦長。」
かしこまってタマ中佐を艦長に任命する振りをする。
「了解したにゃ、ピコ隊長殿?」
タマ中佐はノリ良く返す。
「「にゃははは。」」
そして可笑しくなった中佐二人は笑い声を上げた。
そこに複数名が近寄る。
「よう、楽しそうだな艦長さん。
俺を隊長さんに紹介してくれよ。」
近寄ってきたのは「アンカーヘッド」に乗船していた者達らしく、プライズ艦長の異動と共に抜けたクルーの代わりだろうか?
そう思って何気なく声がかかった方に注意を向けると、ここに来る筈の無い者の姿が目に入った。
「ミケコ姐さん?
どうしてここに!?」
集団の先頭に立つ、声をかけてきたらしい番長のような雄をスルーして、ミケコ中尉に駆け寄る。
「タマが艦長になっちまっただろ?
だからタマと一緒に、あたしが射撃官として皆の
艦を衛ってやろうかってね。」
ポッドでの戦闘は無理だが、ミケコ姐さんの射撃センスは健在であった。
ポッドに乗れなくなったことを知った時は、内心残念だと思ったものだ。
そんなミケコ姐さんが復帰し一緒に戦ってくれるというのは、非常に頼もしくて嬉しいものだ。
「ありがとうにゃ。
改めてよろしく頼むにゃ。」
多少の相違はあるものの、旧マルコシアス隊メンバーが完全復活となったのであった。
「他のみんなも集めるにゃ?」
ミケコ姐さんの脱退を悲しんだのはピコだけではないのだ。
ミーコを始めとした臨補時代からのメンバーにバリー大尉を始めとした試用特務からのメンバーも、ミケコ姐さんの復帰を喜ぶだろう。
「みんなにも挨拶しなくちゃね。
ただ、後でもいいかい?」
ミケコ姐さんとしてもみんなに顔を見せたいようではあったが、積み荷の下ろし作業が終わっていないという。
ここにきたのも、作業の休憩に入ろうとしたところ、タマ艦長と話すピコを見かけたからだという。
「引き留めて悪かったにゃ。
それじゃ、また後でにゃ。」
ただでさえ艦旅の直後である。
上官の立ち話にいつまでも付き合わせていては休まらないだろうと思い、ミケコ姐さんに辞退を告げる。
「あたしがいない間の話を聞かせて欲しいね。」
そう言い残して、ミケコ姐さんは休憩室へと向かっていったのであった。
「…さて、わたしも仕事をするにゃ。」
母艦が合流したことで、隊の活動計画の修正などの雑務が出来た。
基本的にバリー大尉の担当とはいえ、隊長の承認が必要なものが出てくる。
「あ…。」
ミケコ姐さんとの再会で放ってしまったタマの存在を思い出し、辞退を告げようとそちらを向く。
そこには、「サプライズ成功!」とでも言っているようなしたり顔のタマと、
「俺を無視とは流石だな、英雄。」
やたら尊大な態度の仮定新クルーが立っていた。
「何か用にゃ?」
彼と来た者達は既に全員が休憩室に向かった。
まだここにいたということは、何か用事があるのだろ。
「ああ、あるとも!
この俺が来たからにはこれまで以上にマルコシアス
隊は功績を上げることになる。
そのことを有り難く思えよ、成り上がりの英雄。」
タマを見るとニヤニヤとして面白がっている。
彼はかなり有名な者なのだろう。
本人の態度からそう理解した。
更に向こうは、こちらのことをいくらか知っていると見える。
ならば、こちらが言うことはこれだろう。
「いや、誰にゃ?」
初対面同士、互いの素性を知るのは大切だと思っての発言であった。
一般的に有名人だからといって誰でも知っているわけ無かろうに。
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