25 もう1つの決着
久しぶりのイチャ回!(閑話っぽい?)
いつもより長めでお送りします。
ファーテイル家の私兵団の襲撃を退けたマルコシアス隊は、再び二手に分かれての哨戒任務を再開した。
「…………。」
「納得いかないにゃ?」
先ほどから難しい顔をしているチェンバー小尉に問いかける。
「いや。
だが何故わざわざ見逃す?」
否定する小尉であったが、逆に質問をしてくる。
ブリッジが潰れた敵巡洋艦であったが、船体自体は残存していた。
当主の号令で即座に小型挺が出て来たあたり、乗員のほとんどが生存しているのは想像に難くない。
「…殺す必要がなかったからにゃ。」
少し間が開き、答えた。
乗員は武装していようが、小型挺自体は非武装。
また識別コードがドギヘルス所属となっているため、キャトラス軍の保護は求められない。
むしろ救援要請で接近してきた部隊に発見され、抵抗出来ずに撃墜される可能性の方が高い。
「…結局「殺したくなかったから」と解釈できるな。」
小競り合いを延々としていた時であればそうなる。
しかし現在は侵攻の終盤、いずれドギヘルスは一時的であっても制圧される。
「殺して終わりなら、そうするかもにゃ…。」
殺した敵にも家族はいる。
お互い様と言えばそうなるが、当事者は割り切れるものでもない。
このときに、キャトラス軍のマルコシアス隊が「見逃した」という事実があれば、多少なりとも影響はある筈だと思いたい。
「……中佐は軍人か?」
「軍人だからここにいるにゃ。
…まぁ、異端だとは自覚しているにゃ。」
「…そうか。
悪い、そういうつもりではなかった。」
「気にしなくていいにゃ。」
「戻ったっすよ。」
「休憩はおしまいにゃ。
待機に戻るにゃ。」
「「了解。」」
それからマルコシアス隊ピコ分隊は、特にトラブルなく哨戒任務を完了したのであった。
…………………。
…………。
…。
ガイウス分隊も何事もなく基地に帰還してからのミーティングの後。
手刷りに身を預け端末を見るナナを見かけ、声をかける。
「ナナ、お疲れにゃ。
…ところで何見てるにゃ?」
ナナの見ている端末は軍用でも、一般用でもない見覚えのない物であった。
「特に何も。
強いて言うなら「ファーテイル家の断絶」…でしょ
うか。」
ナナが端末の画面を、こちらに見えるようにする。
端末の画面に映っていたのは、
[connection error]
という白文字の文に真っ黒の背景。
端末に見覚えがないのは当然であった。
「データーはこちらに移しているのでご心配なく。」
茶化すように言うナナが、どこかに消えてしまいそうに見えた。
それが気のせいでない事をその晩に知ることとなったのである。
…………………。
…………。
…。
夕食後バリー大尉と軽く明日の打ち合わせを行い、本日の業務を終了する。
自室に戻るといつものようにミーコが居り、
「ピコさん、お邪魔しています。」
ナナと夕食後のティーブレイクをしていた。
「どうしたにゃ?」
珍しい来客に用件を尋ねる。
「相談があるらしくてにゃ?
今晩はピコちゃんを譲ってあげようと思うにゃ。」
そう言ってカップに残ったお茶を飲み干し、ミーコは部屋から出て行ってしまった。
取り残されたナナと部屋の主であるピコ。
(相談、今晩、譲る…。)
ミーコの言葉を脳内で反芻しながらナナの方を見ると、同じくこちらを向いたナナと目が合う。
「……とりあえずシャワー浴びてくるにゃ?」
数秒の沈黙ののち顔の熱さに堪えれなくなったピコは、ナナにそう断りシャワー室に入っていった。
…………………。
…………。
…。
二人がシャワーを浴びる時間で、なんとか冷静さを取り戻した。
「シャワーいただきました。」
しかしシャワーを浴びしっとりとした毛皮の、バスローブを身体に巻くナナを見たとたんに再び心臓が騒がしくなる。
普段見るナナは芯のある令嬢といった雰囲気であるが、今目の前にいるナナはどこか妖艶な雰囲気を纏っている。
「…隣、良いですか?」
「っ…!
もちろんにゃ。」
無言のままベッドに腰かけるわたしに焦れたナナが、遠慮がちに聞いてきたので即答する。
「失礼します…。」
ナナはそう言って私と少し離れてベッドに座る。
グイッ…
「あっ…」
ベッドに座ったナナが落ち着いてしまう前に抱き寄せる。
「…悪魔のピコさんですか?」
先ほどまでの態度から一変した行動に、ナナも気がついたようだ。
「そうにゃ。
…変わった方がいいにゃ?」
肯定すると申し訳なさそうな表情をするナナ。
「…拒否しないんですか?」
どうやらナナは、わたしのヘタレと私の交代で勘違いを起こしてしまったらしい。
「誤解させて悪いにゃ。
…さっきまでは緊張していただけにゃ。
むしろ私でいいにゃ?」
誤解させた事を謝り弁明すると、いくらか表情を和らげるナナ。
だがまだ不安そうだ。
「普段のピコさんは嫌がっていないんですか?」
そう念押しするナナに説明する。
「前に“わたし”に話した事にゃ…」
ピコの片親のクロナは、悪魔と融合したことで影響が出た。
融合による影響は悪魔→融合者の一方通行ではない。
(その場合は浸食である。)
融合は大小に違いはあるが、双方向に影響をもたらすのだ。
「まあ、ここまではっきりしないことが普通だけど
にゃ。」
クロナを例にすると、元々ナシロに抱いていた親愛が悪魔の影響で性愛に変化したようなものだ。
「つまり、“わたし”が好意を感じているから“私”が
行動に移すわけにゃ。」
ミーコの許可も出ている以上、躊躇う必要はないのだ。
「じゃあ…。」
ナナから不安が消え、潤んだ瞳が向けられる。
「何モノでもなくなった私に、ピコさんを刻んで下
さい…。」
…………………………。
…………………。
…………。
…。
「…痛くなかったにゃ?」
果てたナナが息を整えた頃合いに話かける。
「はい…。
……ミーコさんはいつも?」
はじめての相手に少し激しかっただろうかと思ったが、意外と余裕そうに返事が返る。
そして“わたし”は、どちらかといえばされる方であるため、質問の答えはノーである。
「そうなんですね///」
ナナが嬉しそうで何よりだ。
「「…………。」」
心地の良い沈黙が落ちる。
「さっきナナは「何モノでもない」って言った
にゃ。」
名無しという意味の「ナナ」。
「ファーテイル」という血筋も断絶した。
自身が何者か悩んでいたことで、消えてしまいそうな雰囲気となっていたのであろう。
「“わたし”はずっと引っ掛かっていたらしくて
にゃ。」
“私”の片割れと言えどヘタレにも程があると言える。
「だから受け取って欲しいにゃ。
「ナナサ」、ナナの名前にゃ。」
ずっと考えていた。
そして浮かんだのは雨上がりの空、極彩色の光の橋。
そして九尾の願い。
「七」つの「彩」りで「ナナサ」。
「「ナナサ」…。
私の名前…、ピコさんからの贈り物。」
“私”とナナサに確かな繋がりができたのを感じた。
ファンタジー作品で名付けと言えばもう、ね?
何はともあれ、ナナに幸あれ!
いつも読んでいただきありがとうございます。
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