24 決着
あ~、長かった。
『この裏切りモノめ!
おまえのせいで我がファーテイル家はっ…!』
ナナの血縁上の父親であるこの雄は、かなり自己評価が高いようであったが、ナナが出て来ただけで化けの皮が剥がれてしまった。
『裏切り?
閣下が私の味方だった事などありませんよ?』
ナナの返答は「お前は何を言っている?」というものであった。
『獣が、私を馬鹿にするな!
おまえがファーテイルに生まれたから…!
やはりおまえは忌み子だった!』
現ファーテイル家当主のこの言葉が、ナナがそう考えるに至った理由を如実に示している。
当然ながら、そのことに当人は気が付いていないようであったが。
『ならば閣下の望み通りにして見せましょう?』
ナナが妖しく微笑んでいる事が伝わってくる台詞である。
『おまえに何が出来る!
制圧隊、行け!』
威勢は良いが、所詮は他力本願。
武装が全て破壊された敵巡洋艦から、脱出用小型宇宙挺が一隻、姿を見せる。
キュンッ
おそらくその小型挺には定員いっぱいに、武装した兵士が乗っているのであろう。
ボッ
『んなっ!?』
出撃と同時に撃墜される小型挺を目の当たりにし、当主は「あり得ない」とでもいいたげな声をあげる。
ヒュン…シャキンッ
「下手な真似はしない方がいいにゃ。
斬艦ブレードで斬られたくないならにゃ。」
撃墜された一隻以外に小型挺は出て来ない。
『分かった…。
…何が望みだ?』
ブリッジに突き立てられた刃を恐れたのか、観念した様子の当主。
「ナナの質問に正直に答えるにゃ。」
…………………。
…………。
…。
それからナナは十数もの、ドギヘルスの内情についての質問を行った。
当主は質問の答えを渋ったり、曖昧な表現で誤魔化したりした。
そういう時は、ブレードを少し動かすと即座に答えた。
『それでは最後の質問です。』
答え合わせは完了したらしく、仕上げにかかるナナ。
『閣下の部下の方は、ファーテイル家が取り潰しの瀬
戸際にある事を知っていますか?』
『…………。』
沈黙したままの当主。
『閣下、どういうことです?』
空気の読めない真面目な部下がいたようで、質問の答えは分かった。
『えっと…罪状は職務怠慢、捜査妨害、殺害未遂。
これらの罪の清算のため王の依頼を遂行。
まあ、それで失敗したと。』
慣れていたナナでも情報の検索に手間取ったようだが、それだけ多くの最新情報を引き抜けたということか。
『何故そのことを!?
一体何処から!?』
もはや取り繕う余裕は見受けられない。
ナナが追い打ちをかけるように答える。
『ドギヘルスの中枢データベースから。
以前渡された権限キーが使えて助かりました。
罪状に情報漏洩幇助が追加ですね。』
元々の罪の清算は失敗、更に罪状が追加ともなれば、ファーテイル家は終了確定だろう。
『隊長、用事は済みました。
部下の方は関係無いようです。』
ナナは“私”と似ている。
(だからかにゃ?)
完璧な筈の身体の制御が乱される。
しかし不思議と悪くない感覚だ。
「本当にそれでいいにゃ?」
ナナに、珍しく最終確認をする。
『はい、屋敷の者はいないようですから。』
…そこは“私”と違う、ナナの魅力なのだろう。
パリ…パリパリ…
機獣の装甲が次々に分離していく。
『おい、貴様何をしている!』
カチカチカチ…
当主を無視するように、分離した装甲がブレードに接合されていく。
『なんだそれは…。
…くっ、話が違うぞ!』
パシュッ
真空に曝されたことで、スーツが加圧される。
機獣は最低限の骨組みとなり、かわりに艦はおろか要塞まで両断出来そうなサイズのブレードが組み上がる。
グウゥン
その巨大なブレードが独りでに振り上げられる。
『おい、貴様!
我がファーテイルは神を呼びし一族。
契約を違えた貴様らには罰が与えられる!
…かならず、必ずだ!』
ブウゥン
見当違いな脅しを聞き流し、ブレードが振り下ろされ、
ガゴオォッ!
鈍い衝撃と共に、当主のいたブリッジは巨大剣の腹で叩き潰されたのであった。
(『“斬って”はいないにゃ。』)
「斬られたくなければ」とは言ったが「助ける」などとは一言たりとも言っていない。
よって契約は違えていない。(そもそも契約などしていない。)
(「…悪魔にゃ…。」)
変なルビを振るな“わたし”。
~アクト・ウィンドラス~
『…これでお前の雇い主はいなくなったわけだが?』
ガイウスが武装を破壊されたポッドのパイロットに向けて言う。
『…………。』
先ほどまで罵詈雑言を吐いて抵抗していたウィンドラス曹長は、不気味な程大人しくなってしまった。
『おい、聞いているのか?』
チェンバー小尉の機体がウィンドラス曹長の機体に近寄る。
大人しくしているうちにポッドから降ろしてしまおうという魂胆だ。
不用意である行動だが、アクト機が取れる行動はアームを振り回すくらいか。(バルカンは抵抗時に撃ち尽くしたようだ。)
『…………は…。』
だがガイウスは忘れていた。
解除しにくい武装があったということを。
『お前だけは殺してやる!』
ブゥン
不測の近接戦闘に備えて装備された、レーザーナイフがハロルド機に迫る。
ジッ…
『…は?』
アクト機の振るったレーザーナイフは、アームごとハロルド機のアームに受け流されていた。
ジジジジッ
そしてレーザーナイフを受け流されたアクト機には、ハロルド機のレーザーナイフが突き立てられていた。
完全なカウンターの形だ。
『残念だよ。
お前ような奴の考えなぞ…』
ジジジッ!
『ああああっ!』
レーザーナイフの刃がアクト機に沈んでいく。
『お見通しなんだよ。』
ジッ…
マルコシアス隊に紛れ込んだ元ドギヘルスのスパイ、アクト・ウィンドラス。
捕縛時に激しく抵抗した為、やむ無くハロルド・チェンバー小尉が殺害。
チェンバー小尉は過失を問われたものの、ガイウス小尉ら4名が自己防衛であったと証言。
また別筋情報によりキャトラス軍に紛れたスパイが一斉検挙された為、本件は軍事行動上の通常業務として処理されることとなった。
ある二等兵
「主人公サイドのやる事じゃねよ…。」
主人公(悪魔)
「次元猫はお呼びじゃないにゃ~。」
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