23 化かし合い
狐VS○○
ファイッ!
~ファーテイル私有巡洋艦「エスピオナ-ジ」~
「あの機体のパイロットと交渉する。」
数分前、武装が全て破壊され手の打ちようがなくなり静まりかえったブリッジにて当主が放った言葉であった。
こちらから仕掛けておいて進退が決まってから「交渉しよう」など厚かましいにも程がある行為である。
しかしチャンスはまだあったようで、待つことしばし例の機体のパイロットからの返答があった。
『少し確かめたい事があるにゃ。』
ブリッジ内にキャトラス訛りの若い雌の声が響く。
にわかにざわついた雰囲気になるブリッジ内。
軍艦4隻、武装ポッド二個中隊の精鋭をほぼ一機で殲滅した兵士が若く、ドギヘルスでは軍に所属出来ない雌であった事は相当な衝撃であった。
「確かめたい事とは?」
当主も内心で驚愕しつつ、平静を装って対応する。
『今接近している私の隊についてにゃ。』
(賭けに勝った!)
当主は内心で狂喜する。
救援の早さから別動隊の可能性は高かったが、失った戦力以上の部隊を引き入れられそうであるのだ。
「勿論、貴官の部下にも現在の給金の倍額出す。」
ここで金を惜しんで身を危険にさらすような真似はしない。
ファーテイルは狡猾で貪欲ではあるが、強欲ではない。
出すべき時に出せるようにしてきたからこそのファーテイルの地位であるのだ。
「閣下、敵部隊が頻繁に通信しているようですが…。」
「黙っていろ。」
今や無線の傍受が当たり前のようになっている。
この距離で仲間内で相談するには、暗号化した文章でのやり取りになるのだろう。
(優秀だが甘いな。)
艦長席のディスプレイに写る解析された内容を読み、当主は画面の操作を行う。
[制圧戦用意]
メインスクリーンに以上の文字列が表示される。
質疑によりそれとなく情報を聞き出そうとしているが当主はそれを見抜き、相手に寝返るつもりが無いことを理解した。
ならば気付かないふりをして敵艦を奪えばいいと当主は考えた。
(ファーテイルを出し抜こうなどとはな。)
しかし当主は忘れていた。
現在交渉という名の謀略をしている相手にもファーテイルがいるという事を。
そして思い知る。
獣の容姿を持つ者が何故迫害される事になってしまったのかを。
~ピコ視点~
『中佐、ご無事で何よりです。』
今回の任務の母艦となっていた駆逐艦からの通信だ。
「敵旗艦は無力化、それ以外は殲滅済みにゃ。」
こちらの状況は察しているだろうが一応、安全が確保されている事を報告した。
『……それで、何故無力化を?』
少し引いたような雰囲気を感じたが、もっともな質問ではある。
「ドギヘルスの高位貴族が乗っているらしくてにゃ。
バリキリー大尉に代わって欲しいにゃ。」
曖昧な言い方でどうとでもとれるようにした。
そして目的のために通信を代わるように要求する。
今通信している艦に乗っているマルコシアス隊の通信担当はナナである。
(ナナなら察してくれる筈にゃ。)
ミーコとは言葉を介さなくても意思の疎通が出来るようになってきたが、これに関してはナナが数枚上手であるのだ。
『通信代わりました。』
少し硬い声音のナナが通信に出る。
予想はしていたが、やはりあれはナナがいた家の私兵団であったらしい。
[無線傍受の可能性有り。]
暗文を送りやり取りの方法を変えさせる。
[了解しました。]
すぐに暗文の返信が来る。
[敵指揮官より打診。
賛否の確認求む。]
簡潔に今の状況と要求を伝える。
[全ての要請を受諾。]
返信までに少し間が空いたが、こちらの意図はちゃんと伝わったようだ。
(………面倒にゃ。)
仕込みは完了し、後は待ち時間だ。
どうせ現状では向こうにとれる手段は無いようなものである。
わざわざ交渉の体を取らなくても問題は無いに等しい。
(「ちゃんとやるにゃ。」)
“わたし”に怒られてしまったので渋々時間稼ぎの真似をする。
…………………。
…………。
質疑と応答を繰り返すことしばらく。
暗文はほぼ反対派が多数であったが、意外なことに賛成派が多数となることもあった。
『どうやらまだ誤解があるらしい。
そこでだ、我々と直接話してみないかね?』
向こうは準備が整ったのか、対面を求めてきた。
どちらの艦で対面しても結果は同じというわけだ。
暗文でその旨を送信する。
………。
今までのやり取りより返信に時間がかかる。
『ポンッ』
返信がきた。
内容は全会一致の賛成。
(やぁっと大詰めにゃ…。)
出来ないわけではないが、好き好んでやりたい事ではないのだ。
「一番艦、ハッチ解放。」
ピコ分隊の母艦となっている駆逐艦に指示を出す。
『おお!
ありがたい、すぐに向かおう。』
こちら側の艦で対面すると思ったのか、何かを言う前に行動に移ろうとする敵指揮官。
「ちょっと待つにゃ。
こちら側からのメッセージを聞くにゃ。」
『む、済まない。
早とちりしてしまったようだ。』
静止を呼び掛けると「まだ何かあるのか?」といいたげな態度が一瞬出るも、何とか取り繕ったようだ。
(「趣味悪いにゃ…。」)
そんなことを呟くも止めなかったあたり、“わたし”もナナの境遇に腹を据えかねていたようだ。
『…良かろう。
友好のために。』
向こうが聞く態勢をとり、メッセージが流れ始める。
『お久しぶりです、閣下。
キャトラス軍諜報、そちらではナナ・ファーテイル
と名乗らせていただいていました。』
丁寧過ぎる程の口上をナナが述べる。
(「既視感にゃ…。」)
あれは確かミーコの話を聞きに行った時だったか?
そう考えるとなんだかシュールだ。
『は…?
………なっ、き、貴様!』
呆けてから数拍空けての驚愕、良いリアクションだ。
悪魔には勝てんよ…。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆評価、いいね等、
よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。