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22 謀事

まだ何か有りそうな?

~ファーテイル私有巡洋艦「エスピオナ-ジ」~


 ポッド隊最後の機体が墜ちる。


「…くっ。

 撤退、撤退するぞ!」


 当主は自らの予定通りに撤退の指示を出す。


「何故です!?

 彼らの仇を取らなければ!」


 義憤に駆られる操舵官が疑問を呈する。


「貴官らまで死なせるわけにはいかんのだ。

 奴の弱点を見つけた。

 この情報を持ち帰り次こそ奴を倒す事が、散って

 行った英雄達への手向けとなるのだ。」


 当主が言っていることは一部本当である。

 その事が功を奏し、「エスピオナ-ジ」は撤退の態勢に入ったのだった。


(奴は停止している。

 今のうちに去らねば…。)


 またいつ活動を開始するかは未知である。

 今は気付かれぬよう急加速も禁じて、低速で機獣から離れていく「エスピオナ-ジ」。

 その様は正に、物取りが眠る番犬を起こさぬよう爪先で慎重に歩いているようであった。


「閣下、まだですか!?」


 ある程度の距離が空いたところで、機関制御官がしびれを切らして当主に問う。


「まだだ。

 しかし加速の準備だけはしておけ。」


 気付かれていない現状、下手に気付かれるような真似はよすべきである。

 機関制御官は十分に離れていると判断しているようだが、機獣はこの程度の距離など一瞬で詰めて来る。

 しかし気付かれた際の逃走や、現宙域を離脱する際のために加速を行わなければならない。


「…っ!

 捕捉されました!」


 一番砲塔の射撃官が叫ぶ。

 ここで全速で離脱をしていたら結果は変わったのであろうか?

 それを知る術は無い。

 当主は慎重過ぎたのだ。

 臆病であったとも言える。


「観測官!」


 捕捉されたのであればレーダーに何らかの動きが映るだろう。

 当主はそんな考えで観測官にレーダーの確認をさせる。


「……敵機には依然動きが無いようです。」


 観測官は「問題無し」との回答をする。


(…焦らせるな屑が。)


 大方恐怖心からそのように感じたのであろうが、当主にそのような配慮は無い。

 叫んだ射撃官を脳内の解雇リストに記憶する。


ドオォォンッ!


 「エスピオナ-ジ」に大きく揺れる。


「機関部にダメージ!

 速力1割以下です!」


 元々低速で航行していた「エスピオナ-ジ」であるが、それでも3割程の出力であった筈である。

 故障でメインエンジンが停止したとしても速力1割以下はあり得ない。

 可能性があるとすれば…。


「言っただろ!?

 捕捉されたって!」


 射撃官が乱暴な口調で吐き捨てブリッジから脱走するも、それを咎め止める者はいない。

 それどころの話ではなくなったと言った方が正しいだろうか…。
















~ピコ視点~


(『にゃ~、何で墜とさないにゃ~…。』)


 こそこそと逃走を謀っていた巡洋艦に攻撃を加えた後の“私”の台詞だ。


(「ちょっと考えがあってにゃ。」)


 頭の中で駄々をこねる“私”に“わたし”の考えを説明する。

 まず、計画的にマルコシアス隊を襲ったこの敵部隊は非正規軍である。

 ドギヘルスは未だ王政であり、貴族が存在している。

 装備の充実感から、この部隊は高位の貴族の私兵団である可能性が高い。

 次に、かなり腕の良い兵士を全滅するまで戦わせたにも関わらず、撤退する敵部隊の旗艦。

 兵士の育成には時間も金もかかる。

 一部隊の指揮官がそれらを消耗する事など許されないであろう。

 しかしこの部隊の指揮官はそれを行った上で撤退できる立場にある。

 つまり当主(可能性は低い)か、それに類する者が指揮官である可能性が高い。

 そして三つ目、ここがキャトラスの領域である事。

 今現在、後退させた駆逐艦とガイウス分隊が向かって来ている。

 指揮官やその他将兵の確保が容易であり、敵の増援もさほど警戒の必要が無い。

 高位の貴族であれば何らかの情報を握っている可能性が高く、そうでなくてもドギヘルスとの交渉に使えるだろう。


(『せっかくの大物がにゃ…………。』)


 納得はしたようだが物凄く悲しそうである。

 もし今説明した事が全くの的外れであった場合、振り返しが酷いことになりそうな予感がする。


 …………………。

 …………。


 というようなやり取りをしながらも、機獣は砲塔を次々と破壊していき敵艦の無力化を行った。

 主砲の1基が一切の射撃を行わないことが気になったものの、どうせ無力化する事には変わり無いため容赦なく破壊させて貰った。


ヒュッ………パッ


 敵艦の無力化作業を完了し、ブリッジに近い砲塔跡で待機していると黄色の信号弾が上がる。

 救援到着の合図である。


『ピッ』


 無線が起動する。


『そこの機体のパイロット、聞こえているだろう。』


 無線から聞こえたのは敵艦隊の指揮官らしき者の声であった。


『貴官が非常に腕のたつ兵士だという事は、よく分

 かった。

 だが現状は不相応であると見える。』


 …黙って聞いてみたがオチが分かった気がする。


『そこでだ。

 貴官を私の専属護衛として雇いたい。

 私はこんな所に出張っているが、これでも現ドギヘ

 ルス王家に目をかけられていてね。』


 いけしゃあしゃあと宣うものである。


(『その現王家とやらは風前の灯のくせににゃ。』)


 反応の無いこちらと、接近する救援に焦っているのか更に言い募って来る。


『報酬は現在の給金の倍額を出そう。

 同胞と戦いたく無いなら私の安全の確保だけで良

 い。』 


 このての輩にしては譲歩している方か…。


(『…ちょっと相談があるにゃ。』)


 “私”が相談というのは初めてでは無かろうか。

 聞く意思をみせると“私”は続ける。


(『隊の全員も巻き込まないかにゃ?』)


 その時の“わたしたち”は、お互いに悪い顔をしていたのではないだろうか?

 


 


 

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