18 増援
まあ、やっちまいますよね…
ボッ
二つに割れた敵機が爆発する。
『プランB、対象の破壊に移る!』
ここで、この戦闘で初めて敵側の通信を傍受した。
「マズル」攻略戦でキャトラス軍がドギヘルスの無線を傍受していることが露見した為、こちらが傍受出来ないようにされている可能性もあったが違うようだ。
しかし無策というわけでもなく、あらかじめ幾つかの行動を決めておき符号で指示するという対策を講じているようだ。
柔軟性に欠けるが、作戦が双方に知れ渡るよりましという判断だろう。
『ピーッ!』
シュババッ
警告音に機体を急機動させるとミサイルが通過していく。
ドゥッ…ドドゥッ
間髪を入れずに砲撃される。
『隊長、敵の攻撃が激しくっ…!』
「プランB」「破壊」とのワードから、これまではこちらの機体を鹵獲するように動いていたらしい。
しかし先ほど敵機を撃墜した事で鹵獲は無理と判断されたようだ。
『ピピッ!』
状況は悪くなる一方で更にレーダーに反応が追加される。
『中佐!
巡洋艦です!』
口論を終えたのかアクト曹長から通信が入る。
転送されてきた望遠カメラの画像を確認すると、言われて見れば駆逐艦より大きく見えた。
『援護頼むっすよ!?』
現在交戦中の敵機8に加えて、12機の追加が確定された今の戦力数比はこちらの五倍になる。
この場においては彼らも重要な戦力とせねばならないのだ。
『現在交戦中の敵部隊に告ぐ。
貴様らの勝ち目は無い。
速やかに投降し機体を明け渡せ。
これは最後の警告だ。』
やはりこの敵はこちらの機体を欲しているようだ。
「明け渡せ」やらと一方的に言うあたり、生命の保証をするつもりは皆無ということが分かる。
『…無いっすね。』
ディックが呟いた通り、投降のつもりなど更々無い。
最初から「最後」とか意味がわからない。
(『おととい来やがれ、にゃ。』)
あまりの言い草に“私”も少し冷静になったようで、機体が動かし易くなる。
ザッ!
通告に返事すること無く、積極的に仕掛けて来るようになった敵機を1機、上下二つに分ける。
ボッ
ランナー機を追っていた敵機が撃墜される。
『ハロルド小尉、助かったっす!』
後方からの援護射撃も届き始めたようだ。
ボッ
行動の自由が利き始めたディックがもう1機の敵機を撃墜する。
『ピピピピッ!』
レーダーに光点が増えていく。
敵の増援部隊が発艦し始めたようだ。
交戦中の部隊は前方から右翼側にかけたライン、増援部隊は前方から左翼にかけたラインに展開して山形を形成している。
後方に配置している小尉と曹長を線とすれば、ピコとディックは底辺の短い三角形の中心付近にいることになる。
戦力比は4対17、敵側は軍艦4隻の支援射撃付き。
密度の増した敵の砲火に、ピコとディックは回避だけで精一杯となる。
『射線に入るな!
撃たれたいのか!』
そう怒鳴ってくる小尉だが、彼は彼で敵の隙を見ては牽制射撃を行っている。
曹長も射撃を行うべく位置取りを行っているようだが、標的を絞れないのか一度も射撃は行われていない。
戦闘開始から十数分、分隊との合流予測時間の折り返し地点だ。
気の抜けない戦闘は激しさを増し、まだまだ続く。
~ファーテイル私有巡洋艦「エスピオナージ」~
巨大な三角耳のようなレーダーが特徴的なファーテイル家私設軍所属の巡洋艦「エスピオナージ」の艦長席にて、現当主は憲兵隊に拘束されてから今日までを思い起こしていた。
(これで全てを帳消しに出来る。)
拘束されてから貴賓牢で過ごす事しばらくしたある日、現王の側近が訪ねてきた。
「ファーテイル卿、陛下がそなたに挽回の機会を用意
して下さった。」
側近が言うには、先の「マズル」攻防戦にてキャトラス軍が運用した機体が王家にとって看過出来ないモノであったらしく、その機体の捕獲又は破壊をしろとのことだった。
…………。
…。
解放されてからまず行ったのは調査であった。
十数年前に買収したケットシーにキャトラスの内情を報告させたところ、例の機体らしきモノの存在が確定した。
運良く手の者を例の機体が属する部隊に潜り込ませる事ができ、本日が目的を達成するのに都合が良いことも分かっていた。
問題は「どうやって敵領域に侵入するか」であったが「エスピオナージ」の超広域探知能力を活用し、敵艦の探知範囲外から哨戒から戻る艦について行くことで感知される事なく侵入を成功させた。
「ええい、何をしているっ!?
さっさと仕留めんか!」
標的の戦力は情報通りに駆逐艦一隻に対象を含めた戦闘ポッド4機。
戦局は圧倒的に優位であり時間の猶予はまだあるが、中々仕留められない事に業を煮やす。
報告で「非常に腕がたつ為、要警戒」と受けていたが予想を遥かに越えている。
逃走した敵艦に「裏切りの獣が同乗している」との報告も一因であるだろう。
「下手のフリなどもういい!
報酬は倍出す!
やってしまえ!」
裏切りモノを処分出来る機会と失態の帳消しというメリットと、時間と大金をかけた手駒を一つ失うデメリットを天秤にかけた結果、現ファーテイル当主は無線に怒鳴りつけた。
次回、マルコシアス隊の裏切り者が判明!?
一体誰なんでしょうね?
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