17 兆候
艦隊の探知から艦載機の発進までの時間から予想していた事ではあるが、敵艦載機は全てがポッドであった。
強行偵察であれば、速さがあり行動範囲の広い戦闘機が主体となる編隊となる筈である。
こちらが全速で後退しているとはいえ、戦闘機であればもう少し早く交戦となっていただろう。
(『これは“取り”に来ているにゃ。』)
敵艦隊の目的は“私”が言うように哨戒部隊の撃破であろう。
(『連中の狙いは私らにゃ。』)
“わたし”の考えを読み取り“私”がきっぱりと否定する。
(「マルコシアス隊が目的にゃ?」)
確かにここで一哨戒部隊を撃破したところで戦局に影響は無い。
むしろ駆逐艦三隻と一個中隊を失うリスクに全く見合っていない。
(『隊が分断している今、絶好の機会に思えてもおか
しくないのにゃ。』)
ミケコやガイウスの遠距離火力支援は無く、装備も対多戦闘を想定していない。
母艦の防衛がある以上逃走という選択も取れない。
勿論、全力をもって戦闘するが、ピコとて無敵というわけでは無い。
そう考えると、確かにそんな気がしてくる。
(「でも何で今にゃ!?」)
情報が漏洩しているとしてもタイミングが良すぎる。
今回の我々の行動上、帰還する艦に探知されるか、分隊行動開始直後に探知する、そもそも接触しないかのいずれかになる可能性の方が圧倒的に高かった。
(『敵も馬鹿じゃないって事にゃ。』)
“私”は一言で済ませているが、この敵艦隊はかなりの手練れである。
情報を得ているといえ、帰還していった艦が哨戒の部隊を出すタイミングはランダムだ。
また、接触するとは通達していたが、どれ程停止しているかは予定にすら明示していない。
これらの不測の事態をかわして、こちらが単艦行動となって一時間で接触可能な距離まで接近していたというわけだ。
本来こんな所で消費されるような部隊じゃない。
(『気をつけるにゃ。』)
相手は練度が高く狡猾だ。
これだけ周到に用意しておいてポッドが普通なわけが無い。
「ディック、相手は何してくるか未知数にゃ。
慎重にかかるようににゃ。」
この局面では石橋を叩いて渡らないくらいが丁度なくらいであった。
…………………。
…………。
…。
横合いからの突撃を往なし、離脱しようとする敵機の後方についた。
システムの補正がかかり照準が合う。
ドゥッ
トリガーを引く瞬間に敵艦の砲撃。
回避したものの、敵機は完全に離脱している。
『ピッ!』
追おうとすれば別方向から敵機がかかって来る。
(『……鬱陶しいにゃ。』)
“私”が吐き捨てるように呟く。
敵部隊と交戦を開始して数分、初手の遠距離攻撃のぶつけ合いから撃墜された機体は無し。
というのも、こちらが仕掛ける素振りを見せると駆逐艦か別機体の邪魔が入り、また別の機体が仕掛けて来るといった、こちらに反撃の隙を与えない戦い方をしているためだ。
戦い方の巧さもそうだが要因は他にもある。
ディックが何とか隙を突き、敵機を射撃範囲に収めた。
ドンッ
ショットガンが火を噴き、ぎりぎり命中。
しかし敵機は健在であった。
『コイツらこんな堅かったっすか?』
最大効力を発揮できなかったとはいえ、以前であれば爆散しているところだ。
撃墜ならずという結果にディックが疑問を呈する。
ディックの疑問の答えとしては半々といったところだろう。
元々作業機体という事もあり、頑丈ではある。
しかし、タンク部等の防弾が不十分であった為に戦闘に堪えなかった。
現在相対している機体はそれらの弱点に装甲を追加した事で本来の耐久性を発揮している。
そのことにより射撃による撃破が難しくなっていた。
「今は兎に角回避優先にゃ。」
ディックに通信を入れる。
現状の勝利条件には敵の撃破は含まれていない。
こちらの敗北条件にしてみても、ピコとディックが敵機を全て引き付けられているのは都合が良い。
『了解っす!
…射撃の大切さが身に染みるっす。』
ディックの言葉は、自らが射撃が得意でない為使用武器が貫通力の低い散弾銃である事と、未だに援護射撃を行わない小尉と曹長の事を言っているのだろう。
(『…みんな蹴散らせばいいにゃ。』)
ゾワッ
!?
遂に“私”の我慢の限界が来たようで、身体の内を嫌な感覚が走る。
(「待つにゃっ!」)
怒る“私”を必死に静止し、身体から流れ出ようとする魔力を抑える。
しかし“私”には落ち着くような気配は無く、魔力がどんどんと膨れ上がっていく。
ピキピキピキ…
遂に機体に変化の予兆が現れ始める。
『隊長!』
ガガガッ!
ディックの呼び掛けから一拍遅れて連続的な衝撃。
“私”の暴走をどうにかしようとしている隙に敵の攻撃の直撃を食らってしまった。
「っ…問題無いにゃ!」
衝撃は受けたが損傷は無い。
だが攻撃を受けた事実は確かであり、“私”はそれを赦さなかった。
ヒュウッ
機体の罅から配線が鞭のように飛び出す。
バチィンッ!
高速で振るわれた超硬質の配線は刃となり離脱していった敵機を叩き伐った。
そしてこの事が、この戦闘における均衡を大きく乱す事となったのだった。
進まない筆、減るストック。
上がらないモチベーション。
「みんな!
オラに☆を分けてくれぇ!」
……調子のりました、ごめんなさい。
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