15 新体制(仮)
地味な展開ですがしばしお付き合い下さい。
後日マルコシアス隊は予定通りに活動拠点基地に到着。
便乗してきた駆逐艦二隻を前線に見送った。
一日を休息にあて、明けた本日。
隊をピコとガイウスがそれぞれ指揮をとる二分隊に分け、哨戒任務が行われる。
「………以上の編成で行います。」
バリー大尉がチーム分けを告げ終える。
今回の編成としては初回という事もあり、単純に成績順となった。
ピコ分隊のメンバーは、ディック、アクト曹長、ハロルド小尉。
アクト曹長とメグ軍曹は成績が拮抗していた為、機体特性の前衛と後衛が半々になるように分けられた。
「今回の任務では、この基地から領域境界線までは二
分隊が同行し直進。
境界線到達後一分隊ずつ分かれ、境界線に沿って左
右に展開。
他拠点基地の担当エリア周辺まで哨戒が完了した後
当拠点基地に各分隊直帰となります。」
今回の任務は防的哨戒に分類される。
これは自軍領域に敵が進入する事を防ぐ目的で行われるものだ。
因みに、領域内部の治安維持の為の巡回は警邏となる。
「また、展開地点では制圧下のドギヘルス領域より帰
還する駆逐艦隊と接触予定。
必要に応じて帰還に同行する事も有り得るとの事で
す。」
接触予定の隊は攻的哨戒、いわゆる残党狩りから帰還する隊だ。
バリー大尉の言う必要とは、戦闘後の色々の事だろう。
「出撃は一時間後になります。
搭乗する艦を間違えないようにして下さい。」
…………………。
…………。
…。
『接触予定地点に到達。
接触は十五分後と予想されます。』
半日後マルコシアス隊が搭乗する駆逐艦二隻は特に戦闘を行うこと無く、キャトラスとドギヘルスの領域境界宙域へと到達した。
「正確な時間が試算出来たらまた報告を頼むにゃ。」
艦のレーダー有効範囲は半径が、駆逐艦の巡航速度で十分の距離であった筈だ。
十五分後という事は、まだレーダーには捉えられていないという事になる。
『あっ、すみません。』
「謝らなくていいにゃ。」
ピコ分隊の戦況オペレーターは、臨時的にナナが担当している。
諜報部での経験から、情報伝達技能を期待しての登用である。
しかし確定した情報を伝えるオペレーターと、分かっている情報を組み合わせて予測等を行う諜報部では、伝達される情報に多少の違いがあるようだ。
「要所は押さえているにゃ。」
バリー大尉に軽く指導は受けたと言えど、今回が初のオペレーター任務となる以上、不慣れな部分は仕方がない。
現在必要な情報は欠けも無く伝えられ、その他の情報も誤報というわけでもない。
「誰にも始めから完璧にこなせとは言わせないにゃ。」
ナナとしては早い内に仮メンバーの4名の信用を得たいのであろうが、焦ってはいけない。
「それにわたしはナナの事を信頼しているにゃ。」
ピコだけでは無いだろうがあえて、個人的には頼りにしていると付け加える。
『ありがとうございます。
…私、頑張りますね。』
ナナの声音が和らぐ。
小尉も曹長も個人的に思うところはあれど、ここで事を荒げるつもりは無いようで安心する。
(『……何か妙に物分かりがいいにゃ。』)
まさか自分に不安を煽られる事になるとは数ヵ月前までは思いもしなかった。
…………………。
…………。
頭の中で“私”と話す事数分、ナナから通信が入る。
『レーダーに反応、駆逐艦三隻。
接触まで八分です。』
事前情報通りの数だ。
巡航速度より少し速いことから、三隻ともに大きな損傷が無い事が伺える。
哨戒は予定通りに行われることになりそうだ。
『駆逐艦隊から入電。
[当艦隊に損害無し。
同行の必要は無し、任務を続行されたし。]
とのことです。』
キャトラス軍が制圧してから半年は経つ。
また、制圧後に行われた攻的哨戒は二桁では収まらないだろう。
前線がドギヘルスの最終防衛線になっている以上、制圧された宙域は放棄されるのが普通である。
…………………。
…………。
…。
偽装の可能性を警戒し、目視確認と立ち入りを終え、帰還していく友軍駆逐艦隊を見送った。
『これより任務の再開となります。
当分隊の進路は右回りルートとなります。』
ここまでは事前の予定通りに進行している。
このまま何事もなければいいのだが。
(『それだと新入りの実戦経験は積めないにゃ?』)
“私”が「それでいいのか?」と言うように聞いてくる。
(「任務的には問題は無いにゃ。」)
今回の任務はあくまで哨戒である。
敵が侵入して来ないに限る。
(『それだといつまでもお荷物にゃ?』)
いつになく辛辣な事を言う“私”だ。
(「荷物は言い過ぎにゃ。」)
仮入隊の4名は経験が不足しているだけであって、全くの素人というわけでは無い。
実戦経験が云々は積極的に戦闘をさせるという話で無く、正規メンバーだけで片を付けず戦闘に参加させるというニュアンスなのだ。
(『実際に足元を掬われてからじゃ“わたし”以外も危
険に晒すにゃ?』)
十数分前の会話が思い出される。
話の内容としては、新入り4名に不審な者がいるというものだ。
具体的には「スパイなのでは?」というものだ。
(「けどそれは可能性の話にゃ。」)
情報の漏洩は問題だが、それとこの任務で戦闘することの関連性が不明だ。
戦闘しない事より戦闘した方が危険度が低いとは変な理屈である。
(『…まあ、“わたし”の意見も最もにゃ。』)
“私”も“わたし”である。
一応の納得はしてくれたようだ。
(『ただ警戒はしておくにゃ。
追い詰められた獣は理屈じゃない動きをする
にゃ。』)
普段からかいを含む“私”の真剣な声音に、今度は“わたし”が気を引き締め直す事で応えた。
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