14 変化
似たような話が前にもあったような……?
「………という事で、ナナが正式に隊に加わった
にゃ。」
ナナと再会して一晩経ち、翌日のショートブリーフィング前にバリー大尉より、ナナ加入の正式な通達を受けた。
「キャトラス軍諜報部、二級二類諜報官のナナ・
ファーテイルです。」
マルコシアス隊の面々は既に面識があるので、この紹介は教導担当4名にしているようなものである。
「ドギヘルス民が何故!?」
「ウソでしょっ?」
「っ!」
ウィンドラス曹長、サンライト軍曹、グラスフィールド伍長の反応だ。
現在戦争している敵対国家の種族が身内、しかも諜報という重要な部署にいる事に驚くのは当たり前の話ではある。
特にウィンドラス曹長が過剰な反応を見せた。
「…………。」
意外な事にチェンバー小尉は眉をひそめたものの、初対面でピコにした突っ掛かるような発言はしなかった。
「発言をいいか、中佐?」
相変わらずの口調と、とって着けたような呼び方だが、発言の許可を求めてくるあたりが進歩している。
頷き、発言を促す。
「彼女はドギヘルス民という事だが、こちら側である
という保証は?」
おそらく、教導担当4名が抱く疑惑だろう。
「諜報部の身分保証では足りないにゃ?」
軍に入る際は軽い身元調査が行われる。
例外は無く、この調査によりドギヘルスに情報を提供する情報屋が拘束された事もある。(最近は志願兵にまぎれている事が数件あった)
諜報部の身元調査はこの比で無い程厳しいと言われている。
逆に言えば、諜報部に身分を保証されれば、その者は一定の信頼に値するという事である。
「だが、一度祖国を裏切っているのは事実だ。」
一度ある事が二度と無いとは言え無い。
「ピコ隊長、いいのです。
これまでと同じように行動で示しますから。」
ナナにそう言われ、これ以上は私情であるとして引き下がるしか無かった。
…………………。
…………。
「さて、本日の予定になります。」
ナナの紹介に区切りをつけ、バリー大尉が本題を話し出す。
「マルコシアス隊教導担当4名の練度が強化基準を越
えた為、訓練は終了となります。」
彼らは教導対象の中でも上位の練度であったらしく、3ヶ月と少しで引き上げられた出撃基準練度に達した。
「以後教導担当4名はこのままマルコシアス隊に仮加
入。
領域境界宙域での哨戒任務等に従事する事となりま
す。」
現在ドギヘルスの最終防衛線が最前線となっていると言えど、こちらの領域に敵が来ないわけでは無い。
これからは、そういった少数の敵を相手に実戦経験を積むという事だろう。
「二日後に基地を出る駆逐艦二隻に便乗する事となる
ので各自荷物を纏めるように。
出発まではシミュレーターでの自主訓練等を行うよ
うにして下さい。」
機体は艦に格納する為実機訓練は行えない。
しかし休暇としないあたりがバリー大尉らしいと感じた。
…………………………。
…………………。
…………。
…。
その晩、ピコ、ハンナ、ガイウス、ミーコ、ナナの5名は今後について話し合いを行っていた。
「隊の戦力としてはポッド8機。
振り分けは正規メンバーと仮メンバーを半々でいい
にゃ?」
従来型の駆逐艦に搭載可能な数は4機の一個小隊分。
任務上、全員が行動を共にする事はかなわない。
そして活動の副次目的上、正規メンバーと仮メンバーが固まるわけにはいかない。
「となると、シミュレーターの成績での振り分けにな
るでしょうか?」
バリー大尉が振り分けの基準を意見する。
ピコとしてもそのつもりである。
「基本的にはそれでいいと思うが、相性も考えた方が
いい。」
ガイウスは概ね賛成のようであるが、更に条件を詰めたいようだ。
ここで示す相性とは、機体特性、戦闘スタイル、パイロット同士の性格などを引っ括めてという事だろう。
「任務に私情を考慮するのですか?」
振り分けの複雑さに唸っていると、ナナが条件の緩和をはかる為に疑問を投げかける。
軍人である以上は私情など挟まず、命令を遂行する事が理想的ではある。
諜報部では特にその傾向が強いのだろう。
「残念ながら全員が割り切れるわけじゃないの
にゃ…。」
ミーコの呟きこそが全てを語っているようだった。
マルコシアス隊の平均年齢が低い事も、この問題に拍車をかけている。
「一度決めたからと言って、確定するわけじゃない
にゃ。」
むしろ色々な組み合わせを体験した方がためになるだろう。
「草案が出ただけでも良いでしょう。」
バリー大尉の言うように、今決める必要も無い。
元々方針決めの話し合いであったのだ。
「ハンナ大尉が無理をしないのであれば俺は納得し
よう。」
ガイウスが引き下がった事で話し合いは解散。
各自、準備を行うこととなった。
~???~
『巧い事潜り込めたようで何よりだ。』
時刻は深夜。
その者は電気をつけない暗い自室で何者かと通信を行っていた。
「こちらはいつ気付かれるか冷や冷やしていますが。」
『ファーテイルがいたとはな…。
いずれ始末しなければならないが、今は目立つ行動
は控えるんだ。』
「…………。」
その者は忠告に答え無い。
『……まさか既に?』
「いえ。
当初の予定と異なった為、今更大人しくなると逆に
怪しまれそうなものでして…。」
『…仕方ない。
怪しまれないようにしつつ、始末する機会を伺え。』
「了解しました。」
通信が終了させられる。
(ああ、苦痛だな。)
その者は思う。
両親はどちらも裏の者で自身も「ノーサイド」で産まれ、反政府思想の中で育てられた。
その為政府の紐付きである軍の、有名な部隊の元に居るのは安らがない。
(あと少し…。)
両親も含め、十数年耐えてきた。
その仕事の終わりはもうすぐで完了する。
そしたら一生遊んで暮らせる金が手に入る。
地元の一等地に豪邸を建て、悠々自適な生活を送る事を夢見て、その者は眠る。
十数年の仕事の集大成、たった一度きりのチャンスはその数日後に訪れる事となった。
次回から舞台は戦場になると思います。
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