13 揃い始める手札
この章も後半戦に差し掛かります。
~第一・第二試作艦建造ドッグ~
「まさか駆逐艦をたった数人で運用可能なようにする
とはな…。」
「おかげで新型造形艦が二隻になりましたね。」
艦建造作業員の話題は全部で三つある試作艦ドッグの二つにある、新型の駆逐艦についてだ。
「複合艦の運用データを元に火力と整備性が上がった
高速駆逐艦、か。」
作業員が言う通り二隻の駆逐艦は、従来の駆逐艦の直方体のシルエットと異なり、三つの長さの異なる直方体が接合したようなシルエットとなっていた。
「一番艦の“あれ”は分かりますが、二番艦の“あれ”
必要あります?」
より詳しい説明をすると、一番艦の船首には直径が艦と同等の円筒がついており、二番艦に至っては4本の先の鋭い柱が角錐を形成していた。
「異形はあの隊の象徴みたいなものだろう?」
~第三宙域前線本部基地 ピコ時点~
ピコがマルコシアス隊に合流して2ヶ月が経過し、教導は満3ヶ月を数えた。
教導担当の4名はこの3ヶ月で、かなりの練度の向上が行えた。
「……うーん、ダメっすね。」
しかし平行して行っていた、マルコシアス隊ポッド班の機体変形練習は成果が上がっていなかった。
魔力を練る事自体は出来ているのだが、コアへの浸透が難しいらしい。
(『魔力は自分から離れるほど制御が出来なくなる
にゃ。』)
ミーコが身体強化を使用できたのは、体内に作用するものであったかららしい。
制御から離れた魔力は魔素となって大気に霧散するのだ。
(『やっぱり“わたし”以外は今の機体じゃ無理
にゃ。』)
ピコの機体は配線までメタモメタル製になった事で、直接触れているのとほぼ同義な為、コアのみの他特務仕様機とは前提から異なるのだ。
…………………。
…………。
…。
「つまり、自分の魔力を馴染ませたフルメタモメタル
製機体であれば訓練次第で可能であると。」
バリー大尉が確認をしてくる。
「そうらしいにゃ。」
マルコシアス隊のメンバーには“私”の事を軽く説明している。(欠片関連としている)
その為誰かから聞いたていで話さなくても良いのが楽である。
「流石に検証の必要がある為、すぐには難しいで
すね…。」
駄目で元々の話かつ、現状でも不都合は特に無い。
可能ならばそうしたかっただけであり、「可能であるが現状不可」という事が確認できただけ良しとする。
「報告は上げておくので、どうするかは上層部に任せ
ましょう。」
結局のところはそういう事で落ち着いたのだった。
…………………。
…………。
…。
それから更に後日、第三宙域前線本部基地にて意外な再会を果たす。
「ピコさん、ようやく会えましたね。」
ミーコと夕食をとっていると、背後から声をかけられた。
聞き覚えのある声と呼び方に振り向くと、想像していた通りに、妖狐族のキャトラス軍諜報員であるナナがそこにいた。
「久しぶりにゃ。
元気そうだったようで何よりにゃ。」
ピコの実家から帰った空港で別れて以来になる。
ナナの様子から酷い扱いは見受けられなくて安心した。
「明日あたりに通達がありますが、正式にピコさんの
部隊でお世話になる事になりました。」
何と!
それは朗報であるが同時に疑問も浮かぶ。
以前ナナが提示した諜報部員章は、軍の階級にして中尉に相当するものであった。
キャトラス民で無いのにその階級になるには相当な貢献をしたのだろう。
つまりそれだけ優秀であるという事で、一部隊に常駐させるには、はっきり言って人材の無駄なのだ。
「マルコシアス隊から上げられる報告は機密レベルが
高過ぎるのです。」
ナナが説明する。
各部隊からの報告は一旦諜報部に集約され、必要があれば情報の精査が行われた後、然るべき部署に転送される。
しかしマルコシアス隊からの報告は、噂程度であっても全体に与える影響が大きい為、直接上層部に上げられる。
また信憑性は高いが精査が不可能な案件が多数である為、現地調査員の派遣が決定されたとの事だ。
そこで既に機密に触れていて、ある程度の関係を築いていたナナに白羽の矢が立ったという事である。
ナナとしても以前のように諜報が行えなくなってしまったので即答で決めたらしい。
そういった訳で用事ついでにマルコシアス隊に合流するという事だ。
「諜報部からの依頼が時々あると思いますが、宜しく
お願いしますね。」
こうしてナナが正式にマルコシアス隊に加わった。
…………………。
…………。
「お義母さんとは良く話すにゃ?」
ピコと同じように自身の内で九尾と会話をしているかが気になってナナに聞く。
「はい、色々と興味深い事を沢山教えてくれます。」
おそらく“わたし”が“私”から教えられた事の確認もしていたりするのだろう。
「そういえば、“それ”は何なのにゃ?」
お祖母ちゃん家に行った際、ナナが九尾に「常に身に付けているように」と言われていた首飾りについて聞く。
「遥か昔、クーシーの戦士が狩った獲物の牙や爪で
作っていたとされるお守りのようなものです。」
様々な事情があるのだろうが、少々意外であった。
「…牙でも爪でもないように見えるけど、何で作って
いるにゃ?」
今まで聞きに徹していたミーコが衛生官の視点から、何かを確信したようにナナに問う。
「……骨です。」
確かにナナが首飾りに出来る牙や爪を持つ獣を狩れるようには見えない。(九尾と契約した今は分からないが…。)
だが、その前の“間”は何だろうか?
「“何の”骨にゃ?」
ミーコが核心に迫る。
「………………ピコさんのです。」
「「…………………。」」
ナナのカミングアウトに、高原のキツネ顔になるピコとミーコ。
心当たりとしては“私”が表に出て暴れた時だ。
(『なるほどにゃ。
九尾は“わたし”の骨を力の器に使うつもりなの
にゃ。』)
悲報。
いつの間にかわたしの身体が、神様に素材扱いされていました。
ピコの処置を手伝った際に取り除いた骨ですね。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆評価、いいね等、
よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。