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日常に戻った筈が

連続投稿三話目です。

  この日以降、日常に戻った。

 ベネディクトからの電話が来ないか、内心で冷や冷やしていたけど結局来なかった。

 一ヶ月が経ったある日。

 ニュースで『飛行機行方不明事件』が取り上げられていた。行方不明事件はたまに起きるから、たった一機で『現代のメアリー・セレスト号事件』と取り上げるのは流石に大袈裟じゃないか? 

 ……でも、行方不明飛行機数がここ一ヶ月と少しで数百は流石に多いな。

 情報元は忘れたけど、年間で全世界の飛行機が行方不明になるのは二百~三百程度って何処かに在った。それを考慮すると、一ヶ月間では流石に多い。しかも、ハワイ諸島周辺と太平洋圏のみで起きている。

「……一ヶ月か」

 一ヶ月前を思い出す。浮遊大陸なるゲームに参加していた。あの日以降ログインは出来なくなっている。試したのでそれは確定事項だ。

「ない。ないな」

 忘れられない最後の文章を思い出す。

 これからが本番。皆様のみの御招待。

 一体何を指し示すのか。

 気になって、世界で起きている奇妙な噂について調べる。噂は時に真実を言っているので馬鹿にならない。ネットに上がっている、最近の馬鹿げた噂を探す。

「巨大な虫?」

 すると、とある掲示板で奇妙なものが出て来た。写真と動画付きだ。文章を読むと、半月以上も前にホノルル空港で撮影されたものだった。

「は?」

 写真を見て、間の抜けた声が出る。この巨大な虫に見覚えが在ったからだ。写真に写っているのは巨大な蟻だ。だがこの蟻は、ベネディクトと組んで最初に斃した魔物と酷似している。

 驚きと緊張から、心臓が早鐘を打つ。動画は誰かに消されていて再生は出来なかった。

 掲示板には『加工品』と書かれていた。だが『どの種類の蟻とも合致しない』とも書かれている。真偽不明なままだ。

 三日も経たずに、この掲示板は消されていた。

 情報源は無くなったが、『これ以上踏み込んでもなぁ』と言うのが本音だ。何処にでもいるような『平凡』に、一体何が出来ると言うのか。

 己の日常を思い出して、『忘れよう』と言い聞かせた。

 


 だが、更に一ヶ月と少しが過ぎた頃。

 一通の手紙がやって来た。何故か外国からで、全くと言っていい程に見の覚えが無かった――筈だった。

「うん?」

 部屋に戻り筆記体のアルファベットを解読しようと思った矢先、アルファベットが一瞬で『日本語』に切り替わった。余りにも理解不能な事が起きたので、思わず目を擦った。何度見ても、日本語に見える。

 恐る恐る開封して手紙を取り出すと、筆記体の文字が一瞬で日本語に切り替わった。説明不可能な現象だ。

 まるで、異世界召喚系ラノベに出て来る『異世界言語理解』のような――

「っ!」

 そこまで考えて息を呑み、手紙の文字を目で追う。


『これを読んでいるのが、我がパーティーメンバーの一人、坂月菊理で在る事を前提に書きます。

 久し振りです。ベネディクトになります。最後に会ってから二ヶ月以上が経過していますが、私の事は覚えていますか?』


 手紙の送り主はベネディクトだった。勿論覚えている。ゲームとは言え、共にダンジョンに潜り、死線を乗り越えた、ある意味戦友だからね。 


『現在世間を騒がせている、大量の飛行機行方不明事件の事は知っていますか?』

 

 唐突な話題転換に眉を顰めるが、文面を追い内容に戸惑った。一度は無関係と判断したが、それは誤りだったらしい。

 手紙を読み進めると内容は最悪の一言に尽きる。読まなかった事にして捨てたい衝動に駆られる。

 飛行機が行方不明になった原因。

 それに伴う世界で起きているパニック。 

 解決の為に可決された『国連』の対処方法。

 ベネディクトが自分に手紙を送って来た理由。

 

『これらは全て国連で秘密裏に可決化されました。故に他言は禁じます。国連日本支部より後日、期間限定雇用の書類が準備費用と共に送られます。

 装備が作れる人間は貴重なので、申し訳ありませんが貴女に拒否権は有りません。

 現在お教え出来る事はこれだけになります。

 

 最後に。

 貴女がうっかりやらかしてパニックを起こさない為にも、これだけお伝えします。

 ゲーム内で使用していた魔法の事は覚えていますか?

 どんな原理が働いているのか、現実世界でゲームの魔法が使えるようになっています。これは私の実体験です。簡単な魔法で試して下さい。

 私以上に多種多様な魔法が使える貴女に、万が一の事を考えてお伝えしました。人目の在るところでは使わないで下さい』


 最後まで読み――特に追伸部分を読んで思わず絶句し、三回も手紙を読み直した。

 質の悪い悪戯であって欲しいが、ゲーム内と同じ事が起きている以上、真実だろう。

 ボールペンを一本取り、浮遊させる魔法名を唱えた。

「……ウソデショー」

 魔法名を唱えると同時にボールペンが、ふわりと、浮き上がった。

 現実では起きない筈の事が起き、思わず呆然とする。

 ボールペンを掴んで魔法を解除し、二ヶ月前まで使っていたルーズリーフノートを引っ張り出す。このルーズリーフは、二ヶ月前までログインしていたゲーム内で使用する魔法について、判明した事を書き纏めたものだ。

 捨てないで良かったと、胸を撫で下ろしてから内容を見直し、再び暗記にする。

 それから三日後にベネディクトからの手紙に書かれていた書類が届いた。中身は国連関係事務所の事務員採用書類だった。終わったあとの経歴を考えるのなら、今後は有利になりそうだ。

 今後の就職活動の為だと、己に言い聞かせた。


 

 こうして自分の、今後の人生は決まった。

 どんな準備をしたか、余り覚えていないが、着替えとお菓子やカップ麺などは大量に購入した。改造して使う予定のものも。

 また、どう言う訳か魔法が使える事から、手持ちのパワーストーンとして購入した鉱石で道具入れを作り、道具作りに参考になりそうな資料などを入れた。他にも作ったものを一緒に入れた。着替えは事前に渡されたスーツケースに入れた。ログインに使っていたパソコン類もスーツケースに入れた。

 出発の日。

 大した確信も無く、帰って来れると思っていた自分は、家族に大した説明もせずに家を出た。長期的に泊まり掛けの仕事に出るだけだと言って。

 母の再婚を機に家族仲は悪くなる一方で、全く口を利かない日も在った。

 だから、未練も残っていなかったんだろう。

 三十年にも及ぶ人生とこれからの未来と、一年程度の時間で得たものを天秤に掛ける事が出来てしまったのだから。



ここまでお読み頂きありがとうございます。

連続投稿はこれで終わりになります。

割とキリのいいところまで書けました。全員集合までまだ遠いけど、全員揃います。

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