始まったクエストとゲーム期間の終わり
連続投稿二話目です。
翌日から、独りで弱い魔物相手に戦闘訓練を積む事にした。多分だけど、他のメンバーは自分のように毎日ログインしていない。ゲーマー的にログインボーナスの存在が当たり前となっていたので、自分は毎日ログインしている。勿論そんなものは存在しない。
毎日ログインしているのは、スライムや蟻との交戦した時に感じた疑問の解消を求めてだ。
主に、ネットゲームなのに『痛みを感じる』点を始めとした、この『現実と変わらない』仕様の意味を考えてだ。と言うか、どうやっているのかね?
魔法銃の弾丸が魔物に当たると体液が飛び散る。その体液に触れると――魔物が動物だった場合。鑑定して触っても無害である事を確認した――はっきりと温度を感じる。息絶えた動物系の魔物に触れると『冷たい』と感じる。まるで『本物の生きた生物を殺している』ように感じ、何度か躊躇いもした。
でも、慣れればどうにかなった。人間は慣れる生き物だと感じた。
書置き経由でベネディクトとのやり取りも行っている。互いに成果は無いけど。
そして、運営からの通達通り、クエストやダンジョンアタックが可能となる日がやって来た。
この頃になると、魔物を見かけても冷静に対応出来るようになった。『弱い魔物で一対一なら』と条件は付くが。痛みすら感じるリアル過ぎるゲームなので、万が一の事など、考えたくもない。『安全確実』をモットーに行動した。
何時も通りにログインして集会場に向かう。先客としてベネディクトがいた。挨拶をしてから一緒に掲示板を見る。
「クエストは――えぇ!?」「はぁっ!?」
掲示板に書かれていたクエストの内容を見て、ベネディクトは驚きの余り絶句する。
「連続ログイン日数三十日達成? ログインしたプレイヤーが少なかったの?」
クエストの内容を知り自分も驚く。これは、設定らしい設定がない事で『クソゲー』認定を受けたから起きた弊害じゃね? 自分のようにログイン皆勤プレイヤーは少ないだろ。あれか? もっとログインしろと尻叩きをする気か?
しかもこれ、パーティー単位じゃなくて、プレイヤー単位だ。今日までの日数を考えると、このクエスト達成したプレイヤーは一割もいなさそう。
「ふぇ!?」
クエストの内容を読み終えるなり、小さく電子音が響いた。突然鳴り響いたので、思わず頭上を見上げて間抜けな声を上げてしまった。恥ずかしい。
「ククリ。掲示板が……」
恥じらいを覚えている間もなく、掲示板に変化が訪れたようだ。ベネディクトに呼ばれて慌てて掲示板を見る。
『坂月菊理のクエストの達成を確認しました。
クエスト達成報酬を拠点にお送りします。
次のクエストを表示します』
「いや、表示しますじゃねぇよ」
思わず突っ込んだ。だが、次のクエストは『初期装備を調達せよ』だった。装備なら作りまくったよ。そりゃもう一杯ね。
「おや?」
再度電子音が鳴った。だが、今度は二つ同時に鳴った。調達と言うのは『譲り受ける』も含まれている模様。
「最初の一つ目を達成していなくても、達成になるのですか?」
「それは知らない。多分だけど、大量にクエストが存在するんだと思う。順番関係なく達成すれば良いって事かも」
「成程、大量に存在する中で順不同に達成すれば良いと? その考えだと……」
ベネディクトは何かに気付いたように、掲示板を見る。
自分は『もう何個かクエスト達成しちゃってるんじゃね?』と思った事も有り、釣られて一緒に掲示板を見る。
大量のクエストの通知と達成の表示が、掲示板に一括で表示された。小さいからまだ我慢出来るけど、電子音が連続して何度も鳴った。余りの煩さにベネディクトは顔を顰めている。
結構な時間が掛かった。そして、達成したクエストと未達成のクエストが判らない。『個別表示してよ。これがゲームだったら』と内心で愚痴ったところで、ゲームと言う単語から連想でここ最近見ていないステータス画面の存在を思い出した。ステータス画面を表示させると、クエストの項目が新たに出現していた。
それは何だと言わんばかりに首を傾げたベネディクトに説明すると、彼はすぐにステータス画面を表示させた。マナー的に良くないと思うが、今後を考えてベネディクトのステータス画面を見る。他人には見えないような仕様になっていないので見えた。レベルは表示されないが、ベネディクトのステータスは思っていた以上に低い。一緒に行動するとなるとちょっと不安になるオール二桁の数値だ。オール四桁の自分とはえらい違いだ。
ベネディクトの低いステータスから目を逸らし、一緒にクエストの達成・未達成について確認して行く。幸いな事に、パーティー単位のクエストは無かった。初日だから個人クエストのみなのか。
その他諸々話し合い、掲示板に書置きを残す。自分とベネディクト以外にここに来るものがいないのは解っているが、念の為だ。
このあと、ベネディクトのクエストの達成に付き合いログアウトした。
クエストの達成報酬だけど、それと思しきものが庭に置いて在った。デカい箱だったけど、蓋が開かなかった。
報酬の意味がないんだけど、どうなっているんだろう?
それから毎日ログインして掲示板の既読サインを確認するも、自分とベネディクト以外にログインしていないのか、追加のサインは無い。
ベネディクトから『リアルでもやり取りするか』と提案を受けたが、自分が英語に精通していない事から却下した。『ゲーム内のように自動で翻訳されるのなら賛成した』と言うと、すっかり忘れていたのか、ベネディクトは小さく声を上げた。それでも、何か遭った時用に、互いのスマートフォンの電話番号を交換して終わった。利用する日が来ない事を祈るばかりだ。
さて、テストプレイ期間残り五日と言うところで、遂にパーティー単位で受けるクエストが発生した。幸いな事に二人以上でクエストに挑めば『パーティー挑戦扱いされる』のか、実際に挑んでも問題無かった。リアルな迷路のような所を、魔物を倒しながら踏破した。幸いにも三階程度の深さしかなかったので、三日に分けて挑んだ結果、どうにか攻略出来た。
どうにか全てのクエストを達成し、最終日を迎えた。
クエスト達成報酬の箱は開かないままだ。これはベネディクトのところでも同じらしい。
最終日。
何の感慨も無い。何だか振り回されて疲れた。クエストフルコンプリートの達成感は有るが。自分のステータスはオール五桁に突入した。ベネディクトはもう少しで、オール三桁となる。
この日もログインして来たベネディクトと話し合い、遅い時間にログインを試す事になった。
最終日だからか、自分以外の全員が揃っていた。先に来ていたベネディクトが全員に、クエストについて聞き込みをしていた。
聞き込みの結果、全員ログイン自体はしていた。集会場にまで顔を出していなかっただけで。
「皆さんとこうして話し合えるのも今日で最後なんですね」
マルタがしみじみと言うが、恐ろしい事に、会うのは今日で二回目だよ。あり得ないでしょ。なお、マルタはパソコンを故障させて、修理に出していたそうだ。マルタの言葉に頷いているペドロは、ゲームをする習慣が無い為すっかり忘れていたらしい。
「定期試験と日程が被らなければ、もう何日かログイン出来たんだけどな」
「学生じゃ、試験は優先しないと駄目でしょうね」
「俺は赤点回避出来れば良いんだけどな」
「貴様はもう少し努力しろ」
唸るギィードにミレーユが、ある意味潔いアルゴスにルシアが、それぞれ突っ込みを入れる。
「でも今日で終わりか。もう少し期間が長くても良いのに」
「データテスト版だからそこはしょうがない」
口を尖らせるロンと宥めるクラウス。
ニート化している自分はもう少し学生組を見習うべきなんだろうけど、言い訳にならないがベネディクトの調査に協力していた。
「でも、毎日ログインしても、クエスト全部達成しても、得たものが無かったな」
皆勤ログインしても、クエストをコンプリートしても、何も得なかった。しいて言うなら、経験か?
ベネディクトから先に聞かされていたのか、全員から憐みの籠った視線を貰った。
この後も、他愛の無い会話をしてから解散となった。
皆と別れて拠点に戻る。
「ふぁ~、あれ?」
大きく伸びをしていたら目の前に、ログイン初日に見て以降一度も現れなかった空中ディスプレイのようなものが浮いていた。だが内容は、訳の解らなかった。
『本日でテストプレイ期間は終了となります。ログインありがとうございました』
ここまでは何処にでも在るような内容だった。問題は次だ。
『これからが本番となります。
テスターの皆様のみの御招待となりますがご了承下さい』
本番? 御招待? 何の話だよ!?
『引き続き、皆様の創意工夫に期待します』
最後まで読み切ると同時に文章は消え、代わりに地図が表示される。空撮写真と合わせての表示だ。長方形に近い形の島(?)の地図だ。オーストラリア大陸を横に引き伸ばしたような形と言えば良いのか、そんな感じの形だ。空撮写真には天を衝くような白樺に似た巨木が写されている。
じっくりと観察していたが、暫くすると地図も消えた。
訳の分からない最後の文章と初めて見る地図。
ログアウト前に、箱を確認したがやっぱり開かない。
時刻的にかなり遅いので、ログアウトして眠った。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
連続投稿はもう一話続きます。