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今度は二人で

久し振りの投稿です。

三話分書き溜める事が出来ました。

 一昨日までこの周囲に魔物は存在しなかった。

 採掘場まで徒歩で移動していた時、周囲は草原のみで『虫一匹』いなかった。

 この時点で何故自分はおかしいと思わなかったのか。材料集めに集中していて気付かなかったのか。

 拠点を一周すると、何度かスライムに遭遇した。

 落ち着いて、再度光壁を展開。スライムは障壁にぶつかって自滅。学習能力がないのか、突撃以外の本能がないのか。単調な魔物としか思えなかった。

 拠点内の集会所に戻り、戦利品の魔石をテーブルの上に並べる。

 色は五色。赤青緑白黒。赤いスライムが障壁にぶつかった跡が『潰れたトマト』のようでちょっとグロかった。白だと厭らしいけど。

 それぞれの魔石を鑑定していると、背後で集会所のドアの開閉音が小さく響いた。

 誰が来たのかと振り返ると、出入り口に立っていたのはベネディクトだった。

「おや、こんばんは」

「こんばんは?」

 挨拶を返しながら首を傾げ、時差を思い出して納得する。

 ベネディクトがいるニューヨークは今、夜間の時間帯だったな。

 時差でややこしい気分になるが、近付いて来たベネディクトから『この石は何か?』と質問を受け、答える。ついでに魔物がいた事も教える。採掘場まで移動していた時にはいなかった事も教えると、ベネディクトは興味深そうな顔をした。

「魔物が出現するようになり、倒すと魔石が手に入る。ますますゲームじみて来ましたね」

「いや、ここゲームの世界だよ」

 しみじみと呟くベネディクトに突っ込みを入れる。リアル過ぎて実感は薄いが、ここはゲームの世界だ。

「そうでしたね」

 そう言いながらも、ベネディクトは青い魔石を手に取って観察している。ベネディクトが手に持っている魔石の鑑定結果を教えると、子供のように目が輝いた。しかし、実験するか尋ねると断る当たり――リアリストだな。そんな事を思ったが、こいつは魔法が使える設定に疑問を持っていた男だったなと思い出す。

 この機会を利用してベネディクトの意見を求めるか。

「ベネディクト。三十分程度の時間は有る?」

「……どういう意味ですか?」

 訝しむベネディクトに説明する。

「スライムが出現するようになったでしょ? ベネディクトから見た意見が聞きたいなって思って」

「私の意見が必要ですか?」

「うん。このゲームは変なところでリアル過ぎるから、ゲームとかあんまりやって居なさそうな人間の感想が欲しいなって思って」

「何となくですが、言いたい事は解りました。確かに経験は必要でしょうね」

 渋々と言った感じだが、ベネディクトは了承してくれた。共に装備を見直して自分の拠点を経由して敷地の外に出た。

 でもね、魔法銃を持ったベネディクトが『本職』っぽく見えたのは気のせいかな?



 時差の関係上、自分の拠点を経由して出た外は昼の時間帯だ。

 ベネディクトが降り注ぐ日差しで、眩しそうに目を細める。美形は何気ない仕草が絵になるんだけど、ベネディクトの場合顔の造りが中性的を通り越した女顔――

「妙な邪念を感じるのですが?」

「気のせいじゃない?」

 ベネディクトがにっこりと浮かべた笑顔には少量の殺気を感じる。こいつに『女顔』は禁句と見た。適当に誤魔化して外を連れ歩く。ついでに、スライムとどんな風に遭遇したかも教える。

 拠点の周囲を一周したが何も出て来なかった為、急遽、採掘場にまで足を延ばした。そしたらここにもいた。

「アレが魔物ですか?」

「蟻みたいな虫だけど、そうっぽいね」

 向かった先の採掘場には、蟻によく似た魔物がいた。虫型だから『呪蟲(じゅこ)』と呼称すべきか悩んだが、オカルト全般に疎いベネディクトに合わせて、呼称は『魔物』で統一しよう。

 ちょっとした丘でも在る採掘場の周囲は見晴らしが良いを通り越して何も無い。その為、蟻の魔物は異様に目立っていた。幸いにも距離が有るからか、未だに自分達に気づいていない。

「全高は目算で二メートルですかね」

「そんな事聞かれても、判らないって」

 車の運転に眼鏡が必要な自分では、大雑把な姿しか分からない――筈だった。ゲーム補正なのか、眼鏡が無くとも遠くまでしっかりと見える。

 そう言えばと今更ながらに思い出す。

 初めて会った時、距離が在ったのに顔を確りと視認で来たな。ログインしてから一ヶ月が経つが昨日までは、運営側の都合で単独行動を取っていたから、全く気付かなかった。

 蟻の魔物はこちらに気付かないまま、こちらに背を向けて去ろうとした。下手に戦闘する必要は無い。無いんだけど……何故かベネディクトは両手で魔法銃を構えた。視線の先は去ろうとしている魔物。

「何してんの?」

「戦闘がどんな感じなのか気になりました。大丈夫。大抵の生き物は頭を潰せばどうにかなります。この距離なら外しません」

「頭が潰れても動く奴は動くと思うけど。てか、無理に戦闘する必要ないで、ええええっ!?」

 無理する必要はないと、止めたが遅かった。

 ベネディクトは引き金を引き、魔法銃から閃光が放たれる。この距離なら外さないと、自信満々だったが立ててはならないフラグだったのだろう。

 蟻の魔物はこちらを見ずに、六本ある足の一本を持ち上げて閃光を弾いた。それはもう、あっさりと。かーんって言う擬音が聞こえるぐらいに。

「……」

 予想外の結果に、ベネディクトは笑顔で絶句した。気持ちは解る。確かに命中はしたが、弾いて防がれるとは思ってもいなかったんだね。

 慰めてやりたいところだが、蟻の魔物は転進して、こちらに向かい砂埃を上げて猛スピード走って来た。シュール過ぎる光景だが、このままでは危ない。

「光壁!」

 スライムの時と同じように、バリア系の防御魔法を使う。膜が自分とベネディクトを包み込むように展開したと同時に、蟻の頭部が白く光る膜にぶつかった。

「うぎゃっ!?」

「うわっ!?」

 蟻の頭突きで、自分達は膜ごと吹き飛ばされた。幸いな事に防御魔法自体は突破されなかったが、内部にいた自分達は揉みくちゃされて地面に落ちた。

 ベネディクトと共々体を地面に打ち付けた()()に顔を顰める。追いかけて来た蟻が膜に向かって足を振り下ろした。膜を壊す勢いで執拗なまでに攻撃を続ける。

「……どうしましょうか?」

「どうしましょうって、攻撃するしかないでしょ!?」

 茫然とするベネディクトに、パニックを起こし掛ける自分。

 防御魔法は持ち堪えているが、何時破壊されるか分からない。

「武器、攻撃、魔法、あっ! え、炎弾!」

 服をまさぐり武器を探しながら、攻撃手段を考え、連想で出て来た魔法の単語から、『虫なら燃えるかも』と炎弾を放った。

 的は目の前で彼我の距離は一メートルもない。狙った訳ではないが、拳大の炎の塊は蟻の頭に直撃し――燃え上がった。

「ギィィィィィッ!?」

「えええっ!?」

「何で蟻が鳴くの!?」

 聞こえて来た鳴き声にベネディクトと二人でギョッとする。その間も炎は蟻の全身に燃え広がる。蟻は炎を消そうと転げ回るが、周囲は草原。炎は草に燃え移るので、炎の勢いは止まらない。やがて蟻が動かなくなったが、周囲の草原は燃えているまま。水属性の魔法を使って大慌てで消火活動を行う。

 鎮火が確認出来たところで、安堵から息を吐き、未だに茫然と座り込んでいるベネディクトの頭を叩いた。

「ちょっと! 何か言う事が有るでしょ!」

「……すみません。予想外でした」

「それで、済むかぁっ!」

 ベネディクトの胸ぐらを掴みたくなったが、ここは我慢。ベネディクトを立たせて、動かなくなった蟻の魔物に歩いて近付く。

「……死んでいますね」

「地面に叩き付けられたら痛いし、拳大の炎の直撃を食らって即死しないし、周囲に炎は燃え移るし。ゲームにしてはリアル過ぎるよ」

 肝の太いベネディクトは蟻の魔物だった物体を指で突き、自分はリアル過ぎた先程の戦闘(?)にげんなりとする。

「あ」

 不意に、ベネディクトが声を漏らした。何事かと思えば、蟻の魔物の残骸に変化が起きた。

 スライムの時と同じく、残骸が宙に溶けるように消えて、拳大の黒い石だけが残った。

「これだけはスライムの時と同じなのか」

「ゲームと言われなければ納得出来ない現象ですね」

 石を拾い、ベネディクトと共に拠点を経由して集会場にまで戻った。

 鑑定プレートを使って、拾った石を調べる。


 鉱石:昆虫型魔物の魔石

 性質:体内に摂取すると軽度の神経麻痺を引き起こす。


「麻痺毒の材料ですか」

「いや、興味深そうに言わないでよ!」

 感心するベネディクトに突っ込む。

 短時間に色々と在り過ぎて、精神的に疲れ果てた。

 集会場に『拠点の外で魔物が出現するようになった。外に出る時は注意されたし』と書置きだけ残して今日はログアウトする事にした。



 深夜三時。自分は再びログインした。集会場に出向く。時差込みで時間的に誰か一人は居そうだと思って顔を出したが誰もいなかった。書置きは誰も読んでいないのか、既読のサインすらなかった。

 今後どうなるかさっぱり分からず、深くため息を吐いた。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

もう二話予約で連続投稿しますので、もう少しお付き合いいただけるとありがたいです。



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