パーティメンバーが揃った
拠点の入り口前にまで戻り、目に見える変わりがないかチェックをする。すると、表札のような物が柵の出入り口の上にある事に気づいた。
恐ろしい事に『菊理』と日本語で表示されている。表示が下の名前だけなのかは不明だ。
隣の拠点の出入り口の上を見る。
自分の拠点と同じで、『アルゴス』、『クラウス』、『ミレーユ』、『ルシア』、『シャオロン』、『ペドロ』、『ベネディクト』、『ギィード』、『マルゲリータ』、と名前が日本語で表示されていた。
「これって……」
プライバシーの侵害じゃないか? って違う。これ全部、パーティメンバーの名前か?
名前で、どこの国か調べる事は出来る。
ミレーユ――たしか、フランス辺りの女性名。
シャオロン――漢字で小龍か? てかこれ、中華系の名前じゃないか?
マルゲリータ――ピザでこんな名前の種類があったな。と言う事はイタリア系か?
うろうろしていると、ベネディクトの表示の下から、怪訝そうな顔をしたシルバーが現れた。本名、ベネディクトって名前だったのか。
「何をしているのですか?」
「上の表示、見た?」
疑問に疑問で返す形になったが、シルバー、いや、ベネディクトは首を傾げ、こちらの視線の先を見て、固まった。
「こっちもさっき気付いた。プライバシーとか、どうなっているんだろうね」
「……本当に、どうなっているのですかね」
茫然としたベネディクトの気持ちは分かる。
本当にこのゲームはどうなっているんだろう。疑問が深まるばかりだ。
再度ベネディクト(話し合いの結果、ハンドルネームとかもういいかとなった為)と分かれ、ログアウトしてから半日後。日付も変わった深夜一時前。再びログインした。なお、服装はリアルの状態が再現されるので、外出着に着替えた。
拠点の空は夜空だが、集会所の空は、日は殆ど沈んでいるが夕方だった。所謂、黄昏時である。
伸びをしながらながら、集会所に入る。何故か人が多い。たった三人からかなり増えている。全員座っている。椅子の空き何処だろ?
何故かウィンプル(シスターが被っている帽子っぽい奴)を被っていない黒髪の美人シスターがいる。リアルでも生シスターにお目にかかれた事がないと言うのに。しかも背が高い。
シスター以外にも、金髪、銀髪、赤髪、茶髪の男女がいる。黄色人種はいない。全員外人か。しかも美男美女揃い。
ベネディクトと同じ銀髪の少年、妙なキラキラエフェクトが見えるし、〇ャ〇ーズ事務所とかにスカウトされそうな感じの美少年だ。ああいう美形ってリアルにいるんだね。
よくよく見ると、ベネディクトとレッドもいた。人数を数えると、自分を含めて十人。パーティメンバー勢揃いである。
「あ、こちらです」
こちらに気付いたベネディクトが手を振る。全員の視線が集中する。
陽キャラっぽいのばかり。輪に入りたくもないが、諦める。唯一の空きである、シスターとレッドの間に座る。
「あたしが最後だったのね」
「時差がある上、アジア圏に在住は貴女だけなので、こればっかりはどうしようもありません」
「なるほど、推測が当たったのか」
前回ログイン時に、他の面々はヨーロッパ在住と言う予想を立てたが、これが見事に当たったらしい。
ベネディクトの説明に頷く。ついでに、現在自己紹介中だったと説明を受けたので、本名で名前を名乗る。本名が既に公開されているので、プライバシーもあったものではないが。
逆に自分も自己紹介を受けた。なお、プライバシーの保護の為(?)ファーストネームだけである。名前で呼び合うとか、高校時代以来十数年ぶりになるのか。何だか懐かしい。
さて、メンバーは次の通りだった。
レッド改め、ペドロ。アルゴス。クラウス。ミレーユ。ルシア。シャオロン。ベネディクト。ギィード。マルゲリータ――否、シスターマルタ。
以上がパーティメンバーである。殆どがヨーロッパ在住だった。リアルでは会う事はまずないな。
シャオロンからはロンと、シスターマルタからはマルタと呼んで欲しいと言う要望が在った。
驚いた事に、自分、マルタ、ベネディクト、ペドロの四人以外は全員学生だった。ロンに至っては、高校生だ。残りの五人は大学生だ。
そして、自分の年齢を言ったらかなり驚かれた。何で何だろう?
「にしても、人種も国籍も年齢もバラバラだな」
ペドロよりも色の濃い赤毛の髪の頭を、褐色の手で掻きながら、ギィードは茶色の瞳で全員の顔を見回す。ギィードの発言に頷いたのは、クラウスだった。ベネディクトに似た緑色の瞳を僅かに細めて、彼のように全員を見ている。
「無作為だとしても、ここまでバラバラだとは思わなかった」
困惑しているのだろう。金色の頭を傾げている。
「ま、全世界にテスターがいるんだ。色んな奴がいるのは当然だろ」
心配はないと、笑ってクラウスの背を叩くのは隣に座るアルゴスだ。アメフトの選手のような体格の茶髪の青年で、見た目通りに力を有しているのだろう。背を叩かれたクラウスが、痛いと声を上げている。
「戸惑うのは分かりますが、色んな方に会えるいい機会だと思えばいいでしょう。私も田舎ではまずお目にかかれない方々に会いたくてログインしています」
柔和にほほ笑むマルタ。青い瞳を弓にして笑う様子は、自分が持っている敬虔で淑やかなシスター像に当てはまる。
「色んな人に会えるのがネットゲームの醍醐味何だし、気負う必要はないと思うなぁ」
ロンの銀髪が光を反射して美しく輝いている。そこに、〇ャ〇ーズ事務所とかにいそうな容姿が合わさると、何かの宗教の開祖っぽく見えるから不思議だ。
ベネディクトと同じ銀髪だからか、年の離れた兄弟に見えなくもない。しかし、瞳の色はベネディクトと違って青い。
「気負う気負わない云々以前に、合うか合わないかでしょ」
「確かにそうだな。合わなかったら、その時に考えればいい」
女子高生のような喋りのミレーユと男口調のルシア。どういう訳か、二人揃って金の髪に金の瞳の女性なのだが、外見的な印象は真逆だ。
ミレーユは身長もそれなりにあり、髪は長く、グラマラスなモデル体型だ。
逆にルシアは、自分と同じぐらいに小柄だ。肩下を過ぎる程度の髪を首の後ろで一つにまとめている。スレンダーと言えば聞こえは良いだろう体型で、男のような服装と相まって、男装の麗人……と言うよりも、少年のように見える。
顔立ちも似ているので、姉妹に見えなくもない。ただし、仲が良いのか悪いのか、さっきからメンチを切り合っている。
喧嘩するほど仲が良いに該当する事を密かに祈った。
自分以外の面々が会話に花を咲かせている。そこまで喋る方ではないので、観察に徹する。
ペドロ、ギィード、自分以外は全員白人だ。とは言え、ペドロの場合は、日焼けしたかのような薄い褐色の肌なので、元は白かったのかもしれない。ギィードは褐色と言うよりも、赤銅色だ。物腰と合わさると、ヤンキーっぽく見える。
ペドロは髭面のおっさんのだが、やっぱり体を鍛えているのだろう。身長は二メートルぐらいありそうな感じだし。
自分以外の残り七名は、美形揃いだ。年齢を事前に聞いていても、本当に自分よりも年下なのかと思う位に大人っぽい。人種の差か。
子供っぽく見える自分は、可能ならば混ざりたくない。
でも、この面子でパーティを組まないと何だよなー。九人だったらアタッカー、ディフェンダー、サポーターに三人ずつで分けられそうだけど、十人だからどう分けるのがいいんだろう。
それ以前に、どこまで試しているんだろう。
試していないのなら、色々と教える必要が有るだろう。武具はまぁ、思い付きで大量に作ったものが有るからそれを渡せばいい。使いこなせるかは別としても――って、全員こっちを見てる。何事かと全員を見回すと、代表してミレーユが言った。
「あんた、黙り込んでどうしたのよ?」
自分とミレーユ以外の八人が頷いた。観察していただけだが、考えていた事もあるのでそちらを正直に話す。
「いや、このメンバーでクエストとかダンジョンアタックをやる時に、ポジションとかどうするんだろうなぁって、少し考えていた」
やるやらないはともかく、ポジションは大事だよね。何て思っていたが、九人同時に、何を言っているんだろう、って顔になり、数秒後に何かを思い出して、ああ~、と言う納得の声を上げた。
その様子を見るに、忘れていたんだろうな。口にしなかったが。
「そういえば有りましたね」「すっかり忘れてたわね」「忘れていたな」「あー、有ったね~」「そういや有ったな」「すっかり忘れていたぜ」「有りましたね」「忘れていたな」「有ったのぅ」
どうやら本気で忘れていたらしい。
「念の為聞くけど、皆どこまで試したの?」
答えを聞くのが怖いが、聞かなくてはならない。全員の顔を見回すと、視線を逸らされた。何もやっていないと言う事か。
「逆に聞くが、貴様はどこまで試したのだ?」
確かにと、ベネディクトとペドロ以外全員の視線が集中する。ベネディクトかペドロのどちらからか、聞いていないのだろうか? 何となく、ベネディクトを見ると、ごめんなさい、と謝罪された。話していないのか。
他の拠点に出入りは可能だったか尋ねると、可能と返事が返って来た。だったら見せた方が早い。
「見せたいものが有るから来て」
ゲーマー魂と言うよりも、厨二魂的な迸るパッションで勢いのままに作った武具が大量に有る。
ペドロとベネディクトは先に教えていたからか、意味が分かったらしい。納得して頷いている。
残りの七人は首を疑問符を頭上に浮かべている。
何が有るのかと言う質問に、見れば分かると、拠点に連れ戻った。
第四話です。
遂に全員登場。キーワードはここで全部回収で来たかな?
次話も連投します。