パーティメンバーとの顔合わせ?
初対面の人間とパーティーを組む日が、ついに来てしまった。
コミュ障と言う訳ではないが、人付き合いは好きではない。苦手である。
だが、今後パーティーとして活動せざるを得ないのだ。顔位は見ておこう。合わなかったら単独で動けばいい。
それ位の軽い気持ちで、その日もログインした。
いつものようにベッドから起き上がり、窓から外を見る。午後一時の青い空。景色に代わり映えはなかった。
「え?」
しかし、拠点の境目である柵から先の光景は一変していた。
まず、昼の青空が夜空に変わっていた。慌てて背後の拠点に戻ると、空は明るい。
次いで、集合住宅地のように、同じ拠点が幾つも見える。数えて見ると数は十。予告されていたパーティメンバーの数と同じだった。
そして、拠点とは違った平屋のような建物が正面に見える。どうやら、この建物を中心に円形に拠点が置かれている。配置から集会場を思わせる。ここは何時から、どこぞの部族の部族の集落になったのか。
目を凝らすと、表示枠のようなものが浮かび上がっていた。
「ん~~~~……」
どうするか、唸るように悩んだ結果、倉庫に向かった。
暇つぶしとして大量に作った武具からいくつかを手に取る。
防護用のコート、閃光爆弾、魔法銃、回復用品他をコートのポケットに忍ばせる。
護身にしては過剰かもしれないが、ないよりは良いだろう。
こんな事なら、何でも入る道具入れを作れば良かった。ちょっと後悔が残る。
装備を整え、意を決して建物に向かった。
建物の前には、こんな表示が浮かんでいた。
『本日より、本ゲームのインフォメーション関係はこの掲示板に表示致します。
事前告知通り、本日よりパーティを組んで頂きます。クエストやダンジョンアタックは、十日後から可能となります。
この建物は集会所としてご使用下さい。
なお、時間は協定世界時を基準としております』
協定世界時って、あれか? ロンドンを午前零時とすると、日本は午前九時になるっていう、世界時間の事か?
改めて夜空を見上げる。日本とロンドンの時差を考える。時差は九時間。現在午後一時いや、十三時である。
十三時から九時間を引いた、現在のロンドンの時間は四時。つまり、日が昇る前。夜空なのは当然だった。
こんな事でパニック(?)を起こすとは、情けない。
ため息を吐くように息を吐き、気持ちを切り替えて、集会場に入った。
入って早々に、再び後悔した。ガラスのドアの先には、だだっ広い空間があった。壁の一部は黒くなっており、電源の入っていないディスプレイを思わせた。その壁の前に、円形のテーブルと椅子が在った。そしてそこにいた。
「おや、誰も来ないのかと思っていたのですが」
低いが落ち着きのある柔らかい声に出迎えられた。
こんな時間じゃ誰もいないだろうと思っていたのに、そう二人もいたのだ。
銀髪の白人の美青年と赤髪に褐色肌の髭面の男性。美女と野獣みたいだな、と不覚にも思ってしまった。外見は自分と同じで、現実と同じなのだろうか。
いや、それ以前に、違和感が有った。
「言葉が分かる?」
明らかに日本人ではない男の言葉が、はっきりと日本語で聞こえたのだ。自動翻訳されているのだとしても、字幕のようなものが浮かび上がって来ると思っていたのだが。これには度肝を抜かれる。
こちらの様子をつぶさに観察していた髭面の方が、獅子のような髭を撫でながら隣の青年に尋ねる。
「うむ。わしらと同じようだな。わしにはスペイン語に聞こえたんだが、何語に聞こえた?」
「私には英語に聞こえましたね。スペイン語には聞こえませんでした」
「奇妙過ぎるのう」
ですね、と青年は同意する。どうやら、この二人も言葉が通じるこの状況が奇妙に思えるらしい。いや、思えない方がおかしいか。便利だけど。
立ったままと言うのもおかしいので、テーブルに近づいて、近い場所の椅子に座る。
「えー、と、貴方達がパーティメンバーですか?」
初対面なので丁寧語で喋る。
「ええ、そうですよ」
「いかにも。儂は――」
笑顔で頷く青年と腕を組んで大仰に頷く男性。そして、男性は何故か名乗ろうとしていた。ハンドルネームか?
「待ちなさい。本名を名乗る気ですか?」
「ああ、そうだったな」
訂正、本名を名乗る気だったらしい。青年に止められている。反応から察するに、一度本名を名乗ってしまったのだろう。しかし、呼び合う名がないと言う状況も不便だな。
「ハンドルネーム、ディアナです。二人のハンドルネームは何ですか?」
不便さの解消の為に思い切ってハンドルネームを名乗り、眼前の二人に尋ねてみる。
だが、名乗りの返しはなく、困った顔をして、顔を見合わせている。どうやら、ハンドルネームを考えて来なかったようだ。この奇妙な状況の打破の為に本名を名乗る気でいたのか――いや、それはないか。止めていたし。
「すまん。考えた事がなかった」
「すみません。私も考えた事がないです」
おいおい。顔が引き攣っているのが分かった。ネットが当たり前のこの時代に、考えた事がないって、変じゃないか? どんな田舎に住んでるんだよ。それ以前に、ネットに接続した時点で一回はアカウントネームを求められるよね?
「何かのアカウントネームもないんですか?」
「あー、ここ数年紛争地帯で医業に勤しんでいたからな。個人でインターネットに接続するのは、十年ぶりかもしれん」
「私の場合、仕事上パソコンとかインターネットは使いますが、個人では使う機会が余りなかったですね。コールサインは持ってますけど」
紛争地帯で医業? コールサイン? 軍医と軍人か? 突っ込んだ事を聞きたいがここは我慢する。プライバシーの詮索はマナー違反だ。
「呼び合う名がないと不便なので、今ここで、考えてください。この際、シルバーでもレッドでも、何でもいいので」
頭痛がする。何故、名前を聞くだけでここまで苦労するのか。
ため息が漏れそうになるのをぐっと堪えて、提案すれば、
「それもそうですね。では私はシルバーでお願いします」
「だったらわしは、レッドでも名乗るか」
椅子から落ちるかと思う程にあっさりと決まった。
ボケに突っ込むって難しいな。
気を取り直して、シルバー、レッド両名と情報の交換をする……と言っても、情報を持っていたのはシルバーだけだった。レッドに至っては初日にログインするも、自由過ぎる設定に興味をなくし、今日までログインしていなかったらしい。
逆にシルバーは初日以降も何度かログインしつつ、ネットで情報を集めていたらしい。
封印した厨二魂が滾ってしまい、やり込んでいた自分とは逆だ。
得られた新規情報は以下の通り。
まず、歴新社について。
自分でも一度調べたが、シルバー曰く、実在の怪しい会社らしい。
次に、ゲームについて。
ゲームのサーバーを探しても見つからないらしい。サーバーがないってネット的にどうなんだ?
ヘッドセットについて。
シルバーが持てるコネクションを駆使し、分解しない方向で調べてもらったらしい。調査結果、人体に悪影響を及ぼす機能は付いていないらしい。
水晶のような宝飾について。
ただの鉱石らしい。ケイ素で出来ているので水晶じゃないかとの事。個人的にはパワーストーンだと思う事も伝えるが、この二人はオカルト関係を信じない方だったので、変な顔をされてしまった。
ここまで聞いて、あの不気味だった鏡について尋ねた。レッドは見てないので分からないと返答。
シルバーは見たらしい。はっきりと映っていた為、気にしなかったらしい。ネットで映った映っていないの二つに分かれ、バグか否かの論争になっている事を伝えると、調べてみると言ってくれた。
また、シルバーはゲーム内の外見についても調査したが分からなかったと教えてくれた。首を傾げたレッドに、この手のゲームは本来であれば、手動で外見を設定するものであり、自動で現実の姿が設定されるのはあり得ないと伝えると、納得してくれた。ログアウト前に鏡で自分の姿をチェックしてくれるらしい。
それにしても、ベータテスターの選出基準が不明過ぎる。ゲーム大好きな自分はともかく、レッドみたいな仕事人間まで選ばれるとは。シルバーもゲームはしない方だろう。そこまで考えて、改めて二人――特にシルバー――を見る。この二人は現実でもこの容姿なのか。男に顔で負けるとは人種の差か。
少しズレたが、それはそれとして。
ここまでの結果、今後のリアルの情報収集はシルバーに任せた方が良さそうだなぁ。民間人な自分と違って色々とコネクションが有りそうだし。
次に、うっかりやり込んでしまった自分のゲームに関する情報を提供する。
ハ〇ー・〇ッターの呪文を唱えたら出来た、何てものが存在したから、色々と試して見たというと、
「魔力があるから魔法が使える。その設定本当だったのですか」
「現実世界で使えれば便利そうだが、ここはゲームの世界だしのぅ」
揃って呆れられたが、日本人だと伝えると、何故か納得された。
「流石、サブカルチャー大国」
「日本人の発想ってどうなっておるんだ?」
賞賛されているのか、貶されているのか不明だった。
ちなみに、魔法の有無について懐疑的だったので、火種や光源となる光球、と言った無害そうなものを出して見せると本気で驚いていた。これで『空が飛べる魔法もあるよ』って言ったらどうなるんだろう。魔法銃も見せるべきかな?
非常に気になったが、残りのパーティメンバーについて尋ねてみる。
「協定世界時を基準にしているので、恐らくですが、あと数時間は来ないでしょうね」
シルバーに推測の根拠を尋ねると、時差と返された。
「プライバシーをさらすようなのですが、現在ニューヨーク在住です。ニューヨークは今、真夜中です」
何だ同じところに住んでおるのか、とレッドが呟いているが、時差の計算中だったので耳に入らなかった。
「日本はログインしてから少し時間が経ってるから十四時前と仮定して、他のメンバーがヨーロッパ出身だったら、確かにログインは無理か」
既に述べたが、日本とロンドンの時差は九時間。うろ覚えだがニューヨークとの時差は十数時間あった筈。この二人良く起きていたな。
「ほかの面子に会うには、向こうの時間が大体、夕方の五時から夜十二時までの間にログインする必要があるって事か」
レッドの言葉にシルバーと一緒に頷く。残りのメンツが社会人だったら確かにその時間帯だよね。
「そろそろログアウトしなくてはならないのですが、書置きとか残しておきたいですね」
「一応こっちでも、それ位の時間にログインを試みて見る」
「済みませんがお願いします。またその辺りの時間にログインをします」
「ログイン出来るか不明だが、頼んだぞ」
時差的に何時にログインすればいいのか。ネットで調べる必要がありそうだ。
二人の言葉に頷きながら、入口の表示枠を思い出す。
「書置きで思ったんだけど、入口の情報掲示板みたいなのって、メモ書き機能とか付いてなかった?」
調べる以前に、今まですっかり忘れていた。それはシルバーも同じだったらしく、あ、と小さく声を上げた。
すぐに三人で移動し、表示枠を調べると、伝言メモ機能が有った。
とりあえず、英語、日本語、スペイン語で、一言ずつを書置きを残して別れた。
第三話です。
メンバーが二人出て来ました。
残りの面子は次話登場です。
次話も連投します。