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自分は何処にでもいる凡人です  作者: 天原 重音


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完成したパズルと新たなクエスト

 調査隊全滅の知らせを受け取ったが、やる事は変わらない。

 それ以前に、これまで関りが無かったのだ。日常に変化は無い。


 そして、時間は掛かったが、ダンジョン内で自分が見つけた骨とロケットに関する報告がやっと届いた。

 骨は行方不明者のもので、ロケットの持ち主は骨と同じ行方不明者だった。

 何が何だか分からないが、『ロケットの持ち主は骨になった人だった』と言う事だ。

 どんな状況と条件下で、骨とロケットが残ったかは不明だ。

 ダンジョンを調査する事で、行方不明者に関わる情報が得られるかもしれない、と言う事だけは判った。

 今後も引き続き、発見したダンジョンへ全員で向かい、調査しつつ攻略する。

 ダンジョンボス戦に失敗して一度撤退したら、そのダンジョンには自分が一人で挑戦する。

 この繰り返しが、これからも延々と続くだけだ。



 そうそう。

 自分が単独でダンジョンに挑み、入手した透明なブロックだが、何度も単独で挑んだ結果、幾つかの似たようなものを入手した。

 考察が当たっていたのか、自分が一人で挑戦すると、ダンジョンボスは弱体化していたので、相応の苦労はあったがどうにか集まった。

 やっぱりこれは立体パズルのパーツなのか、見つかったブロックも変わった形状をしていた。

 気になるのは、自分だけが持って来たゲーム一式セットの一つの、ペンダントトップが中央に配置される事か。皆と相談してパズルを組み立てているが、難解過ぎて根を上げそうになっている。

 単独で行うダンジョン攻略には慣れて来たが、並行して色々な作業をやっているので疲れが溜まる一方だ。

 休息日を設けても、必ず誰かが『『武器を直して欲しい』とやって来る。

 そして何よりも、糖分が欲しくなっても、ここで甘いものはジャムか果物しかない。持ち込んだチョコレート菓子系はダンジョン探索中に食べ切ってしまったので無い。

 ベネディクトにお願いして、支給品としてチョコレートを貰う事は出来たが、遭難用品なのか分からないが、歯が痛くなる程に甘かった。ホットミルクに溶かさないと食べれない甘さだった。

 マルタと一緒に携帯食として、ショートブレッドや、砕いたナッツ入りのクッキーを作っていたので、焦げたり、形が崩れたものを貰って食べていた。

 


 調査隊全滅の知らせを聞いて四ヶ月後のある日の夕方。

 遂に一辺が二十センチ近い立体パズルが完成した。集めたブロックは全部で二十七個だった。

 完成を記念してバーベキュー! 夕飯に肉を焼こう! と、アルゴス・クラウス・ギィードのトリオが騒ぐ。

 何時もながら窘めるマルタも、『今回はしょうがない』と苦笑している。珍しい事にペドロも乗り気だった。

 自分は完成した立体パズルを前に、テーブルに突っ伏していた。完成を喜ぶ気力も残っていない。完成したこの立体パズルは想像以上に難関だった。

 ピンセットで一センチ程度の大きさのピースを摘まんで作る、紙のパズルが簡単に思える難易度だ。

 テーブルから身を起こして、完成した立体パズルを手に取る。

 立体パズルの見た目は透明な立方体だ。ブロックを組み合わせて作ったものだからか、光を当てると内部は『天使の梯子』のように、神秘的な光景を作る。万華鏡のような美しさもあるので見ていて飽きない。

「――んん?」

 立体パズルを下から眺めていたら、幾何学模様のような図形が見えた。けれど、図形の配置はズレている。まるでルービックキューブで良く見る、一ヶ所だけが色違いに似たズレた。

 もう一度、最初から組み上げたいぐらいの微妙なズレだ。

 けれど、組み上げるまでの苦労を考えると、それは躊躇ってしまう。

 せめて、例えのように思い浮かべた、ルービックキューブのように縦横が動けば良いのに。

 そう思いながら横に力を少し入れると、たった今思い浮かべたルービックキューブのように、立体パズルが横に回転した。

 驚きの声が小さく漏れたけど、周辺は完成を祝う喧騒で誰も気づいていない。

 立体パズルを底から眺めつつ、横に縦に回転させて行き、遂に完成した。

「え!?」

 パズルが完成した直後、久しく見ていなかった空中ディスプレイが出現した。

 思わず上げた自分の驚きの声に、皆も何事かと怪訝そうな顔をするが、自分の前に出現している空中ディスプレイを見て唖然とした。


『おめでとうございます。

 九つの鍵を入手したあなたは、真の浮遊大陸に、上陸する権利を手に入れました』


「真の、浮遊大陸?」

 文面を読み、最も気になる点を口に出した。

 皆も空中ディスプレイに表示されている文面を見て困惑している。唯一、ベネディクトだけは『き、記録を! カメラ、カメラぁ!』と騒いでいた。でも、誰もがそれどころではないので、誰もベネディクトを見ない。

 文面を読み直し、同時に思う。

 このゲームのタイトルは『浮遊大陸』だったのに、宙に浮かぶフィールドは存在しなかった。テスターとしてゲームをやっていた頃は、徐々に解放されるだろうと思っていたので考える事すらしなかった。


『九つの扉の先、真の浮遊大陸で残り九つのクエストを全て達成し、神の御許へ行きましょう』

 

 表示されている文章を読み終えた直後、自分の手の中にあった立体パズルが淡い光を放った。

 慌ててテーブルの上に置くと、立体パズルは九つのブロックに分裂し、姿を変えて行き――やがて光が収まると、テーブルの上には九つのアンティーク風の透明な鍵が並んだ。

 古めかしい、まさに『アンティーク』と表現して良い見た目の鍵だが、鍵の差込口が前方後円墳に酷似した形じゃないと使いものにならんだろ。

 それ以前に、鍵穴はどこよ?

 視線をテーブルから上げたが、空中ディスプレイはすでに消えていた。

「……一体、何が起きたの?」

 呆然としたロンの呟きに、誰も答える事は出来なかった。



 テーブルの上に鍵を並べて、現状について改めて話し合う。

 先ずは、事が発生した原因について皆に説明する。


 説明と言っても、立体パズルを底から眺めていたら幾何学文様のような図形を見つけて、直したいが出来ないので諦めるか悩み弄っていたら、ルービックキューブのように動いた。そのまま縦横に動かした。

 そして、立体パズルを動かし続けて、幾何学模様が完成したら、先程の空中ディスプレイが出現した。

 

 自分の説明を聞いて、皆は脱力した。

『何で教えなかったんだ』と、皆から詰め寄られたが、『皆お肉を焼く事で盛り上がっていたでしょ?』と質問を返せば黙った。その通りだもんね。

 沈黙した皆に対して、空中ディスプレイの文章の意味について考えようと提案する。

「意味つったってよぅ、神って何なんだよ? 神って」

「多分だけど、ゲームマスターの事じゃない?」

 ギィードのぼやきに近い疑問に、自分は(テーブルトーク)RPGでの、用語を思い出した。

 GM(ゲームマスター)の扱いが、創造神みたいな扱いを受けていた気がする。

 そこまで解説すれば、皆はやる気を出した。

「遂にこのふざけた状況を作った、元凶と呼べる存在の許へ行けるのか」

「ただの可能性だから、何とも言えない」

 目が据わったペドロは、マフィアのボスみたいな空気を醸していた。それでも殺気立っているベネディクトに比べれば、威圧感は余り無い。

「ふふ、ふふふっ、遂に仇討が出来るのですか。素晴らしい……。ふふっ、ふふふふ……」

 やや顔を俯かせて、不気味な声で笑うベネディクトは怖かった。漏れている殺気と相まって、ベネディクトがサイコパスか、ヤバい人に見えて来る。

 こんな状況でも空気を読まない食べ盛りがいた。クラウス()ギィード()アルゴス(鹿)だよ。

「やる事が決まったけど、先ずはパズル完成祝いでお肉を焼こう」

「そうだな。肉を食って、英気を養って、突撃しようぜ」

「肉を食って、頑張ろうぜ!」

 肉と騒ぐ三人を見て、ミレーユとルシアが苛立ちを込めた非難の視線を向けた。三人と同じ量を食べるルシアですら、肉を我慢していた。話がちょっと落ち着いても、肉とは騒いでいない。

 騒いでいる三人はミレーユとルシアの視線に気づいていない。

 ロンは騒ぎに加わっていないが、小声で『お肉ぅ』と呟いていた。

 マルタは騒ぐ三人と苛立っている二人を見て、額に手を当てていた。

 夕食時だから、欠食児たちが騒ぐのは仕方が無いんだけどね。

 椅子から立ち上がり、マルタの肩を叩いてから、夕食の準備に取り掛かった。

 夕食のバーベキューで、ベネディクトが珍しく普段以上に食べていたのが印象的だった。



 立体パズルが完成した翌日。大陸中央に異変が発生した。

 大陸の中央は何も無い陸地だったが、たった一夜で、内海が出現した。

 そして、内海の海面上には、十個の浮島が存在した。

 浮島と言うのは、その名の通り、『海面上で浮いている小島』の事だ。

 ゲームなどでは定番のフィールドだが、よくよく考えると、どんな原理で浮いているんだ?

 


 浮島に向かうクエストだが、一度上陸したら戻って来れない可能性が高い。

 持って行く装備や食糧などについて皆で念入りに話し合った。

 そして、立体パズルが完成してから三日後。

 鍵は適当なところで差し込んで回すような動きをすれば、使用可能だった。

 出現した扉を開けた。



 残り九つのクエスト。

 それは、クエストの残数を意味し、全て達成して神のところに向かえば、ゲームクリアになる可能性が高い。

 ゲームクリアは、この異常事態の解決を意味する。

 色々な事が起きて、揉めたりもしたが、終わってしまうのはちょっと名残惜しい。

 


 そうそう。

 半年以上の時間が経過したが、母と連絡は取っていない。

 皆はたまに連絡を貰うみたいだけど、自分に連絡は来ない。メール一通来ないよ。

 それだけ、あの二人の世話に追われて自分の事を忘れているって事だろう。

 あるいは、家を出た事で、自分の存在は母の中から消えたのかもしれない。

 何も言わずに自分の人生設計を立てて、思い通りにならなくてキレ散らかしていたから、いなくなって安心しているのかも。

 この異常事態が解決して家に帰ったら、居場所がなくなっていそうだな。


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