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自分は何処にでもいる凡人です  作者: 天原 重音


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戦闘終了と遭遇

「あ、危なかった」

 凍らせた障壁は熱と爆風に耐え切れずに砕けた。障壁をもう一つ展開していなかったらマジで危なかった。

 顔を上げて爆発で発生した水蒸気の霧を、風の魔法で空間の端に寄せて視界を確保する。

 立ち上がって確認すると穴は広がっており、その縁は所々が崩れている。

 階下の泥ゴーレムはどうなったのだろうか?

 障壁を展開したまま穴に近づき、階下を覗き込んだ。穴の真下には乾き切って砕けた状態の泥ゴ-レムの残骸が散らばっていた。

 残骸を注意深く観察すると、砕けた鉱石が混じっていた。恐らくだが、この鉱石が泥ゴーレムの形状を維持していた核だろう。核が砕けていると言う事は、泥ゴーレムは復活しない。

 念の為に階下に降りて確認したが、泥ゴーレムが復活する気配は無い。

 泥ゴーレムに勝った事を確信して息を吐いた直後、壁の一部が淡く光った。同時に泥ゴーレムは跡形も無く消えて行く。

 ……ダンジョンボスとは違う消え方だ。魔石も残っていない。

 ポケットに仕舞ったままの緊急脱出用品を使うのはまだ先のようだ。光る壁を調べる為に移動した。

 近づいて確認すると、自分の胸程の高さの壁が淡く光っているだけだった。壁を注意深く観察しても、光っている以外に違いは無い。

 障壁を解除してから恐る恐る壁に触れると、淡い光は壁に吸い込まれるようにして消えて、一緒に壁の一部も消えた。消えた壁の大きさは縦横奥行き三十センチ程度だ。これ以上、奥に続いていなくて良かった。

 壁の一部に現れた空間の中には、奇妙な形をした物体が鎮座していた。レゴブロックじゃあるまいし、何だこの形は?

 表現に困る形状だがが、強いて言うのなら、十センチ程度のブロックパズルのピースのような感じだ。

 連想で出て来た単語だが、手に取って改めて観察すると、形状的にはしっくりと来る表現だ。材質は水晶かガラスなのか透明だ。

「うっ!?」

 だが、手に取った瞬間、奇妙な手の痺れを感じた。既視感のある痺れだ。それが何か思い出せないが、これも道具入れに仕舞った。

 脱出方法について考えて天井を見上げ、壊れた懐中電灯の一部を発見して頭を抱えた。

 また作らないと、材料あったかな……。そんな風に現実逃避していたら、壁の一部が扉のように開いた。まるで、通れと言わんばかりの出現の仕方だ。

 たった今倒した泥ゴーレムが中ボスだった。そんなオチが無い事を祈ろう。

 新しく登場した通路は、これまでの通ったようなものと同じ通路だった。

 通路内にトラップらしきものは見られない。これまでと同じように通路内を進む事にした。



 泥ゴーレムと戦闘を繰り広げた広間へ続いていた通路は長かったが、今回出現した通路は短かった。

 しかも、行きついた部屋はダンジョンボスを倒さないと入れない部屋――ダンジョンの出口だった。

 あの泥ゴーレムはダンジョンボスではない。それは間違い無い筈だ。

 現在いるダンジョンは一度撤退したところだ。

 前回訪れた時のダンジョンボスは、硬い鱗を持った双頭の大蛇だった。断じて、泥ゴーレムでは無い。

 どうなっているのか分からないが、一度ダンジョンから出られるのなら出てしまおう。

 部屋の中央へ移動すると天井と床が強く光った。視界が白一色に染まる。

 光が落ち着くと全く知らない森の中に場所にいた。これまでならダンジョンの入り口近くに出ていたが、どうなっているんだろう? 生い茂る枝葉から僅かに漏れる赤味を帯びた日光の色を見るに、時間帯は日の出か夕方のどちらかだろう。

 現在位置が分からないので、茂みを掻き分けて周辺を調べる為に歩き回る事にしたが、数歩も歩かない内に遠くから大きな音が聞こえて来た。音に交じって怒声も聞こえる。

 この大陸にいる人間は自分のパーティメンバーと、調査隊の面々だけだ。だが、戦闘音らしい音に交じって聞こえる声は聞いた事が無い野太い声だ。こんな声を持つパーティメンバーはいない。

 となると、未だに合流出来ていない調査隊のものになる。

「……どうするか」

 ぶっちゃけると良い印象は無い。

 助けに行くか見捨てるか考えていると、音が徐々に近づいて来た。

 近くの樹の上に避難する――よりも先に、何かが飛んで来た。飛んで来た物体は避難しようとした樹に激突し、重力に引かれて地面に落ちた。

「――え?」

 地面に落ちた物体は迷彩柄のヘルメットを被った人間の白人の成人男性だった。樹に叩き付けられた衝撃で気を失ったのか、体は痙攣しているが生きている。だが、そんな事よりも、その人間の装備を見て驚いた。

 ――ベネディクトが無断で持ち出した装備を身に付けていない!?

 男の装備は『軽装』と表現しても良いだろう。

 映画で見た事のある、警察や軍人の突入時に着るようなポケットの多い迷彩柄の服の上に、防弾チョッキのようなものを重ね着していた。そこに、ウエストポーチやヒップホルスターを追加装備していた。

 気絶してなお、男が手放さずに持っているのは、四ヶ月近くも前にベネディクト経由で送った魔法銃だ。

 だが、それ以外に自分が作った装備を一切持っていない。

 一体何が起きているのか。あれだけベネディクトが大量に持ち出したのに、魔法銃以外に何も持っていない。一体何が起きれば、そんな事になるのか?

 故意に壊した可能性は残っているが、男のポケットやウエストポーチにペドロが作り送った医薬品が入っていないのはどう言う事か? 医薬品はすぐに使い切るようなものじゃない。

 片膝を突いて倒れている男の頬を何度か叩き、問い詰める為に起こそうとしたが全く目を覚まさない。

 その間も戦闘音が徐々に近づいて来る。


 ――この男は見捨てれば良いんじゃない?


 そんな言葉が頭に浮かんだ。

 確かに今なら逃げても自分がいた事はバレないだろう。死体を見つけたと言う事にして、ベネディクトに問い詰めれば良い。

 向こうも充実した装備を持つ自分達に対して、良い印象は持っていないだろうし。

 見捨てて良いのかと言う良心が囁いた。調査隊の人数が減ると、こちらにも影響が出る可能性が有る。

 けれど、今の自分はダンジョンから出た直後で、回復用品が殆ど無い。

 共倒れは防がなくてはならない。でも、ここは無理をしてでも助けるべきか。いや、仮に助けても別の火種を抱える事になる。

 現在の自分達のパーティは、ベネディクトの行動が原因で微妙な状態だ。

 そこの火種を持ち込んでどうする?

 どうするか悩み、空に向けて息を吐いた。

 ――こいつはまだ生きているけど、悪いが見捨てよう。

 行動を決めて立ち上がった瞬間、頭上から影が差した。見上げると、目の前で倒れている人間と同じく服装をした人間が落ちて来る。

 その場から飛び退き、一瞬遅れて、倒れていた男の上に落ちた。

 新しく落ちて来た白人の男は白目を剥き、口から泡を吹いて痙攣していた。こいつも、壊れた魔法銃以外の装備を持っていない。

 大の男が落ちて来たと言うのに、下敷きになった男は一向に目を覚まさない。

 遠くから誰かを呼ぶ声が徐々に近づいて来る。

 ……無視しよう。戦闘が近づいているのなら、己を守る行動を優先しよう。

 自分一人で二人の男を守りながら戦うのは可能だが、泥ゴーレムとの戦闘で疲れている現状で、連戦は控えるべきだ。

 けれども、決断が遅かった。

 樹を砕く音と共に、アナコンダを連想させる大蛇が姿を現した。一度見た事のある大蛇で、確か麻痺効果を保有する毒液を目から飛ばす個体だ。体液を目から飛ばすトカゲがいた気がするけど、今は関係無い。

 交戦経験があるので弱点も覚えている。こいつは雷撃を浴びると仰け反り、弱点の喉元を晒す。

 無詠唱で放電して、大蛇に雷撃を浴びせる。記憶にある通りに大蛇が仰け反り、弱点を晒した。続いて光属性の槍を放って、弱点の喉元を貫く。

 光の槍は大蛇の喉を貫通し、弱点を貫かれた大蛇はその場に斃れた。

 毒液が飛んで来る前に仕留められて良かった。けれど、魔力の使い過ぎで体が重い。その場で地面に座った。

「ジョージ! マックス!」

 茂みを掻き分けて、一人の男が跳び出て来た。降って来た男達と同じ服装の黒人の男性だった。

「……あ? イエローモンキー?」

 黒人の男は自分を見るなり、怪訝そうな顔をした。その目は『何でこんな奴がいるんだ?』と言わんばかりに眇められた。その視線に交じって感じるのは、これまでに感じなかった不快なものだ。

 男の後ろから、同じ服装の十人近い男が現れた。自分を見るなり、不快と感じる視線を送られた。

 大きく息を吐いた。

 パーティメンバーが特殊だった事を、こんなところで確認する日が来るとは思わなかった。

 ポケットに入れていた緊急脱出用品を取り出す。これは拠点では無く、先程までいたダンジョンの入り口に戻る為のものだが、これ以上ここにいたくない。

 立ち上がって緊急脱出用品を起動させる。

「助けるんじゃなかった」

 ポツリと本音が漏れた。

 緊急脱出用品が起動し、視界が一瞬で切り替わり、唖然とする羽目になった。

「嘘ぉっ!?」

 ダンジョンの入り口に戻った筈なのに、そこにはダンジョンが存在しなかった。

 あの泥ゴーレムがダンジョンボスだったのか!? でも、一度見たダンジョンボスはどうなったんだ?

「どうなってんのよぉおおおっ!!」

 頭を抱えて絶叫するも、何も無い荒野に空しく響いただけだった。


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