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自分は何処にでもいる凡人です  作者: 天原 重音


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調査隊の異変

 翌日。

 遂に集められた残りの面々が上陸する日になった。

 銃火器を始めとしたものが、初期装備として支給された状態で上陸する。対して、自分達の支給品は携帯食だけだった。今になって思うと、ベネディクトが無断で断ったとしか思えない。

 遅れて上陸した面々に対して、自分達が出来る事は無い。強いて言うのなら、情報提供ぐらいだ。

 昨日までの事は周知徹底を図り、調査隊以外にも各国に広まったそうだ。

 


「そんな事を言われても、実感なんて無いわよね~」

 集会場に集まって、朝食を取るついでにベネディクトからの報告を聞きながら、カップに注いだマルタ手製のコンソメスープを飲んだミレーユの感想はこれだった。

 他の面々も似たり寄ったりの反応を示し、出来立ての料理に舌鼓を打っている。

 今朝はマルタと相談して、自分が持ち込んだ食材を使った食事を皆で食べている。朝食を配ったついでに、渡し損ねたお守りも配った。

 ちなみに今日の朝食は小さく切ったベーコン入りのコンソメスープに、オムレツとサラダとロールパンである。洋風なのはここにいる面々を考えてだ。和食は受け付けないだろうね。

「新しい人員が来る事よりも、新しい鉱脈を探す事の方が大事だよ」

 昨日、皆で出向き攻略したダンジョンは、今朝になって判明した事だが、綺麗に消えていた。

 攻略する事でダンジョンが消えるのは、必ずしも良い事とは言えない。

 昨日の事を踏まえると、資源を確保する為のダンジョンを攻略したら、新たにまた探さなくてはならない。現時点では、どこにダンジョンが存在するのか不明だ。探しに出歩く必要が有る。

 でも、ダンジョンを攻略しない事が原因で、ファンタジー系の漫画とかである、ダンジョンから魔物が溢れ出て来る『スタンピード』が発生しては、こちらも困る。

 両者を天秤に掛けるが、どの道ダンジョンは探さなくてはならない。



 朝食が終わったら今日の予定について話し合う。

 流石に昨日ダンジョンを強行突破しただけあって、皆の今日の予定は決まっていた。

 命懸けの実戦を経験して、自身の足りない部分について理解を深めたのか。ベネディクトと自分以外の全員が拠点内で訓練を行う。

 一人、ロンだけがしり込みしていたが、クラウス、ギィード、アルゴスの三人が強制的に連れて行った。

 ルシアとミレーユは揃って剣を片手に移動した。昨日のキャットファイトの続きでもするのか。

 マルタはペドロから治療法について学ぶ。医者のペドロは二つ返事で受けていた。

 ベネディクトは近辺の調査で拠点から出た。

 自分は昨日採集した鉱石の整理などを行った。午後にルシアから剣の改造について相談を受けたが、特筆するような事は起きなかった。

 それぞれの予定で上陸三日目が終わったが、まさか四日目にして状況が急変するとは思わなかった。



 陸四日目。

 遅れて大陸に上陸した面々も、今日で二日目を迎える。

 昨日、と同じく、今日も集会場に集まり朝食を取り終え、ベネディクトからの報告を聞く。

 ベネディクトから遅れて上陸した調査隊の面々の報告を聞き、皆で困惑の声を上げた。

「何の冗談だ?」

「アルゴス。気持ちは解りますが、冗談ではありません。事実です」

「事実だとしても、数が多過ぎる」

 ロンの背中を擦っているペドロも困惑気味だ。

 困惑を通り越して震えているのはロンで、顔を真っ青にしている。


 さて、何が起きたのか説明したいが、自分も情報が呑み込めないでいる。

 だってさぁ、『昨日上陸した面々が、初日の夜間に魔物と交戦して、全体の約二割死亡』って、『何の冗談だよ!?』としか思えないでしょ?

 単純に戦死した人数が二割ってのが大きい。

 ゲームをやり込んでいた人数が少ないのは解るけど、それを差し引いても戦死者の数が多過ぎる。武器は支給されている筈だぞ。

 安全地帯であれこれと考えても、答えは出ない。 


 この情報が齎され、自分達には迅速なダンジョンの捜索と攻略が求められた。

 一昨日、ダンジョンの一つを無理矢理強行突破したから、こんな要求が来るのか。

「ダンジョン攻略を要求されても、ダンジョンが見つからないと攻略のしようが無い。そんな要求が来るって事は、新しいダンジョンが見つかったのかい?」

 クラウスの言い分は尤もだ。新しいダンジョンが見つかったのかと、皆も期待と不安が綯交ぜになった支援をベネディクトに向けた。

 皆の視線を集めたベネディクトは、否定の言葉を発した。

「いいえ。ダンジョンを探しながら、見つけ次第ダンジョンを攻略しろ。それが我々に求められている事です」

「「「無理だな」」」「「無理でしょ」」「「無理だろう」」「無理だよ!」「無理ですよ!」

 異口同音に、皆で『無理』と声を上げた。

 ダンジョンを探しながら攻略するとか、現状では無理だ。上陸してからまだ五日も経過していない。

 今の面々では、『全員揃えば攻略は可能かも?』と言う状態だ。戦力を分散させた状態でダンジョンに挑めば、現在の戦力では分けた面々が全滅しかねない。

 それ以前に、ダンジョンを探す場合、手掛かりが無いと探しようがない。

 ゲームでダンジョンを探す時でも、手元に地図があったんだぞ。

「ベネディクト。先ずはダンジョンらしいところを、先に探して貰って。ドローンとか、衛星を使うなりして、洞窟の入り口みたいな、それっぽい出入り口か、手掛かりを探して貰わないと、移動手段が基本的に徒歩だから、移動だけで相当な日数が掛かるよ」

「……そうでしたね。では、近場でそれらしい入り口を探して貰います」

 手掛かりを探して貰えと提案したら、ベネディクトは素直に引き下がった。

 今になって思い出したけど、ベネディクトには上陸前に道具入れを渡した。そして、一人で遠くへ移動したりしている。確認していないけど、渡した道具入れに十人乗りの車が入っているとか……流石に無いよね?

 黙って持って来ているとしても、ガソリン車だとガソリンの補給が出来ないから、多分電気自動車だろうし。

 魔法の属性に雷が有るから『魔法を雷=電気に変換可能』と考えていなければいいんだけど。不安だな。

 自分の提案を採用したベネディクトは、それらしき場所の捜索を依頼すると言って集会場から去った。

 朝食後だった事もあり、他の面々もチラホラと集会場から去って行った。

 自分も昨日の作業の続きを行う為に集会場をあとにした。



 何も起きないまま一日が終わると思いきや、夕食後にベネディクトから相談を受けた。

「使っていない武器の提供?」

「はい。火薬式の銃火器ではどうしようもない時用に、この魔法銃みたいなものが幾つか欲しいと」

「それって、実際にその状況に陥ったって事?」

「ええ。初日の夜間が正にその状況だったらしく、軍籍保持者の一人がダイナマイトを抱えて、大型生物の口内に跳び込んでどうにか仕留めたと聞かされました」

 ベネディクトの説明を聞き、想像したくも無いグロイ状況を思い浮かべそうになった。

「皆で使うものだから、あたし一人で決めるよりも、全員で決めた方が良い」

「あ、他の面々にはもう聞きましたよ。揃いも揃って回答は、『製作者のククリが提供してもと言ったのなら、良いのではないか』でしたが」

「何で揃いも揃って、こっちに丸投げするのよ」

 ため息を吐いてから少し考える――までもない。

 調査隊の人手が減って、最終的に困るのは自分達なのだ。

 ここは、調査隊一人一人の生存率を上げる為に提供しよう。ただし、条件を付ける事も忘れない。

 ここにいる面々はその手の意識の無いものばかりだから気にした事は無いが、海外では『アジア人差別が酷い』と聞く。自分の国籍を理由に作った武器を無断で持ち出されては困る。

 ここのパーティが困った状況に陥らないように配慮する事と、製作者に無断で持ち出す事を禁止する。そして、極力壊さないように大事に使う事。

 この三点を条件にベネディクトに提供しても良いと回答した。

 

 後に、この決断を後悔する事になるのだが、それは四ヶ月も先の事だ。

 

 一先ず、現時点で存在する魔法銃を十四丁だけ送る事になった。

 元々、予備を含めて一人二丁渡す予定だったので、余分が有った。提供する事をパーティメンバーに報告し、了承を得てから拠点にまでやって来たドローンに魔法銃を入れた箱を括り付けて送った。 



 上陸してから十日が経過した昼過ぎ。

 ベネディクト経由で、漸く見つかった新しいダンジョンらしい入り口発見の報告を聞いた。併せて、他の調査隊の動向も尋ねる。魔法銃を提供した事で、魔物と戦闘になっても負傷者が出るだけになったそうだ。

 上陸してから一週間が経過しているのに、進展が無いのかと思ってしまったが、死人が出ないだけ進展はあると言い聞かせた。何時か合流した時に、何も無い事を祈るばかりだ。

 新しく見つかったダンジョンの入り口らしい場所は、拠点から東に三キロ先に広がる草原だ。先日攻略したダンジョンとは違う草原だ。

 草原のど真ん中に巨大な岩があり、その岩の裏側に穴が開いていると報告を受けた。

 今から出発して、攻略にどれ程の時間が掛かるか判らない。到着するまでに魔物と交戦すれば、その分時間が掛かる。

 今日は準備に費やし、明日の朝、出発する事になった。

 


 翌日。

 結論を言おう。予想外の結果で終わった。

 移動途中、何度も魔物と交戦はしたので、ダンジョンに到着するまでに時間は掛かった。これは予想範囲内だ。予想外だったのはダンジョンの方だ。

 見つかったダンジョンは、ゲーム時代にベネディクトと一緒に攻略した、ドラゴンが出たダンジョンだった。

 しかも、難易度が下がっており、ダンジョンボスはイソギンチャクみたいな魔物だった。

 難易度が下がっていて、攻略経験のあるダンジョンだった為、攻略に掛かった時間は短かった。昼前に入ったにも拘らず、夕方には拠点に戻って来れたのである。

 回収する資源の無いダンジョンだったので、攻略しても旨味は無かった。

 ドロップアイテムもショボくて、砕いて粉末にすると麻痺毒になる魔石が『一個』出ただけだった。

 労力に見合わないダンジョンだったが、夜に新たなダンジョン発見の報告を受けた。

 一晩休み、翌朝。

 北に五キロ離れたところの岩場に向かい、ダンジョンの攻略に臨んだが、ここも前日とほぼ同じ難易度だった。それでも、資源を回収出来たので旨味はあったよ。

 二日連続でダンジョンを攻略し、一日挟んで発見されたダンジョンへ向かった。



 こんな感じで、ダンジョン発見の報告を受けて攻略に向かうようになり、更に半月が経過した。上陸してからもうすぐ一ヶ月が経過する。

 近隣の調査も同時進行で進め、判明した事も報告した。

 意外だったのは、ダンジョン外で遭遇し、討伐した動物系と魚系の魔物の肉(血抜き処理済み)が美味しかった事か。何時まで経っても消えないので血抜きをして調理したら美味しかったので驚いた。

 植物でも木の実(乾燥などの加工済み)や果実などが食用可能だった。これにより、支給品が調味料中心となった。

 また、植物の中には傷を癒やし、魔力回復させる、木の実やキノコ、葉などが見つかった。ペドロがこれらを使った医薬品が作れないか研究を行っている。 

 一ヶ月が経過しても未だに合流出来ていない他の調査隊の状況はかなり酷く、残っている人数は上陸前の六割にまで減った。

 四割近い死者が出ても、中断の判断は出ない。

 仮に中断となっても、結果を出している自分達十人は帰れないだろう。

 自分は作った武器の提供をたまに行いつつ、ダンジョン攻略に勤しんだ。



 上陸から一ヶ月が経過した。

 今更だが、自分以外にクエスト達成報酬(自分達が使用している拠点)を得た人はいないのか気になった。

 ベネディクトに確認を取ると、回答はまさかの『否』だった。

 報酬を獲得する時に先着とか、そう言った記述は無かった。

 ……本当に、どうなっているんだろう?

 自分に疑問に回答は無いまま、合流する事も無く月日は過ぎた。 

 


 上陸してから四ヶ月も経過すると、パーティメンバーの面々も、否応なしに戦闘にも、負傷にも慣れて来た。

 調査隊との合流は未だに果たされていない。代わりに問題が発生している。

 武器を作っても作っても、供給を要求されるのだ。

 ベネディクトが『良いですよ』と言わんばかりに、作った端から大量に持って行ってしまうので困っている。しかも、実験用として作った武器までも『無断で持ち出される』ようになって来た。保管庫に鍵を付けても、ベネディクトは無断で開けて持ち出してしまう。

 提供する際の条件を忘れているのかと、ベネディクトに詰問したが『間違えた』とはぐらかされるばかりで、状況は一向に改善しない。それどころか、『材料に余裕があるのだから、また作れば良いじゃないか』と笑顔で言い出す始末だ。

 なお、材料集めを行っているのは、主に自分一人だ。他の面々と違い、ベネディクトは上陸してから二ヶ月目に突入して以降、手伝ってくれない。

 ……こんな事なら、提供を断れば良かったな。

 余りの状況に他のパーティメンバーも苦言を呈するようになった。

 それでもベネディクトが行動を改めない中、事件が起きた。

 一度撤退したダンジョンで使用する予定の研究中の武器(対ダンジョンボス用)を、ベネディクトが無断で持ち出したのだ!

 流石に我慢出来なくなり、『暫くの間、何も作らない』とベネディクトに宣言した。



「それは困ります」

「困っているのはこっちだよ! それ以前に、いい加減にしてよ! 最初に提示した条件を忘れたの!?」

「……覚えていますよ」

「覚えているのなら、何で無視するの!?」

 無視する理由をベネディクトに問い詰めたら、目を逸らされた。

 ……理由は言えないって事か。

 居合わせた他の面々はハラハラしながらこちらを見ている。

 自分達は装備が充実しているから、どうにかなっている。

 対して、他の調査隊の面々は軍から支給された銃火器しかなく、魔物に対しても有効打とならない事も多い

 でも、上陸してから四ヶ月が経過する。

 この四ヶ月間、様々な情報を報告し、武器の提供も行った。ペドロが開発した医薬品も提供している。

 それなのに、この状況は、一体どうなっているのか。

 ベネディクトは何も言わない。言い訳もしない。

 これ以上、ベネディクトに文句を言い募っても意味は無さそうだ。

 ため息を吐いてから、自分は集会場から去った。

 ベネディクトを許しての行動ではない。

 当面の間の荷物を纏める為だ。

 準備を終えた自分は、その日の内に拠点から出た。


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