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自分は何処にでもいる凡人です  作者: 天原 重音


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初のダンジョン攻略

 ダンジョンの奥へ移動途中、何度か魔物に襲われた。

 最初の兎と違い、空中を飛ぶ魔物だったので、自分が魔法で全部燃やした。討ち漏らしは、簡単な攻撃魔法と捕縛魔法の練習として、攻撃魔法が使えないルシア以外の皆が頑張って倒した。

 空中を飛ばない魔物は、自分以外の皆が頑張って倒した。怖じ気づいていたロンだったが、途中からヤケクソ気味になっていた。

 倒した魔物だけど、ゲーム内と同じく一定の時間が経過すると、勝手に消滅する。ただし、魔石が出て来る確率は低い。十匹倒して、その内の一匹から一個出て来るか否かと言う低確率だ。

 効率が悪いから、魔石は集めなくても良さそうだな。

 当初の目的の鉱石は順調に回収している。皆の消耗具合は酷いけど、気力でどうにか保っている。



 移動の合間の休憩時間。

 持って来た一口チョコレート菓子を皆に配って、休憩している時にルシアから質問を受けた。 

「ククリ。ダンジョンの最奥がどうなっているか判るか?」

「ゲーム内と完全に同じなら、ダンジョンボスとして強い魔物がいるかもしれない」

「強い魔物?」

「実際に見たのは、三つ首の大きな狼とか、多頭の大きな蛇とか、ドラゴンとか」

 ゲーム時代、クエストとしてベネディクトと共にダンジョンアタックをした時に見た魔物を例えに挙げた。


 ダンジョンボスとして、ドラゴンが出て来た時はマジで焦った。

 瀕死に近い状態のベネディクト治療中だった事もあり、大いに焦ったわ。

 焦っていた割には『黄昏よりも暗きもの。血の流れよりも赤きもの……』と詠唱の言霊がすんなりと出て来てくれたお陰で、どうにかなった。

 あの時、小説を読み込んで、ゲームをやり込んで、アニメを全部視聴したオタクで良かったと思える日は無いだろう。二度と来ない事を祈るしかない。


 例えが悪かったのか、皆の顔が曇った。

「ここでは出ない事を祈るしかないね」

「……そうだな」

 ミルクチョコレートの甘みに顔を少しだけ顰めていたギィードが頷けば、皆も同意する。



 休憩を終え、再び魔物を蹴散らしながら移動を続けて、ダンジョンと化した鉱脈の最奥部分に到着した。

「ダンジョンボスはいますが、人型が三体編成です」

「人型? もしかして、ゴーレム系?」

 ベネディクトが調べた結果を聞いて、ダンジョンボスがどんなものか想像した。けれど、他の皆には馴染みのない単語だったのか、揃いも揃って頭に疑問符を浮かべた。

 読んでいないし映画も見ていないから知らないが、世界的に映画化された有名なファンタジー小説二種類(片方は指輪が題材、もう片方は学校もの)に、ゴーレムって登場しないんだっけ?

「ゴーレム?」

「土か岩か、鉱石で出来た、二メートルから五メートルぐらいの大きさの人形みたいな魔物だよ。泥のゴーレムだと擬態する時があるから気をつける必要があるけど、それ以外のロックゴーレムとかアイアンゴーレムだと、今度は硬くて苦労するんだよね。手足が変形する時もあるし……う~ん。他のゲームみたいにミスリルゴーレムとかが出て来たら、もっとヤバいんだけど、どうする?」

 ゴーレムについて簡単に説明し、皆にどうするか尋ねた。

 その回答は『行く!』だった。

 一番心配だったロンは目が死んでいた。途中から自棄を起こしていたが、多少は落ち着いた模様。目が死んでいるが、魔物の急所を魔法銃で的確に撃ち抜いている。『全てを終わらせて早く帰る!』と言う心境に到達したのかもしれない。

 全員の意志を確認してから最奥へ足を踏み入れる。

 そこには、光の無い目をした無い灰色のゴーレムが三体いた。その大きさは三メートルぐらいか。少なくとも、ペドロよりも大きい事は確かだ。

 ゴーレムとの彼我の距離が四メートルを切った時、ゴーレムの目が怪しく光った。のっそりとした動きで、ゴーレムの手足が動く。武器は持っていないけど、手足が武器に変わる可能性は事前に知らせた。

 ズシーンと重い音を立てて歩くゴーレム姿を見るに、動きは見た目通りに遅そうだ。

 見た目から種類を判断すると、ロックゴーレムっぽいな。

 表面を砕いたら、その下からアイアンゴーレムが登場する――そんな展開が無い事を祈るしかない。

 先ずは声を上げて皆の動きを止めて、威力の弱い複数の魔法を放ち、ゴーレムの強度を調べる。この時に、複数種類の属性の初級魔法を放ち、弱点となる属性を調べる事を怠ってはならない。

 魔法攻撃に弱いのならば、どれか一つの攻撃で反応が変わると思ったんだが、変化が見えない。

「物理攻撃で押し切るしか戦法が無さそうだね」

「ククリ、それはハンマーで殴れって事か?」

 アルゴスの質問に違うと否定してから、もう一つの判明した事を教える。

「予想よりも硬いから、なるべく関節部分を狙って。関節部分を狙っても、剣が折れる可能性も有るから、それだけ忘れないでね」

「おう。分かった」

 返事を返すなり、アルゴスはベネディクトを連れて走り出した。


 ここに来るまでの間に、この二人は足の速さと身軽さを利用して、可能な限り撹乱と囮役を引き受けるようになっていた。ベネディクトが所々でフォローを入れるので、大事には至っていない。

 自棄を起こしたロンは魔法銃で、足止めと注意を引く、この二点を中心に行っている。

 ペドロとマルタは治療要員として動いている。正直に言うと、マルタには攻撃側に回って欲しい。でも、本人の希望が後方なので、緊急時になったら前に出て貰う事でペドロと一緒に行動している。

 自分は攻撃魔法による支援を中心に行っているが、防御魔法が使えるのも自分だけなので、ペドロ、マルタ、ロンの三人の護衛役も務めている。

 残りのルシアとミレーユ、クラウスとギィードの四人は、前に出て直接攻撃を加えている。

 自然と割り振られた役割分担だが、誰も不満を抱いていない。

 皆が出来る事をやっていたら、自然とこんな形になった。


 各々の役割分担でゴーレムに攻撃を加えて行く。一体ずつ撃破とはならない。苦戦しながらも、着実にダメージを蓄積させて行く。

 悪態と一緒に、硬い、手が痺れる、などの声が上がる中、遂に三体の内の一体のゴーレムの腕を落とした。

 ゴーレムの腕が地面に落ちた。前衛四人が気勢をを上げる中、腕を無くしたゴーレムの様子をつぶさに確認する。ゴーレムに予想していた変化の兆しが無い事を確認する。

 三体中一体(両腕有り)が、他の二体と距離を取った。すぐに氷属性の魔法攻撃を放ち、三体中二体を氷漬けにする。ゴーレムの動きが緩慢だから出来る事だ。

 本音を言うと、三体纏めて氷漬けにしたいが、流石にそこまでは出来ん。兎の時もそうだったが、現時点で一度に捕縛出来るのは二体までだった。三体目以降はどうやっても狙いが甘くなる。

 一対四の状況を作ったところで、前衛四人の攻撃が激しくなり、漸くゴーレムを一体倒す事が出来た。

 時間が掛かっているし、前衛四人の息も上がっている。マルタとペドロが、治癒魔法を四人に掛けた。

 直後、二体のゴーレムを拘束していた氷が内部から砕かされた。

 四人は慌ててゴーレムから距離を取り、アルゴスとベネディクトがフォローに入って二体を引き離す。

 再度、氷漬けによる拘束を試みるが、抵抗されて失敗した。嫌な推測だけど、攻撃を一度受けると耐性を得るタイプなのか? ゴーレムの癖に。

 すぐにロンが魔法銃で足止めを行う。乱射に近いが足止めは確かに行われた。

「あれ? あれれ?」

 しかし、そんな声と共にロンが突然、その場に尻餅を着いた。何事かと思ったが、尻餅を着いたロンが何度も引き金を引いているにも拘らず、魔法銃が反応していない。

 その様子から、魔力が尽きたと判断する。

 魔力が回復するまでロンを後ろに下がらせたが、ここが弱っていると判断されてしまい、片方のゴーレムが前衛組に背を向けて、こちらに向かって来た。

 色んな意味で不味い。

 ここに来るまでに判明した事の一つに、『ペドロは攻撃魔法を苦手としている』がある。適職治癒士だから、攻撃魔法を苦手とするのは解る。

 意外な事に、マルタは攻撃魔法と治癒魔法を使える。適職は重拳闘士なのに。

 いかんいかん。現実逃避をしている場合ではない。

 足止めをしたいが、攻撃を受けると魔法耐性を得るゴーレム相手に、どんな攻撃魔法を使えば良いのか。

 手持ちの魔法銃で攻撃してもびくともしない。

 悩んだ末に、マルタに呼び掛けた。

「マルタ」

「嫌ですよ!?」

「まだ何も言っていないじゃんっ!? てか、嫌とか言っている場合じゃないでしょ!!」

「そ、そそ、それはそうですけどっ」

 尻込みするマルタだったが、無情にもペドロが前に押し出した。押し出された際によろめいたマルタは、ゴーレムの前で派手に転んだ。顔から地面に突っ込んだが、大丈夫か?

 心配している間も、ゴーレムはゆっくりとした動きでマルタに近づく。

 前衛の四人と撹乱の二人は、この隙に残りの一体を討伐すべく頑張り始めた。

 未だに起き上がりもしないマルタの正面でゴーレムが止まった。そのまま握った右の拳を振り上げるが、不気味な笑い声が響いた。

「……うっふっふっふっふ~、何でこうなるのかしらねぇ」

 がばっとマルタは起き上がったが、自分がいる側からマルタがどんな顔をしているのか分からない。

「ただの石人形の分際で、さっさと倒されないからっ」

 マルタは俯いたままでぶつぶつ独り言を言っている。危ない、危険だと言いたいけど、マルタが纏う空気的にそんな事を言うのは不味い気がしてならない。

 現に、立ち上がったマルタは持っていた杖を放り捨てて、両方の拳を握った。同時にゴーレムが拳を振り下ろした。

「石ころは石ころらしく、地面に転がっていなさーいっ!!」

 マルタの左ストレートが、ゴーレムの右の打ち下ろしを迎え撃った。二つの拳がぶつかり合い、バキバキと音を立てて、ゴーレムの拳が粉砕された。

「うらぁっ!!」

 マルタの右ストレートがゴーレムの胴体を捉えた。ゴーレムはその巨体を一瞬だけ『体を宙に浮かせて』から、粉々に砕けて地面に落ちた。

「ふんっ」

 ゴーレムの破片が地面に落ちると音をBGMに、鼻を鳴らしたマルタは服に付いた土を払い、髪を後ろに払ってから放り投げた杖を拾った。

「……わ~、凄いね」

「人選は間違ってはおらんが、扱いが難しいな」

「そうだね」

 ロンは手を叩いて素直に称賛した。

 ペドロは顎を撫でながら思案顔になった。

 自分は予想以上の結果に呆然とした。



 マルタが杖を拾って戻って来るまでに、六人は最後の一体となったゴーレムを倒し戻って来た。

 三体のゴーレムはダンジョンボスらしく、三体とも魔石を残して消滅した。魔石を鑑定したら三個とも『魔法耐性獲得確率アップ』と出た。

 やっぱり氷漬けに失敗したのは、この魔石が原因か? それよりも、何故確率アップなんだ?

 何はともあれ、ダンジョンボスっぽいゴーレムを討伐した。最奥を調べたら、奥へ続く道を見つけた。怪我の治療と、休憩して体力と魔力を回復させてから、全員で奥へ移動した。

「なぁ、ククリ。この道はどこに続いているんだ?」

「流石にそれは解らない。ゲームのセオリー通りなら、ダンジョンの出口か、ダンジョンを攻略した事で得られるドロップアイテムが置いてある部屋か、その両方だと思う。ゴーレムが表のダンジョンボスじゃなくて、裏のダンジョンボスだったら、もう一度戦闘になる可能性も有る」

「……さっきので打ち止めになって欲しいな」

 ギィードの質問にゲームのテンプレから予想出来る事で回答したら、その場にいた全員がげんなりとした顔になった。

 個人的にも、さっきの一戦で終わりであって欲しい。

 青白い光を頼りに、薄暗い洞窟内を進む。無言で洞窟内を歩き続けていると、一際広い場所に出た。流石に光源が足りないので、光属性の魔法で光源を作り、宙に浮かべている。

「十分の移動にしては広いですね」

「わざわざ時間を計ったのか」

「時間間隔が狂いそうだったので、修正として計っていただけです」

「なら良いんだがな」

 ベネディクトとペドロが後ろで何やら繰り広げているけど、無視して全員で広間を調べる。

 そこそこ長い時間を調べても戦果無しと思いきや、天井に紋様が刻まれていた。

 全長十メートルにも及ぶ、芸術的で緻密な幾何学模様。文字らしきものがあちこちに彫られているが、見た事の無い文字だ。

 ベネディクトがスマートフォンのカメラで紋様を撮影している。自分も気になって撮影した。

 刻まれている文字はアルファベットとも、ギリシャ文字とも、古いが楔形文字とも、オガム文字とも似ていない。でも、漢字の止めと払いみたいなものがあるから、梵字が一番近いかな? 

 どの文字に似ているか、撮影を終わらせてからベネディクトと話し合ったけど、答えは出なかった。

 よくよく見ると、ルーン文字やヘブライ文字を連想させるものまであった。

 調査結果、合計三種類の文字が彫られた謎の紋様以外には何も見つからないと思ったが、『天井にあるのなら床にもあるよね?』と、対となる紋様が床にもあるかも知れないと思って探したら、真下で見つかったよ。壁しか調べていなかったから、盲点だった。

「小さいですが、天井の紋様と同じ文字が使われていますね」

「比較すると確かに小さいわね。天井の紋様が大き過ぎるだけかもしれないけど」

 マルタとミレーユの言う通り、床の紋様は小さい。小さいと言っても天井の半分ほどの大きさがある。

 天井を見上げ、床の紋様に視線を落とした面々は紋様に触り始めた。

『はっ?』

 誰が最初か分からないが、床の紋様に触れた時、紋様が端から光り始めた。反射的に天井を見上げると、天井の紋様も呼応するように光っている。光は徐々に強くなって行く。

 何が起きるのか分からないが、全員の位置を確認する。この文様が転送系の魔法陣なら、紋様の上に全員がいないとバラバラになりかねない。

「紋様の上に移動して!」

 反射的に叫び、全員を確認すると紋様の上にいた。

 緊急時に備えて、隣にいたベネディクトの腕を掴む。他の面々も自分の行動を見て、近くにいるものの腕や服を掴んだ。

 直後、視界が白一色に染まった。


 

 眩い光が収まると、草原にいた。誰からと無く周囲を見回し、安否確認などの声が行き交う。

「無事か!?」「どうにか」「凄い光だったな……」「あれ? 外?」「うぉ!? どうなってんだ!?」「出られたのか」「お外。太陽が、眩しい」「マルタ、正気に戻れ」「一、二、三……、全員いますね」

 最終的にベネディクトが人数を数えて、全員が揃っている確認が取れた。

 周辺を見回すと、自分達が拠点として利用している建物が遠くに見えた。同じもので別物かも知れない。

 ……ダンジョンの外に転送するのなら、拠点にまで飛ばして欲しいわー。

 別の意味で贅沢な文句を内心で呟き、皆に拠点の存在を明かし、移動を始めた。

 太陽は大分沈んでいる。スマホで時刻を確認し、ダンジョンに滞在していた時間を計算すると、六時間以上もいた事になる。

 攻略のペースを上げるには、個々が強くなるしかないんだけど、上手く行くか怪しいなぁ。



 遠くに見えた拠点は、自分達が使用しているものだった。

 帰って来れた事を実感するなり、何人かがその場にへたり込んだ。そんな中、一人コソコソと動いている人物がいる。言わずもがな、ベネディクトだ。

「ベネディクト。今朝みたいにどこかに報告するんでしょ?」

「そ、そうですが?」

 目に見えて狼狽している。だったら押し付けてしまおう。

「だったら今後の詳細な報告は、全部、ベネディクトが一人でやって」

「え?」

 ベネディクトが呆けた隙を付き、皆に一声掛ける。

「異議のある人いるー」

『無い!!』

「ええっ!?」

 多数決の結果を聞いて頭を抱えて絶叫するベネディクトを放置し、自分は女性陣三人に『シャワーを浴びよう』と声を掛けて移動した。

 夕食は携帯食で済ませたよ。



 こうして一日が終わった。

 上陸二日目なのに、強行軍気味に感じる。

 実際、ダンジョンは強行突破するように攻略し、ベネディクト以外の殆どの面々が疲れ果てた。

 個人的に怪我の一つでもすれば、何人かは尻込みすると思っていた。正直に言うとこの結果には驚いている。特にマルタとか。

 不穏な動きを見せるベネディクトは、面倒臭い仕事を押し付けて、連絡役として利用すれば良い。実際に翌日、今日出向いたダンジョンが『跡形も無く消えて無くなっている』と、勝手に調査と報告までしてくれたし。

 本人には言えない胸算用をしてから、この日も女性陣三人と一緒に眠った。


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