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上陸前夜

※菊理の愚痴が多めになります。

 深夜。相部屋のルシア、ミレーユ、マルタの三人を起こさないように静かに部屋から出た。

 寝付けないのではなく、目が覚めてしまった。

 搭乗員の邪魔にならないように風に当たって来ようと思い立ち、眼鏡を掛けてコソコソと歩いている。風に当たれなくても、外を少し眺めていたい。

 足元に気を遣いながら暗い通路を歩き、潮の匂いを感じ取った。匂いの方向へ向かうと、小さな声まで聞こえて来た。誰がいるのかと思えば、携帯電話を持ったルシアだった。

 自分と同じく二段ベッドの上で寝てたんじゃなかったのかと、考えていたらルシアと目が合った。

 今更帰る訳には行かないので、ルシアに近づく。どう声を掛ければ良いのか分からず、無難な言葉を選んでルシアに声を掛ける。こう言う時に対人スキルが低さが露呈する。

「奇遇、だね?」

「そうだな。ククリも家族に連絡を入れに来たのか?」

「違う違う。目が覚めたから風に当たろうかなって来たんだけど……」

 目を逸らしながら回答すると、ルシアは何かに気付いた。

「もしや、私が起こしてしまったのか。済まなかった」

「いや、良いよ。多分だけど、明日から頼るようになるし」

 夜の海を眺めながら、年下のルシアに対して何とも情けない事を言ってしまった。

「そんな事は無い。私はゲームを殆どプレイしていないんだ。何か()ったら、ククリを頼る事になる」

「対応出来れば良いねー」

 信頼に満ちたルシアの笑みが眩し過ぎて正視出来ない。

 ルシアの容姿は人種の違い抜きで整っていると断言出来る。ルシアの身長は自分とほぼ同じぐらいだが、その容姿は文句無しで『美少年』と称賛しても良い。

 そんなルシアに最も容姿が似ているのはミレーユだ。国籍も違うのに何故だろう。

 波音がはっきりと聞こえる程に沈黙が下りた。話題を探して、ルシアの最初の言葉を思い出す。

「そう言えば、さっき家族に連絡とか言っていたけど」

「ん? ああ、実は祖母がな」

「祖母?」

 家族と言っていたので、てっきり両親や兄弟姉妹だと思っていた。

 だが、ルシアが語った詳細を聞くと、確かに祖母だなと思ってしまった。


 ルシアの祖母は長年『記憶喪失』だった。

 記憶が無くとも流れ着いた先で、どうにかして結婚までしたのだから凄い。

 ……こっちは三十路になっても結婚の気配すらなく、どこかの結婚相談所に登録しろと母に言われる始末だ。まぁ、母が気にしたのは世間体だけどね。

 話を戻して。

 ルシアの祖母だが、何でも若かりし頃の姿がゲームで出会ったミレーユに似ているらしい。瓜二つと言う訳では無いが、姉妹と言われたら納得出来る程度には似ている。

 実はミレーユも、ルシアの姿が祖母の若かりし頃の姿に似ている事を気にした。

 ルシアの祖母が記憶を無くしている事、ミレーユの祖母には双子の姉妹がいるが行方不明のまま。

 互い抱いた『もしかしたら』の疑問を解消すべく、連絡を取り合った二人は、現実で互いの祖母を連れて再会した。

 再会したらルシアの祖母は記憶を取り戻し、数十年振りに姉妹は再会した。

 奇跡的な再会を果たしたルシアとミレーユの祖母達は、フランス国内旅行中だった。ルシアは故国にいる母に連絡を入れて、祖母が無事に旅行を楽しんでいるか確認を取っていた。


「祖母が姉妹って事は、ルシアとミレーユって再従姉妹(はとこ)だったの?」

「血縁上ではそうなる。しかし、奇妙な縁だな」

「奇妙って言うか、凄い確率じゃない? 孫同士の出会いが縁で生き別れの姉妹が再会するって」

 真実は小説よりも奇なりと言うが、マジで凄いな。

 そこから祖母同士の話になった。

 自分の祖母、父方の祖母とは縁は無いが、数年前まで一緒に暮らしていた、亡き母方の祖母は神社の関係者だった。

 祖母は自分が生まれた時、かつて関わっていた神社で祀られていた女神の加護が有るようにと、自分の名前を『菊理』にした。母は自身の名前の一部を取った名にしようとしていたらしい。

 キラキラネームと言う訳では無いが、自分としては芸能人と同名になるから嫌だったので、祖母には感謝した。

「そう言えば、……誰も言わなかったが眼鏡を掛けていたな」

「え? あ、車の運転をする時には必要なの。ゲーム内では無くても困らなかったんだけどね」

 眼鏡の有無を皮切りに少し話し込んでいたが、夜風が少し冷たくなって来たのでルシアと一緒に部屋に戻った。

 二段ベッドの梯子を上り、マットレスの上に寝転ぶ。

 ……家族、か。

 目を閉じたが、その一単語が耳に残る。


 自分の家族は歪だ。母は二度も離婚と再婚をして、二度目の再婚相手の男性との間に子供が出来た。その年の差は十四歳もある。

 亡き祖母の三番目の義父の評価は『お里が知れるレベルの馬鹿で我儘で粗忽もの』だった。

 自分も同じ評価を下している。酒を飲んでもいないのに、あのニキビ跡の多い赤ら顔は不審者だよ。

 夕食時になると『酒だ酒だ』と騒ぎ、外食時は席に案内されたら、去る店員を捕まえて酒だけ注文する酒好き。我が家で酒を飲む人間は一人しかいないのに、酒の残量管理すら出来ない馬鹿で、数日おきに母と罵り合いをしている。

 しかも、母が作る料理に片っ端からケチを付ける『料理の出来ない美食家気取り』で、食べたいものしか食べない偏食家。どれだけ節約を意識しても、この馬鹿のお酒と食事代が高く付く。毎日刺身が食べたいとか馬鹿じゃないの? 鴨肉だの、セセリだの、ブリカマだの、食材を指定するなら自分で作れよ。毎日毎日、母と罵り合いして、呼び出し声は『あーよ、あーよ』で煩いんだよ。一度座ったら、トイレと氷を取りに行く以外で立たないし。

 異父妹も真似して許されて、自分は許されない理不尽を受けて、最悪だった。

 更に義父は指定したものじゃないと食べないくせに、朝食以外は食事の締めにカップ麺を食べて病院通い。挙句の果てには、調味料はメーカー(値段は高め)を指定してそれ以外は嫌がって使わないから、義父用の調味料が幾つも在った。辛いもの好きで中辛系は食べないから、別で作らなくてはならない。


 母は何でこんな馬鹿を選んだのか?


 風呂上がりに下着一枚で家の中をうろつくなと、祖母は義父に対して怒った。母は祖母の味方をせず、義父側に付いた。母は『タダでお米が貰えなくなるじゃない!』と、祖母に怒った。

 意味が解らん。独り暮らしでは無く、義理家族と、他人と一緒に暮らしているんだよ? 下着一枚で家の中をうろつくなって、人としての最低限の礼儀だよね? 風呂に入る時は脱衣場で脱ぐのが常識だよね? 何で怒るの? 親しき中にも礼儀ありって言うでしょ?

 何? 農家出身の馬鹿男には、実家に食料品を貢がせる以外に価値が無いのか? 工場とは言え、正社員で勤務しているのに、一般常識が無いの?

 箸で皿を叩いてはいけないとか、テレビで野球中継を見ながらスマホで動画(しかも大音量)を見るなとか、食事中に放屁するなとか、文句言って食べたいものを母に作らせておいて食べ残すなとか、酒に酔って大声でえずくなとかさ。食事の無作法が多過ぎる。一緒に食事をしていて恥ずかしい。

 異父妹が真似して、母はそれを許すから質が悪い。しかも自分は許されない。皿一枚、コップすら洗えない、シンクに運べない馬鹿がそんなに大事なの? そんなに義父の実家に媚びが売りたいの?

 自ら苦労を背負い込んで、何で自分に八つ当たりするの? 自分を犠牲にするのは良いの? 

 自分が子供の頃にやらかしてしまった時は母に叱られたのに、どうして義父と異母妹がやっても叱らないの? ねぇ、どうして? どうして理由を教えてくれないの? 

 何の相談もなく、どうして勝手に決めるの?

『あれは血の繋がっていない家族なんだよ。良く思えなくて、仲良く出来ないのは、しょうがない』

 祖母がそんな事を言っていた。その言葉は事実なのか。


「……ほんと、訳分んない」

 思い出していて呟きが漏れた。いかん。これ以上思い出すと鬱になる。

 思考を空に、目を閉じて、深呼吸を繰り返しどうにか眠りに就いた。


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