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自分は何処にでもいる凡人です  作者: 天原 重音


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明かされる情報

 公表される情報が、正しく無い可能性が有る事は知っていたし、全てでは無い事も知っていた。

 でもね。流石にコレは無いと、ベネディクトから齎された情報を聞いて思った。

 いや、ハワイ諸島周辺へ船旅で行く事になった時点で、自分は何故『怪しい』と思わなかったのか。



 世界で起きている異変――より具体的に言うと、世間で言われているハワイ諸島を中心とした異変の詳細。

 数多の飛行機が行方不明になったのはまだ序の口だった。

 本当の異変は『北太平洋』を中心に、日付変更線を跨ぐように突然出現した謎の巨大な大陸。その面積はオーストラリア大陸の約三倍になる。

 元々北太平洋に存在していたハワイ諸島だけでなく、ミッドウェー島や他の島までも、謎の大陸の出現と引き換えに住民や観光客共々、その姿を消した。現在、近海を中心に行方を捜索中だが、誰一人として、ハワイ諸島の建物すら見つかっていない。

 この捜索で最も厄介なのは、謎の大陸に『上陸不可能』と言う一点だった。

 高高度から飛空艇に搭乗して近づいても、見えない壁が存在するのか、ある程度の高さから降下不可能となった。

 これは、特殊訓練を受けた軍人の一人がパラシュートを装備して降下しても同じで、何も無い空中で突然止まり、そこから落下しなくなった。実際に落下した本人が言うには、『クイックサンドに落ちたような感覚』だったらしい。

 すぐに飛空艇からロープを垂らす形で救助が始まったが、この時に最悪な事態が発生した。

 救助作業中にクワガタムシに似た鋏を持った大型の虫が飛んで来た。移動速度は速く、見えたと思ったらあっと言う間に距離が縮まったそうだ。救助対象の軍人は身の危険を感じて、降下時に所持していた銃火器を抜いて発砲したらしい。だが、軍人に近づく虫に銃弾は効果無かった。虫の甲殻に銃弾は全て弾かれたのだ。

 虫は軍人に近づくなり、鋏を使って――そのまま軍人の体を上下に断ち切った。血だけを流しながらも、上半身とその中身はその場に残った。虫はそのまま空中に取り残された軍人の体を貪り始めた。

 余りにもシュールな光景だったが、飛空艇の搭乗員達は『貪られている軍人の体の半分が食われて無くなる』前に我に返り慌てて逃亡したので、間一髪、無事だった。

 この一件から、大陸への接近と、上空の飛行が完全に禁止された。

 これ以降、行方不明者の捜索は大陸周辺の『沿海』を中心に再開されたが、この沿海でも似たような問題が発生した。寧ろ、こちらの被害の方が大きかった。

 何せ、戦艦が丸一隻沈没したからだ。何が起きれば、百人以上の搭乗員を乗せた戦艦が沈没したのか。

 沈没の理由は巨大な蛸――所謂『クラーケン』と呼ばれるものに襲われた。クラーケンに絡み付かれた戦艦の搭乗員達は、最初は艦載武器で応戦したらしい。けれども、効果が全く見られない事から慌てて脱出に切り替えたらしい。

 だが、戦艦に絡み付いていたクラーケンは脱出艇を優先的に狙った。数少ないヘリで脱出しても同じように狙われたらしい。

 脱出艇の乗って海に出ても、無事だったヘリに搭乗して空へ脱出を図っても、クラーケンの足に捕まり、そのまま捕食されたそうだ。脱出艇とヘリが戦艦から出なくなると、クラーケンは戦艦に絡み付いたまま海に沈んだ。

 戦艦に取り残された搭乗員達は、クラーケンが海に沈むと当時に海へ飛び込んだ。幸いにも、クラーケンは海を漂う搭乗員達には目もくれなかった。搭乗員達は三キロ近い距離を泳いで移動し、駆け付けた別の戦艦に救助された。この一件の死者と行方不明者は搭乗員の四分の一を超えた。

 この一件で、沿海への接近が禁じられた。以降の行方不明者の捜索は、近海でのみ続いている。

 この二つの出来事が原因で、空と海から大陸への上陸は不可能となった。宇宙を漂う衛星から大陸を捜索するも、点々と民家らしいものが見つかる以外に情報は無い。ドローンを飛ばしても、大陸各地に生息する生物に破壊されてしまい、全て無駄となった。観測用のアンテナ類も同じ末路を辿った。

 太平洋のど真ん中に出現した大陸なので、他の上陸手段は無い――その筈だった。

 手詰まりとなったが、とあるアメリカ人男性が上陸を志願した。周囲は止めたそうだが、『何が起きても自己責任で良い』と制止を突っぱねたらしい。わざわざ書面にもその旨書いて残した。

 上陸をするには色々と揉めたらしいが、水上バイクで単身向かう事を条件に、海に可能な限り近い場所――砂浜へ上陸が十分だけ認められた。

 誰もが上陸に失敗すると思い、母艦から出発した男性を固唾を呑んで見送った。だが、男性は皆の予想を裏切って、見事、上陸に成功した。とは言え、上陸許可時間は一時間程度しかなかった。男性は砂浜の奥の林に足を踏み入れ、異形の野生生物と遭遇交戦するもどうにか撃退した。一時間後、青年は砂浜の砂と砂浜近くの植物を数点採集して、水上バイクに乗り母艦へ戻った。

 男性が持ち帰った砂と植物を調査した結果。砂は地球のものと同じだったが、植物は全く未知の種類だった。これに植物研究者は興奮したらしいが、今は関係無いので割愛する。

 太平洋に面する国々は、男性が上陸に成功させた原因は何かと頭を抱えた。けれども、男性が提出した報告書のお陰で状況が一変する。

 男性が提出した報告書には、推測を含む数多の情報が書かれていた。

 報告書の情報を元に会合が行われ、大陸の捜索隊の結成と人員の徴集が提案された。

 捜索の素人を徴集するのは無理だと、報告書を提出した男性を含めた会合出席者の半分が反対したが、事態の早期解決が優先された。

 今回の異常事態の舞台には、観光地としても有名なハワイ諸島が含まれている。数多の国から観光客が訪れており、行方不明者を出した国は多い。どこの国も行方不明者の家族達への対応に苦慮している。

 苦渋の決断として、人員徴集が可決された。



「以上が現状です」

「突っ込みどころしかないんだけど」

 締め括りの言葉を発したベネディクトに向かって、ミレーユが言葉を発した。ベネディクトと自分以外の八人全員はミレーユの言葉に同意を示した。

「最初に上陸した男は何故、立候補したのだ?」

「その疑問に回答する前に、これを見て下さい」

 ルシアの疑問に回答する気持ちは残っているのか。ベネディクトは冷静にホワイトボードに一枚の紙を張り付けた。

 紙に印刷されていたのは、どこかの島と思しき、何となく見覚えのある衛星写真だった。オーストラリア大陸を横に引き伸ばしたかのような、長方形に近い形をしている。島の広さは判らないが、広大な森があり、荒野があり、火山や積雪地帯に、白樺のような巨木が写っている。

「見覚えはありませんか? これは私達が参加していたゲーム『浮遊大陸』の舞台だった大陸の衛星写真です」

「「「「はっ?」」」」「「「えっ?」」」「「おいっ!?」」

 それぞれの反応を示してベネディクトを除いた、自分達九人は腰を浮かせた。

「この大陸地図はゲームのものと酷似しています。最初に上陸した人物は、これに気づいて立候補しました」

 ベネディクトの物言いが引っ掛かった。これは、隠し通す気でいるのか。ここは言ってしまおう。

「待ってベネディクト。包み隠さずに話した方が、後腐れが無い。隠さずに全部話して」

「私にも守秘義務があります」

「ゲーム内で行った戦闘は覚えてる? アレと同じ事をリアルにやるのなら、命を懸ける事になるのよ。背中が預けられない状況は不和の元だから、グレーゾーンまで全部話して」

「おい、どう言う事だ? それではまるで……」

 自分とベネディクトの会話の意味に気づいたルシアが割って入るも、言葉は尻すぼみになった。

「部屋に来る前に聞いたんだけど、最初の上陸者はベネディクトだって。自己申告だから、真偽は知らない」

 自分とベネディクトの会話の意味を知った八人がギョッとした。

「おい、待て! じゃあ、その、何だ? お前が上陸に成功して、生きて帰って来たから、俺達は集められたのか!?」

 立ち上がったギィードが叫んだ。その言葉を聞いて、自分以外の視線がベネディクトに集まる。視線を集めた当人は苦虫を噛み潰したような顔になった。

「……そうですが、私は反対しました。何度も反対したんですよ。素人を調査隊員として派遣するのは無謀だって。でも、行方不明者の数が万単位で、遺族への情報規制も『これ以上は不可能』と判断されたんです。本当はペドロとククリだけを招集するつもりだったんです」

「何であたしなの!?」

「装備が作れるのは貴女だけでしょ!」

 意趣返しを疑ったが、真っ当な回答が返って来た。確かにそうだね。

「わしは?」

「軍医の経験保持者だったからです」

 ベネディクトからの回答を聞き、ペドロは『成程』と呟いて引き下がった。

「良いだろうか? ……ベネディクト。素人に訓練を課さずに向かわせる程に深刻な状況なのか?」

 挙手してから新たに発言したのは、難しい顔をしたクラウスだった。険しい顔をしたベネディクトは首肯してから回答する。

「はい。行方不明者の数が万単位で、遺族への情報規制もこれ以上は不可能。挙句の果てに、訳の分からない大陸が登場して、海流にも影響が出ています。このままだと、天候にも影響が出ると予想されています?」

「天候? 大陸が出現しただけで天気が変わったりするのか?」

「ちょっと、理解し難いです」

 ベネディクトの回答を受けて首を捻ったのはアルゴスとマルタだ。他にも幾人かが『何で?』と言った具合の顔をしている。

 住んでいるところが違うだけで、こうも思考が変わるのか。

「それって、毎年夏場に赤道近くの海上で発生する、台風にも影響が出るって言われているの?」

「はい。海流に影響で出ている以上、『何も起きない事だけは無い』と判断されています」

 自分が助け舟を出すように質問をすると、ベネディクトは肯定した。

 しかし、台風が何か解らないものがいた。『毎年日本に来るハリケーンに似た奴』と簡単に解説した。

正しいか否かはともかく、これで解るだろう。事実、ハリケーンの単語で何となく理解してくれた。

「台風が来ないと水不足に陥りかねないから、天候への影響は流石に大きいよ」

 毎年やって来る台風が齎すものを考えると、顔から血の気が引くのを感じた。確かに台風は自然災害的な面が強いが、大量の雨を齎す。

 うろ覚えだが、昭和の東京オリンピックが開催された当時。水不足に悩み開催しそのものが危ぶまれたが、前日にやって来た台風で大量の雨が降った事により水不足が解消されたって実話があった筈だ。

「少し大袈裟じゃないか? 海流に影響が出たと言っても、海水が流れる方向が変わるだけだろ?」

「アルゴス。海水が流れる方向が変わったら、生態系にも影響が出るぞ」

「そんな簡単に影響が出んのか?」

「アザラシか何かの海生哺乳類で、親が餌場にしている場所に魚がいなくて遠くにまで行ったら、親が帰って来るのを待っていた子供が大量餓死したって話を聞いたわね。原因は海流の温度か流れだった筈」

「……マジか」

 未だにピンとこないアルゴスが首を捻っていると、ルシアとミレーユから指摘と解説が入った。ミレーユが話したものは自分も知っている。

 狩場が遠くなっただけで大量餓死が発生したと聞き、流石にアルゴスも事態の深刻さを理解した模様。

「目に見えて判るものではありませんが、今後、多岐に亘って影響が出るものと判断されました」

「でも、出現したしたのは大陸だよ? 調査しても、根本的な解決にはならないと思う」

 ロンがクラウスを真似て、挙手してから発言した。水を差すように発言された為、ベネディクトは顔を僅かに顰めた。

「ロン……。貴方の言う通りですが、調査を始めなければ何も始まりません。我々は行方不明者の捜索と大陸の調査を並行して行います。大陸を調査しつつ、行方不明者の手掛かりを探すようなものですが」

 解決策を求めて大陸を調査するのだとベネディクトに言われて、ロンは納得したのか引き下がった。

「手掛かりを得るには、上陸しなくてはならない。だが、上陸可能な人間は限られている上に、掻き集めた人員の殆どが素人。集めた人員以外は上陸不可能。訓練の時間すら惜しんで、早急な対応したと言う事実だけが要求される。そんなところか?」

「ペドロの発言で概ね合っています。今は人海戦術でどうにかするしかない。それが上の判断です」

「思っていた以上に深刻だな」

 ペドロの話を聞き、顔を曇らせるものが続出した。これまでの話を聞いて、顔を俯かせたものが一人もいなかっただけ、マシかもしれない。

「上陸は明日の昼前です。それまで、ゆっくりと休んで下さい」

 これ以上質問類が出ない事を確認してから、ベネディクトはこの場を切り上げた。


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