現実世界での再会
ゲームの終わりから二ヶ月半が過ぎた頃。
指定日の前日になり、荷物を持って家を出た。大事なものは道具入れに入れたから大丈夫だろう。指定日の前日出発なのは、当日電車の遅延が起きても指定時刻に到着出来るようにする、単なる備えだ。あと、状況がアレなので神社にお参りして置きたい。気分的に。
眼鏡を装着し、デカいスーツケースを引っ張り、電車に揺られて東京都心に向かい、予約を入れて置いたビジネスホテルにチェックイン。明治神宮(ここは明日)、神田明神、浅草寺、靖国神社(ここは何となく)を回ってお参りする。ついでにお守りを人数分の十個買う。
明治神宮から他のところまで距離が無いかって? 明日の目的地は都庁だから、問題は無い。そう言う意味では無いだろうが。
翌日、時間に間に合うようにホテルを出て、明治神宮にお参りしたら都庁に向かい指定の階に存在する会議室に向かう。指定の時刻が夕方なので、すれ違う人は少ない。辿り着いた会議室に入ると知らない男女が数人いた。でも、パーティーメンバーじゃないのでスルー。
時間になると、テレビでしか見た事のない都知事が登場した。今後の行動予定の説明と激励を貰い、最上階のヘリポートに向かう。ここから羽田空港で自衛隊保有のヘリに乗り換えて横須賀海軍施設に向かうんだけど、どうして現地近くの集合じゃないのか、尋ねてみたいが無関係そうな人間が近づくのは流石に不味いだろう。
横須賀に向かったら、今度は米軍が保有する軍属の艦に乗り、空母へ移動する。一気にハワイ諸島にまで、向かえないのは事前に聞いていたが、何度も乗り換えるのは面倒だ。空母に飛行機が在る事を期待したい。
横須賀に到着。米軍保有の艦と連絡通路の接舷が終わるまでの待機場所に向かう途中。夜空を見上げながらそんな事を思っていた矢先、軽快な足音が近づいて来た。
「ククリ!」
「えっ!? ベネディクト!」
名を呼ばれて、声の方を思わず二度見した。間違いなく、ベネディクトだった。ゲーム内とほぼ同じ、女顔の容姿の男の姿だ。何か安心した。
「久し振りです」
「久し振りだけど、現実でも言葉が通じているのね」
嫌な現実を再確認してしまい、思わずげんなりする。
「意思疎通が楽なのは良い事です。それよりも、その眼鏡は?」
「ゲーム内だと視力が強化されていたから、無くても不便じゃなかったの。車の運転とかには眼鏡が要るの」
「そうでしたか……。あ、そうだ。至急作って欲しいものが在るので、こっちに来て下さい」
「え?」
ベネディクトは急にそう言うなり自分の手を引っ張った。そのまま別のところに連れて行かれるが、時間は良いのかね? と言うか、何を作れと?
「ねぇ、時間は良いの?」
「空母に届ける物資の積み込みも行うので、三時間程度の余裕が有ります。その間に、道具入れを何個か作って貰いたい」
「……成程」
ベネディクトからのリクエストを聞いて納得する。確かに、道具入れは有ると便利だ。欲しがる気持ちは解る。自分も真っ先に作ったし。それと、『作った』で思い出したが、経費で購入して改造したものが有る。その内の一つはベネディクトに渡すものだ。
到着した部屋は、初めて見る銃火器が大量に置いて在った。洋画でなければ見る事の無い光景だ。
「ここにある装備を可能な限り持って行きたい」
「弾丸が中心になりそうね……あ、そうだ」
初めて生で見る光景に圧倒されていたが、自前で作ったものを思い出した。首から下げていた、道具入れに改造したペンダントからモデルガンの拳銃を取り出す。
「ククリ、それは?」
「モデルガンだよ。魔法銃に改造してある。どうなるか分からないから、念の為に作って置いたの」
「……そうでしたか。それよりも、道具入れを作っていたのですか」
「一個だけね。これはベネディクト用に作った奴」
呆れるベネディクトに魔法銃に魔改造したモデルガンを渡す。ホームセンターで購入した金属板を使用しているので、プラスチック製品だけどちょっと重い。
「軽過ぎますが、携帯性を考えるのならば問題は無さそうですね」
銃火器を実際に使用した経験を有しているのか。ベネディクトは『軽い』と言った。一キロ以下になるようにしたから、軽いのかもしれない。
「レプリカでここまでの物が作れるのなら、今の内に設計図を取り寄せた方が良さそうですね」
「何の設計図なの!? 言っておくけど、材料が無いと作れないからね」
「ははは。解っていますよ」
嫌な予感がして慄く。ベネディクトは朗らかに笑うだけだった。
このやり取りを終えてから、ベネディクト希望の『道具入れ』は手持ちの材料で作った。
「ありがとうございます。いや~、沢山持って行けそうです」
「沢山持って行きたい気持ちは解るけど、全部持って行くのだけは止めなさい」
やけに上機嫌なベネディクトを我慢させるのは苦労した。
後に貰った設計図は、四輪車(電動式)を始めとした乗り物が中心だった。銃火器の設計図もそうだけどさ。戦車やプロペラ式の小型飛行機の設計図を、民間人の自分に見せても良いのか。
と言うかさ、どうやって手に入れたんだよ!?
ベネディクトに対する謎が深まった。
そして三時間後。
ベネディクトと一緒に搭乗した米軍保有の艦は出港した。
空母と合流するまでの間にも、それなりに広い部屋でベネディクトからの依頼であれこれと作る。それにしても、本物の銃器を加工する日が来るとは思わなかった。流石に分解と組み立ては出来ないから、ベネディクトにやって貰ったよ。
「それにしても、何であのゲームの関係者じゃないと上陸出来ないって判明したの?」
「それは、初めて上陸出来た人間が私だからです」
「……公表したら袋叩きにされない?」
「可能性は皆無では無いので、内緒にして下さいね」
「高確率で巻き込まれるから黙るよ」
意外な事実を知って、内心でげんなりとしたが作業を行う手は止めなかった。
出港してから数日後。
遂に空母と合流した。
空母に乗り換え、ベネディクトの案内に従って内部を移動する。他国の軍用空母に足を踏み入れる日が来るとは思わなかった。
「ここですよ」
先導するように先を歩くベネディクトが、とある部屋の前で止まった。ベネディクトがドアをノックしてから入る。自分もその後ろに続いた。
室内には、ゲームの中で出会った八人が勢揃いしていた。全員四角いテーブルを囲むように無言で椅子に座っている。
自分とベネディクトが入室する事で、パーティメンバーが揃った事になる。顔を合わせた回数が少ないからか、懐かしさは欠片も無かった。挨拶もそこそこに、自分は空いている椅子に腰掛けた。ベネディクトは何故か存在するホワイトボードの前に立った。
「さて、パーティメンバーが揃いましたので、状況の説明を行います。この中で最も情報を保有しているのは、職務柄、私だけです。なので、私が説明を行います。質問は説明が終わってからにして下さい」
念押ししてから、ベネディクトは現状の説明を始めた。
更新に間が開いてしまいすみません。ちまちまとですが、書き進めています。
読んで下さった方々、誤字脱字報告ありがとうございます。




