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憂憂、鬱鬱、最終電車。  作者: 阿片頭梔子
四月
1/7

四月、電車にて。 1

 朝の電車は息苦しいのに、夜の電車は心地良く感じる。それはきっと朝は焦燥感、夜は安堵感に包まれるからだと思う。

 電車から見える夜の街は昔から変わっていないようで少しずつ変わっている。田んぼだったところにショッピングモールができ、周りとのギャップに苦しんでいるようにも見える。

 電車内の人間の大半はスマホを触っているか、死んだように眠っている。

 僕はいつもこの電車を使って、近くの高校に通っていた。

 もう、この電車に乗って高校に行くことはない。


「次は、月下駅ー月下駅ー。月下駅は無人駅ですので、一番前の車両のドアからお降り下さい。降車の際は運転手に切符か定期券をお見せください。次は月下駅ー」


 そのアナウンスと同時に座席から立ち、一番前の車両へと移動する。この電車は時速70㎞付近で走っているので、僕は外から見たら70㎞で歩いているように見えるのだろうか。

 電車はゆっくりと減速し始め、キィーという大きなブレーキの音が耳に入る。寝ている乗客のほとんどがその音で目覚め、目的の駅ではないことを知ると大きなあくびをして再び眠りにつく。

 僕はポケットから取り出した切符を運転手に見せ、ご乗車ありがとうございましたーと間の抜けた声を横切り降車する。そして、誰もいない無人駅から薄暗い歩道を歩く。

 四月も中旬に入り、桜はもう青々とした葉をつけ始めている。高校の同級生は皆、新生活に苦しんでいるだろう。

 ははっという自嘲気味な笑いがこぼれた。皆地元を離れ、僕はここに残る。

 高校を卒業し、僕は何者でもなくなってしまった。

 形としては浪人生となっているが、僕は自分がそれとは思えなかった。

 僕は大学受験から逃げ出したのだ。浪人生なんておこがましい。

 四月の中旬は暖かくなってきたとはいえ、まだ夜は少し肌寒い。目頭が熱くなっていくのを感じて、ごまかすように僕は家までがむしゃらに走った。

 電車はもうどこか見えない遠い所へ行ってしまっていた。


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