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11 禁忌の結果




 魔力が収まり、光も消えたのを見計らい、カリムとアリスが戻ってくる。


「――どうや、上手く行ったんか?」


 その言葉に、シクロは頷いてから答える。


「ちゃんと魂は戻ってきた。ミストが頑張ってくれたんだ。これ以上にないぐらい、出来ることは全てやったよ」

「そうか。ほんなら……ともかく、今はその姉ちゃんが無事目ぇ覚ましてくれるかどうかやな」

「ああ。上手く行ってくれるといいんだけど……」


 カリムの言葉に、シクロは不安げな表情のまま頷く。


 そんなシクロを見ながら――アリスは、気まずそうな表情を浮かべ、口を開く。


「……お兄ちゃん。ミラ姉だけど――」


 アリスが何かを言おうとした時、同時にミランダの身体が僅かに動く。


「ミランダ姉さんっ!!」

「……しく、ろ……くん」


 ミランダは、喋りづらそうにしながら、声を出す。

 反応から見るに、しっかりとミランダ本人が蘇生されたことは間違い無さそうに思えた。


「なに、が……」

「ミランダ姉さんが、魔物に襲われたところを見つけたんだ。それで――出来る限りの手段を使って、ミランダ姉さんの怪我を癒やしたんだよ」


 あえて死者蘇生をした、とは言わないシクロ。


「そう、だったのね」

「ああ。一時はどうなるかと思ったけど、無事で良かった――」

「違うよお兄ちゃん。無事じゃないわ」


 安堵し、笑みを零したシクロの言葉を遮るように、アリスが口を開いた。

 全員がアリスに向かって視線を向け、アリスは詳しい話を続ける。


「人間に限らず、普通の生物は身体の中を魔力が複雑に巡っているの。例えるなら、それは魔力が歯車のように噛み合って、大きな一つの機械みたいになってるのが普通なの。でも――ミラ姉の魔力は、そうなってない」


 アリスは言いづらそうにしながらも、自らの見解を語ってゆく。


「人体を流れる魔力なんて、私ぐらい優れた魔法適性持ちじゃなきゃはっきり認知出来ない。だから、お兄ちゃんが分からなかったのも仕方ないよ。でも――ミラ姉の魔力は、複雑に巡ってはいるけど、噛み合ってない。バラバラの歯車が身勝手に回っているような状態なの。……そんな状態じゃあ、普通の生物は生存できないわ」


 生存できない。そう断言されて、シクロの表情に緊張が走る。


「それは……つまり、そういうことか?」

「うん。――ミラ姉の今の状態は、フレッシュゴーレムっていうアンデッド系の魔物と同じよ。……蘇生は、失敗してるわ」


 アリスの言葉で、その場に重苦しい空気が漂う。


 言葉を失い、苦悩するような表情を見せるシクロに、ミランダが声をかける。


「……シクロ、くん。ありがとう」

「ミランダ姉さん?」


 その突然の感謝の言葉に、シクロは困惑し声を上げる。


「助けようと、してくれた、のよね?」

「ああ。でもボクは……」

「気に、しない、で。悪い、のは、私、だから」


 そう言うとミランダは、何故このようなことに――ヘルハウンドに襲われる事態になったのかを、跡切れ跡切れの声で説明した。


 ミランダはシクロ達が村から出ていくのを見て、シクロに見捨てられたのだと思い込んだのだ。

 そして――どうにかして、シクロに見捨てられたくないという一心で、シクロ達を追いかけて村を抜け出した。村人たちの目を盗んで。


 あてもなく、見つけられるはずもないのにシクロ達を探し続け――やがてヘルハウンドに見つかり、襲われた。


 それが、ミランダの死の真相であった。


「いつ、でも……シクロ、くんは、私を、助け、ようと……してくれ、た。でも――信じられ、なかったのは、私。私が、間違って、いたの。シクロくん、は、いつも、味方で、いてくれた、のにね」


 ミランダは、喋るのも苦しそうにしながら、シクロに語りかける。


「ごめん、ね――ちゃんと、信じられ、なくて……ごめん、ね……っ!!」

「いいんだ、そんなのは別に、いいんだよミランダ姉さんッ!!」


 ミランダが、涙を流しながら謝罪する。それをシクロは、同じく涙を流しながら構わないと口にする。


「そんなことよりも、他のどんなことよりも――ミランダ姉さんが生きて、幸せでいてくれることの方がよっぽど大事なんだよ!」

「そっか……そう、なれたら――ずっと、良かったのにね」


 ミランダは、まるで諦めるように呟き、そして――二人を見守っていた、ミストの方へと視線を向ける。


「ねえ、貴女」

「……はい」

「貴女が、私を――呼び、戻して、くれたんでしょう?」

「……ええ、そうです」


 答えたミストに、ミランダは微笑み掛ける。


「ありが、とう。貴女の……優しさ、に、包まれてる、みたいで……とても、気持ちよかったわ」

「そう……だったんですね」

「だから――最後は、貴女の……力、で。送って、欲しいの」

「……っ!」


 ミランダの言葉に、ミストは息を飲む。

 そしてシクロは――首を振って、ミランダの言葉を拒否しようとする。


「最後なんて! そんなこと、言わないでよ! 姉さんッ!!」

「シクロ、くん。……強く、なってね。今でも、素敵だけど。今よりも、もっと、素敵で――天国からでも、見惚れちゃう、ぐらいに」


 言いながら――ミランダは、シクロの頭に手を置いて、優しく撫でた。


 そしてミランダは、ミストに視線を向け、頷く。


 ミストは――頷きを返し、ミランダの意思を尊重した。


「――『ホーリーブレス』」


 瞳を閉じ、集中して――ミストは神聖魔法の一種を発動させる。


 聖なる光が場を包み込み、味方にはバフ効果を発揮し――アンデッドに対しては浄化の効果を発揮する。


 つまり――アンデッドの一種である、フレッシュゴーレムと化したミランダにとっては、再び魂が開放され、天へと登ってゆく魔法となるのだ。


「――姉さぁんッ!!」


 シクロは、まるで天へと帰すまい、とでも言うかのように、必死にミランダの身体を抱きしめた。

 しかし――物理的な干渉で、ミランダを留め置けるはずもなく。


 ミランダの魂は――ミストの神聖な魔力に包まれ、天へと還ってゆく。


「シクロ、くん。後悔なんて、しなくて、いいからね」


 ミランダは、最期の言葉とばかりにシクロへと語りかける。


「私が、こうなったのは――君のせいじゃ、ないから」

「……違うよ、姉さんッ!! ボクが! ボクがもっと頑張っていれば……ッ!! あの時だって!! 自分が仕事をクビになったからって、勝手に自信を無くして――人を信じられずに、一人で暴走したボクが、姉さんを助けられなかった一番の原因なんだよッ! 姉さんは、だから、こんなところで死んでいい人じゃ――」

「それでも、だよ。それでも――悪いのは、君じゃ、ない。悪いのは――あの男、だから」


 ミランダは、最期の力を振り絞り、シクロに微笑みかける。


「君は、なあんにも、悪くないよ――」


 その言葉が――本当に、最期だった。


 浄化の光は次第に収まり、ミランダの魂は、完全に天へと登り消え去ってしまう。


 後に残されたミランダの身体は――微笑みを浮かべたまま、ぐったりと動かなくなってしまった。


「……姉さん……っ!! 姉さんッ!!」


 そして――シクロはただ、ミランダの遺体を抱えたまま。

 その場で泣き崩れるのであった。

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― 新着の感想 ―
 うーん、女性キャラへのヘイト簡単になくなり過ぎる。
[気になる点] 話がブレブレ それがここまで一気に読ませて頂いた印象です 書きたいように物語が進み、登場人物達の会話や行動が 作者が作る目的に進む為の作られた対話に違和感が凄いです 作者が望んだ…
[一言] 時計使いの拡大解釈で時間を巻き戻して、嫌な記憶も無くなり清い体に戻す、というのを予想していて事実そうなりそうだと思ったらこの結果は予想外でした。 辺境にいるあの女を許す展開になりそうなのは嫌…
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