09 悲鳴と悲劇
森の探索を続けながら、ヘルハウンドを狩り続けるシクロたち。
「――ハッ!」
カリムが声と共に剣を一閃して、また一匹のヘルハウンドが首を落とされ絶命した。
「ふぅ。これでもう何体目や?」
「さあな。でも、この辺りにはもうヘルハウンドらしい反応は無いな」
シクロは時計感知を使い、ヘルハウンドの反応を探りながら言う。
「結局、あのヘルプラントみたいな異常な群れも発生してなかったし。都度ヘルハウンドを焼却処分してきた以上、感染も広がらないはずだよな?」
「そのとおりだよ、お兄ちゃん。たぶん、もうこの辺りの森にはあの寄生虫はほぼ生息してないんじゃないかなぁ?」
アリスがシクロの推測を肯定し、さらに事態が収束しつつあることを宣言する。
「後は村の近くとか、村の反対側の森まで一応調べてみて、って感じになるわ」
「そうだな。今日は、とりあえずこれぐらいでおしまいってところだな」
シクロの言葉に、全員が頷いて応える。
こうして――この日の探索は終了することとなった。
そうして探索を終え、村の近辺へと向かって戻る一行。
既にこの日の探索は終了していたこともあり、時計感知で積極的にヘルハウンドを探すこともしておらず、歩調もミストに合わせて遅いものとなっていた。
その為――向かい先で起こる出来事を、事前に察知することが出来なかった。
「――いやぁぁぁぁぁああああッ!!」
突如、森に絶叫が響き渡る。
その声は、明らかにシクロ達にとっても聞き覚えのある声で、緊迫感が走る。
「この声……ミランダ姉さん!?」
「何かあったのかも!」
中でも特に驚きを見せたのは、ミランダとの関わりが深いシクロとアリスであった。
「急ごうッ!」
シクロがまず先行し、続いてアリス。カリムとミストがその後に続く形となった。
悲鳴のした方向へと駆け抜けるシクロ。既に時計生成を発動し、ミストルテインを手に携え、戦闘態勢も整えている。
さらには時計感知も発動し――事の起こっているらしき場所を把握し、一直線に向かった。
だが。
「――ちくしょうッ!! クソ犬がぁぁぁあああッ!!」
シクロは怒りに任せ、ダンダンッ! と銃弾を放つ。
銃弾は正確に、二匹のヘルハウンドの異常個体の頭部を貫き――瞬時に絶命させる。
そのお陰もあって――ミランダの身体に喰らいついていた牙も離れ、無残な姿となったミランダが開放される。
「ミランダ姉さんッ!!」
シクロは誰よりも先にミランダに駆け寄る。
素早く抱き上げ、ヘルハウンドの死体から引き離し――そして、体重が異様に軽いことに気付いてしまう。
ミランダは、その身体をヘルハウンドに貪られ――腹部の柔らかい部分はごっそりと肉が食い千切られており、手足もかじられた後があり、原型を留めていない。
特に酷い左腕に至っては、肩まで食い破られ、腕があった痕跡すら見当たらない程であった。
「……畜生、なんでッ! どうしてだよミランダ姉さんッ!!」
シクロはそんな無残な姿となった――ミランダであった死体を抱き抱えたまま、行き場を失った感情を溢れさせるかのように声を荒げた。
「なんで……こんな所にいたんだよッ!! それに……なんでボクは、間に合わなかったんだよッ!!」
シクロの瞳には、自然と悔し涙が浮かび上がっていた。
そんなシクロを、追いついたアリス、そしてカリムとミストが心配げに見つめつつ、歩み寄る。
「……お兄ちゃん」
だが、掛けるべき言葉が見つからず、アリスが一言、シクロを呼ぶだけで、誰も口を開くことは無かった。
そのまま、場には沈黙が流れた。
だが――やがてシクロは意を決したように立ち上がると、ミストと向かい合う。
「……ミスト。頼みがあるんだ」
「……はい。ご主人さまのお考えでしたら、私も分かります」
ミストは分かっている、といった様子で頷き、言う。
「――再生魔法を、使えばいいのですね?」
ミストの言葉に、シクロは気まずそうにしながらも頷いた。