06 異変の調査へ
前話にも追記しましたが、しばらくは中二日を空けて一回のペースで投稿していくことに決めました。
文章量は変わらず維持していきますので、よろしくお願いいたします!
翌日の早朝、四人は早めに起き出し、借りた家から外に出ていた。
「……うぅ~、まだ眠いよ、お兄ちゃん」
アリスだけ、眠気が取れていないのか、目をこすりながら家から出てくる。
先に集合していた他三人の視線を受けながらも、堂々とした遅刻っぷりである。
「出来るだけ早く依頼を終わらせるって話になっただろ? 早めに調査に出ないと、村と森の往復の時間もあるんだから調査時間が無駄になる」
「でも~、それでもちょっと早すぎるよぉ」
不満を零し続けるアリスに、シクロは呆れて溜め息を吐く。
「はぁ……ほら、さっさと出発するぞ」
「はぁ~い」
こうして四人は調査の為、村の外へと向かう。
――そんな四人の様子を、物陰から伺う者が一人。
「……シクロくん、出発って……どこへ?」
それは、昨日の錯乱もあって迷惑をかけた為、謝罪をしようと家を出てきていたミランダであった。
(……もしかして、もう帰っちゃうの!?)
そもそもシクロ達が何故村に来たのかすら知らないミランダは、シクロの言葉から勝手に勘違いをする。
(いやだ……見捨てないでっ!! 助けて、シクロくん……ッ!!)
悪い想像が働いてしまい、ミランダはまた気が動転し、冷静ではいられなくなる。
(どうにかして――シクロくんに、連れて行ってもらわないと。どうにか……)
そうして、ミランダは考え始める。どうすれば自分が救われるのか。
考え込み――思考は狭まっていく。
答えの無い問いを自らに課すことで――ミランダは、さらに焦り、結論を急いでしまうのであった。
一方、そんなミランダの状況など知らず、シクロ達は森の中を順調に探索していた。
「とりあえず――もう少し進めば、探知の反応が強い奴らが見えるはずだ」
今回は依頼の達成を優先するため、練習などと言った余裕は一切無く、シクロのスキルも最大限使っての探索となった。
そのため『時計探知』による反応の強さから、森の中でもより大きな反応のある方へと優先して移動している。
「今回ばかりは、手加減無しや。効率優先で行くで。――ミストちゃんには悪いけど、付いてくるのを優先してや」
「……はいっ! 頑張ります!」
カリムの言葉に、ミストはどうにか返事をする。
ミスト以外の三人は高ランクの冒険者であり、ステータスも非常に高い。故にただ移動するだけでも速度が段違いとなる。
そんな三人に――正確にはミストのギリギリに合わせて移動する三人に付いていくのは、ミストにとってなかなかに大変なことだった。
「――接敵するぞッ!!」
「はいよ! 見えたでッ!」
シクロが宣言すると、まずはカリムが剣を抜いて飛び出る。
その先には――キラーベア三体を相手に、十数頭の群れで狩りを成功させたばかりのヘルハウンドの群れがあった。
そのヘルハウンドたちは、見るからに異常に発達した筋肉を持っており、はちきれんばかりに身体が膨らんでいた。
だが、それだけの筋力を維持する為にもエネルギーが必要なのか、必死にキラーベアの死体を貪り、それでも飢えは満たされていないように見えた。
そんな群れの中に――剣を抜いたカリムが突撃する。
「ハッ!!」
一閃すると、途端にヘルハウンドの首が一つ飛ぶ。
「――ミストルテイン!」
続いて、ミストルテインを手にしたシクロの射撃。
ダンダンッ! と連射する射撃音の後、複数のヘルハウンドの額に穴が開く。それらはちょうど、カリムの動きに反応して動き出そうとしていた個体だった。
「――まだまだやでッ!」
余裕の表情で、さらにカリムはヘルハウンドの間を駆け抜ける。一匹、また一匹と首を切り落とされてゆく。
そして――カリムがヘルハウンドの群れの間を駆け抜け終わる。抜け出した直後、魔法発動の準備の終わったアリスが攻撃に出る。
「エアプレッシャーッ!!」
発動したのは風属性の魔法。ヘルハウンドの群れ全体を、上から覆うように大気の塊が落下する。
風とは思えないほどの圧力が全てのヘルハウンドを捉え、圧殺。ほぼ全てのヘルハウンドがこの一撃で絶命した。
かろうじて生き残ったヘルハウンドも、足が折れ、身体が内部からズタボロになり、虫の息であった。
「さて、後始末だ」
そして、最後にシクロがミストルテインで生き残りにトドメを刺してゆく。ダン、ダンッと一匹ずつ、額に弾丸を打ち込んでゆく。
あまりにも――圧倒的で、一瞬の戦闘であった。
ミストは、そんな三人の様子をただ見ているだけしか出来ず、ポカンと呆けたような表情を浮かべていた。
「まあ、こんなもんか。……どうした、ミスト?」
「い、いえっ! ご主人さまも含めて、皆さん本当にすごい方たちなんだなぁと思いまして!」
「へへーん、これでもSランク冒険者だもの! 当然よっ!」
鼻高々に自慢するアリス。
が、そんなアリスを尻目に、カリムとシクロはヘルハウンドの死体を調べに向かう。
「それにしても、ここまで明らかに異常な個体だったとはな」
「せやな。身体がデカいのはもちろんやけど、筋肉の発達っちゅうか、緊張具合が異常や。無理やり発達させられたみたいにな」
「……人為的な現象ってことか?」
「それは調べてみんと分からんな」
二人がそんな話をしているところに、鼻高々なアリスが近寄ってくる。
「はいはーい、私に任せて。そういう調査なら、錬金術が得意よ。死体も山程あるし、いろんな薬品を試せば少しは分かることがあると思うわ」
「それは――頼もしいな。頼む、アリス」
「うんっ♪ まかせてお兄ちゃんっ!!」
こうして――アリスの錬金術による調査が開始する。
事前にアリスが調合し、シクロの収納に保管されていた薬品に加え、この場でもアリスの錬金術により新しい薬品が生み出されてゆく。
そうして用意された薬品を使い、ヘルハウンドの死体に様々な実験を行う。
「……うーん、薬品の反応っぽいのは無いかな。ドーピングされた魔物っぽかったし、そういうのかなって思ったんだけど」
「じゃあ、人為的な現象でもないのか」
「それは……どうかなぁ。原因がはっきりしないと断言できないよお兄ちゃん」
言いながら、アリスは次の薬品を準備する。
「次は――寄生虫とかが潜んでないかどうか、虫下し液で反応を見てみるね」
言うと、アリスは生み出した薬品――虫下し液をヘルハウンドの死体にぶちまける。
すると、途端に著しい反応が起こる。
ちょうど額に穴の空いた個体だった為か――頭部に掛かった液が功を奏し、内側に潜んでいた何者かが暴れだす。
ミミズに似た虫らしき生物が、弾痕から次々と溢れ出してくる。
「うっわ……キモいけど、これで原因ははっきりしたね」
「寄生虫か。それなら……人為的な現象の線は無さそうか」
「少なくとも、直接人の手が加わっとるわけや無さそうやな。この寄生虫がどこ由来のもんかで、間接的には関わっとる可能性もあるけども」
三人はそれぞれ考察をしながら、謎の寄生虫を観察する。
そして――何やら、寄生虫は虫下し液の他にも嫌がっているものがある様子に気づく。
「……ん? こいつら、何から逃げてるんだ?」
シクロは寄生虫が逃げる方向から、逆側へと視線を向ける。
「はい?」
そこに居たのはミスト。特に何をしているわけでもなく、ただ突っ立っているだけのミストである。
「……ミストの何かが、この虫にとって虫下し液並みに嫌みたいだな」
「それなら――ミストちゃん、ちょっと魔力を、魔法にせずにそのまま寄生虫に向けて吹きかけてみて?」
「分かりました、やってみます」
ミストはアリスの要求に応え、集中し、魔法の形にせず魔力をそのまま放出した。
すると――ミストの魔力が衝突した途端、虫はボロボロと崩れ落ちて死んでいった。
「これは……ミストの魔力に特攻効果があるのか?」
「いや――ちゃうな。多分、神聖と光の属性が弱点なんやろ。アンデットみたく」
「なるほどね。ミストちゃんの魔力は、自然とその辺の属性を帯びてるから、それで嫌がってたのか」
カリムの仮説を聞いて、納得したように頷くアリス。
「あの……ご主人さま。つまりどういうことでしょうか?」
「ミストの魔法は、めちゃくちゃコイツらに効くってことだよ。もしかすると、どこかでミストの魔法で一掃してもらうタイミングがあるかもな」
「それでしたら、私頑張らせていただきますっ!」
ついに自分にも役割が貰えたことで、意気込むミスト。
こうして――ミストの微笑ましい一幕がありつつも。一同は調査を続けるため、より森の奥へと深く入り込み、探索を続けていくのであった。