05 報酬交渉
ミランダの家を出ると、外には村長が待っていた。
「……冒険者様。どうかこのことは……」
そして、村長は頭を下げる。
「集落の存続の為には、仕方が無かったのです。違法な奴隷商人でもなければ、こうした辺境の集落になど来てくれませぬ。都会の奴隷商人は紹介が無ければ取引出来ませぬ。ですので……こうした違法な奴隷を抱える集落は、少なくはないのでございます」
村長の言い分は言い訳じみていたが、今はそこを責めるつもりはシクロには無かった。
「――あの人は、自分の知り合いだった。事情も聞いた。……今は、アンタ達の事情やらについて口出しするつもりは無い。それよりも、まずはあの人の身柄について話がしたい」
シクロの有無を言わさぬ雰囲気に、村長は息を飲む。
「そ、それは……あの者を引き取りたい、ということですか!?」
「端的に言えばそうなるな」
シクロの言葉に、村長は焦り始める。
「それは、どうかご勘弁下さい! あの者を買ったお陰で、今の村の自警団は成り立っておるようなものなのです! もしも冒険者様に引き取られれば……街に出て、冒険者になる若者が増えてしまいます! それでは、この村は……」
村長は悔しそうに言いながら頭を下げる。
その様子から、村長にとっても苦肉の策なのだろう、ということは察することが出来た。
「――だったら、ボクがノースフォリアの奴隷商人を紹介してやる。今回の依頼の達成報酬も全額返還する。だからその代わりに、ミランダ姉さんの身柄はこちらに引き渡してくれないか?」
シクロの提案に、村長は悩む様子を見せる。
「しかし……都会の奴隷は値が張ると聞きます。目的に合った者が購入出来るかどうか……」
やはり現状維持が一番良い、と考えている様子の村長。
そんな村長に、カリムが横から口を出す。
「違法な奴隷商人にどんな嘘吹き込まれたか知らんけど、値段なんかピンキリやで。中には借金で奴隷になった女の冒険者なんかもおる。そんで、早めの返済の為に娼婦として働くことも了承しとる奴もおる。……ウチらに出す依頼の達成報酬やったら、そういう借金奴隷が十人は買える金額になるで」
カリムの言葉に、村長は目を丸くする。
「そ、それは本当ですか!?」
「ホンマやで。まあ、奴隷娼婦として仕事して、借金返済したら奴隷から開放される契約やから当然やな」
「……それでは、意味がありませぬ」
期待を裏切られたように、村長は肩を落とす。
が、カリムはさらに補足の説明を続ける。
「そんなことあらへんよ。借金奴隷にまで落ちた女なら、大抵は二度と冒険者になりとうないやろうからな。村の男に甲斐性があれば、開放された後も居着いてくれるかもしれんで。まあ、その辺は奴隷の扱いが良ければ、って話やけどな」
「……なるほど」
カリムの言葉を受け、村長は改めて考え始める。
このままミランダを性奴隷として保有し続ける方が良いか。それとも――シクロの紹介で、新しい奴隷を村に招き、そのまま住人として居着いてくれる可能性に賭けるか。
「……確かに。あの者一人だけに若者の相手をさせていては、いずれダメになるでしょうからな。長期的に見れば、村に居着いてくれる若い女性が出る可能性に賭けるのも悪くはありませぬ」
言って、村長は頷く。
「一度、村の重役達にも話を通して来ます。そのうえで、返事をさせていただけませんか?」
村長に問われ、シクロは頷く。
「ああ、構わない」
「ありがとうございます、冒険者様」
そうして交渉は一旦終了し、村長はその場を離れてゆく。
村長の背中を見送りながら、シクロは溜め息を吐く。
「……はぁ。ままならないな、世の中ってやつは」
「どうした、シクロはん? 疲れたみたいな顔して」
カリムに言われ、シクロは答える。
「疲れたよ。……正直、罪のない人を奴隷扱いするこの村の人間に怒りも湧いてるさ。でも、ボクがキレて何かしたって解決にならないだろ?」
「せやな。違法奴隷の取引は重罪やけど、証拠が無いやろ。力づくで解決しよったら、シクロはんの方が犯罪者やで」
「えぇっ!? なにそれ理不尽!!」
カリムの言葉に怒りを示したのはアリス。
「仕方ないだろ、アリス。というかお前、まだ懲りてないのか……?」
「えっ? あっ、えーっと、そうだ! カリム姉! 村長さんが言ってた辺境の村だと違法奴隷なんて当たり前、みたいな話って本当なの!?」
シクロにジトリと睨まれ、慌てて話題を逸らすアリス。
「せやな。程度にもよるけど、まあまああることやな。けど、この国は奴隷制度が整っとって、まだウチの故郷とか、西の都市国家群とかの方が実情はエグいで。アイルリースやと、民族単位で生まれながらの奴隷扱いも珍しゅうないからな。そういう奴らは捨て値で売られて、劣悪な環境で死ぬまでこき使われる」
そこまで言うと、カリムは少しだけ言い難そうにしてから、続きを話す。
「この国でそういう扱いされんのは――盗賊やら詐欺師やら、反社会的な職業スキル持ちぐらいや。まあ、それも理不尽やと思うけどな。数で見たらだいぶ少ないな」
「――っ!」
ミストがピクリ、と反応し、その肩をシクロが撫でて慰めるような動きを取る。
「へえ、そうなんだ。……でも、制度が整ってるのに違法奴隷が無くならないの? おかしくない?」
アリスの問いに、さらにカリムが答える。
「需要と供給の問題やな。この国は奴隷商人が国営やから、実質役人みたいなもんなんや。そんで、資格も隷属契約を扱える者にしか与えられへん。なれる人自体が少ないんや」
カリムはそこまで言うと、少しばかり顔を顰める。
「……それと、スキル絡み故にスキル選定教の絡みもある。国と教会に上納金が必要になるから、奴隷の値段も高くなって、わざわざ営業で地方回って薄利多売せずに、都市で高利な奴隷を捌く奴が増える。そうすると、逆に違法奴隷の需要が地方で高まって、スキルやない本物の盗賊やらの格好の資金源になるっちゅうわけや」
「またスキル選定教か。どこにでも名前が出てくるな」
シクロはそう言って、溜め息を吐く。
「まあ、何にしろボクらは依頼をこなして、村側と交渉しなきゃミランダ姉さんは救えないんだ。明日は頑張らないとな」
そうして――四人は改めて、今回の依頼に向けての気合を入れ直したのであった。
ついにストックが切れて遅刻してしまった……。
そろそろ毎日投稿が厳しくなってきたので、少しペースを緩めたいと思います。
ただ、文量を少なくしてなら毎日投稿自体は維持できると思います。
読者の皆さまとしては、文量少なめの毎日投稿と、今の文量で中一日か二日程度あけての投稿、どちらが良いでしょうか?
ご意見いただけましたら幸いです!
ちなみに、現状では文量維持して中一日か二日程度あけるつもりです。
※追記※
中二日の文量維持で良いとの意見が多かったので、その方向で行きたいと思います!
皆さまの温かい応援の声もありやる気がまた湧いてきました! 頑張らせていただきます!!





