01 辺境の集落
ノースフォリアは王国最北の都市である。
だが、人が住まう場所はノースフォリアだけというわけではない。
ノースフォリアから馬車で半日ほど移動すると見えてくる――辺境の集落。元々は北部の開拓村として作られた村だが、今ではその役目を終えている。
現在はごく普通の集落として、当時入植した人々が暮らしている。
そんな辺境の集落だが、当然周辺はノースフォリアと同様に魔物が出没する為、トラブルも多い。
そうした魔物関係のトラブルは――冒険者ギルドを介して、ノースフォリアの冒険者が派遣され、対応することになる。
集落の住人も、多少ならば魔物との戦闘経験があるため、ノースフォリアの防壁内に住む一般市民よりは強い。
だが、そんな集落の住民でも対応できない魔物が出没する場合も当然ある。
そうした場合に人々の安全を守る為、冒険者ギルドは冒険者を派遣するのだ。
「――ちゅうわけで、今回みたく集落に行って魔物討伐、ってのも冒険者にとっては重要な仕事の一つなわけや」
馬車に揺られながら、とある辺境の集落を目指すシクロ達一行。
ついでとばかりにカリムによる冒険者知識の講義が行われ、これをミストとシクロがしっかりと聞いて学んでいた。
そして――新しくパーティに加入することとなった、職業スキル『賢者』持ちであるアリスは、手持ち無沙汰で馬車の中で作業をしていた。
「でも、そういう仕事も高ランク冒険者になるとやらなくなるわよ。私もSランクになってからは、もっぱら集落からじゃなくて国や領主、小さくても街の代表なんかからの依頼をこなしてたし」
カリムの講義に補足説明を入れながらも、アリスは作業を続ける。
アリスが続けているのは――賢者の持つスキルの一つ『最上位錬金術』を使ったポーションの精製である。
錬金術とは、物質を別の物質に変換する魔法、特定の物質を処理して特殊な加工を施す魔法のことである。
例えば今アリスが行っているのが、市場で購入した格安の『下級ポーション』から成分を抽出。さらにシクロから貰ったエネルギーキューブの成分と合成、さらに不純物を取り除くことで『最上級ポーション』を作り出している。
そして――アリスの場合、賢者の持つスキル『魔力操作』と『魔力具現化』のスキルにより、何も無い空中にて器具も使わず作業が可能となっている。
現に、次々と新しい最上級ポーションが空中で精製され、瓶詰めされていっている。
これらの能力に加え――『元素魔法』という魔法適性スキルも所持しているのが、賢者という職業スキルである。
なお、元素魔法とは土、炎、水、氷、風、雷の六属性を指す。つまり、アリスはこのスキル一つで六属性もの魔法適性を手に入れていることになる。
弱点は武器の適性を持たないことだが、それも魔力具現化と魔力操作の組み合わせである程度の近接戦闘のフォローが可能である。
生産能力、様々な魔法による対応能力、そして高い火力に加えて単独での活動にも隙が無い。
冒険者ギルドが、冒険者としての賢者を特別視する理由が、まさにそこにあった。
「――にしても、目の前で最上級ポーションがポンポンと作られていくのは、壮観だなぁ」
シクロはアリスが精製し、瓶詰めしたポーションを『時計収納』にて収納していく。
なお――シクロの『時計収納』は対象が日時計、砂時計、水時計の解釈を拡大することでしか収納出来ないという弱点がある。
故に日時計のように陰を落とさず、砂でもなく、液体でもない――ガラス瓶は収納できない。
なので、今回のポーションを詰めている瓶は陶器の瓶になっている。
ちなみに、瓶もアリスがそこらへんの土から成分を抽出して精製している為、無料で手に入っている。
「こんなことが出来るのは、私が天才だからなんだからねっ! 賢者でも、ここまで上手に錬金術をこなす人なんか滅多にいないんだから」
「そうなのか? アリスは頼りになるな」
「うんっ! パーティの生産なら、私にどーんと任せてねっ!」
アリスは自慢げに胸を張りながら言う。
カリムと同じぐらいに豊かな胸部が強調されるが、これに目を奪われたのはシクロではなくミスト。
「……ぐぬぬ」
自分の胸部を見て、つま先まで何の障害も無く見通せることに落胆するミスト。
栄養状態が悪く、発育も悪かったミストと比べて。アリスは母親譲りの恵まれた体型をしており、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
二人が並べば、大人の女性と子ども、というような印象になってしまう。
なお、喋ればアリスも子ども側となる。
「ご主人さまは、平原と山、どちらが好きですか!?」
「ん? いきなりだなミスト。……ボクは平原かなぁ。見通しが良くて比較的安全だし」
「ですよねっ!」
突然シクロに訳の分からない質問を投げかけ、返ってきた答えに満足げな表情を浮かべるミスト。
このように、ミストは度々、アリスに張り合うような行動に出ることがある。
それもこれも、アリスがシクロと本気で結婚したがっていると知ってしまった為だ。
ご主人さまを独り占めされないように、と必死なのである。
そうこうしている内に――馬車は目的地である集落へと到着する。
まだ日の高い内に辿り着き、時間もある。
「まだ時間もあるやろうから、まずは依頼主への挨拶と情報収集と行こか」
「集落でなら、ノースフォリアよりも薬草なんかが安く買えるわよ。買い出しも行った方がよくない?」
「ほんじゃあ、そっちはアリスちゃんに任せるか」
カリムが指示を出しつつ、アリスも時々意見を言い、こうしてパーティの方針を決める上で重要な役割を担っている。
「……二人とも、頼りになるなぁ」
一応はパーティリーダーであるはずのシクロの出る幕がない。
故にシクロは少しばかり遠い目をして二人を眺める。
「ご、ご主人さまっ! 出来ることから頑張っていきましょうっ!」
「そうだな。ボクらもパーティの為にやれることからやっていこう」
「はいっ! それでしたら、私はアリスさんに同行します。再生魔法で『直せそう』な粗悪品でしたら、安く手に入れられると思いますから」
ミストの再生魔法の思わぬ応用方法に、シクロは感心したような目を向ける。
「なるほどな。それじゃあ、買い出しはミストとアリスに頼むのが良さそうだな。――ボクはカリムと二人で集落の村長のとこへ会いに行ってくる」
「はいっ!」
こうして――冒険者パーティ『運命の輪』は、二手に分かれて集落での活動を開始した。
ちなみに余談ですが、身長はミスト<<<アリス<カリム≒シクロぐらいのイメージ。
お山はミスト<<<<<<アリス<カリムぐらいのイメージです。
言動は幼いですが、アリスはちゃんと成人女性らしい外見年齢をしていたりします!