14 素直なアリス
再生魔法での治療を終え――翌日。
デイモスが奴隷商人を呼び出し、アリスを正式にシクロの奴隷として登録する時が来た。
書類関係は既に準備が終わっており、後はシクロとアリスの間に隷属契約を交わすだけとなっている。
「お久しぶりですねぇ、シクロ様」
「ああ、世話になる」
奴隷商人が頭を下げ、シクロが頷く。
「早速ですが、契約の方を済ませましょう。シクロ様は既に、隷属契約の概要はご存知でしょうから……説明は省きましょう」
「ああ。それで構わない」
こうして、手早く隷属契約の準備が進んでいく。
奴隷商人の用意した魔法陣に、アリスの髪の毛を置き――シクロが魔法陣へと魔力を込める。
既に一度見た光景ながらも、魔法陣が浮かび上がり、アリスの首へと吸い込まれていく様は、シクロには不思議な光景に思えた。
何にせよ、隷属契約は特に問題なく終了する。
「お兄ちゃん……どうかな!?」
隷属契約の証、首の文様を嬉しそうに撫でながら、アリスはシクロへと笑顔を向けた。
「ああ――大丈夫だよ。気持ち悪くもならない」
そう言って、シクロはアリスの笑顔を正面から受け止めた。
「やったっ! お兄ちゃん、これで元通りだよねっ!?」
「ああ、そうだな。……おかえり、アリス」
「……っ! うんっ!!」
シクロがアリスの頭を撫でて、それをアリスは嬉しそうに受け入れる。
「――さて。早速だが、アリスには二つ命令させてもらうぞ」
「えっ、命令? 必要なの?」
「当たり前だろ。お前を更生させる為に犯罪奴隷として身分を預かってるんだぞ」
シクロは呆れたように溜め息を吐いた後、アリスの首の文様に触れる。
「いいか、アリス。――『常識を学べ』。それと『素直になれ』。これが、ボクがお前に下す最初で最後の命令だ」
「じょ、常識ぐらい、私ちゃんとあるわよっ?」
「常識があるヤツは爆破事件なんか起こさないからな」
「ぐぬぬ……はぁい、認めまーす」
素直になれ、という命令がうまく効いていた。
「――仲直り出来て、良かったですねアリスさん」
ミストが、自分のことのように嬉しそうに話しかける。
「そうね! 私、お兄ちゃんのことが大好きすぎて仕方ないから、こうしてお兄ちゃんの所有物みたいになってるのはむしろお得なぐらいだわっ!」
すると、アリスは中々に常識のない、ぶっ飛んだ発言をしてきた。
「……えっ?」
そして、アリスは自分の発言に驚く。
「……ああっ! そうか、これが『素直になれ』って命令の効果なのねっ! 恥ずかしいっ!!」
顔を真っ赤にしてパニックになるアリス。
なお、隷属契約にマインドコントロールのような力は無い。故に発言を強制する力もない為、これは単にアリスが勝手に思い込みプラセボ効果を発揮しているだけに過ぎない。
「お、落ち着けアリス。少し予想以上に好かれててびっくりしたけど、ボクもお前が好きだから。安心してくれ」
シクロはアリスを落ち着かせようと、発言のフォローをする。
だが、それが裏目に出て、さらにアリスはパニックを起こす。
「ち、違うもんっ! お兄ちゃんの言う、そういう好きじゃないんだもんっ! 私はお兄ちゃんのこと、結婚したいぐらい好きなのっ!」
「け、結婚!? いや、ボクら血の繋がった家族だろ。結婚は出来ないぞっ!?」
「でもお兄ちゃん、私がちっちゃい時に結婚してくれるって言ったもんっ!!」
「……言ったかなぁ?」
シクロは首を傾げる。記憶には無いが、アリスが言うなら言ったのだろう、と一応納得する。
そして、アリスの興奮は留まることを知らず、トンデモ発言はさらに続く。
「それに結婚だって出来るもんっ! その為に、なりたくもないヤツの娘になって、姓を変えたんだからねっ!?」
「いや、姓が違っても結婚は無理だろ」
「お兄ちゃんが貴族になれば出来るもんっ! 貴族法があれば、私もちゃんとお嫁さんになれるのっ!!」
貴族法とは、貴族だけに適用される法のことである。
アリスが言っているのは――貴族がより良い血統を繋げていくための手段として、仕方なく近親婚をする場合に遣われる法律のことであった。
この場合――シクロがもしも貴族として、例えば名誉男爵にでもなれば、アリスが養子として他家に出ていれば結婚することも可能となるのだ。
「お前……まさか、そんな目的の為に養子になったのか!?」
「ええっと、ちが……わないっ! 半分くらいはそれが目的だったよ!」
素直になれ、という命令が見事に効いている。
シクロはまさかのアリスの本音、そして計画を聞き出してしまい、呆れる他なかった。
「……はぁ。利用された王都のギルドマスターが憐れすぎる」
「あんなヤツのこと憐れむ必要ないよ、お兄ちゃん?」
「こんのっ、バカ! アホっ! 大バカっ! どアホっ!! 常識を学べっていうのはなぁ、そういうところがあるからだぞっ!!」
シクロはアリスの肩を掴んで迫真の表情で叱りつける。
「これからは、容赦なくお前に常識を叩き込んでやるからなっ!!」
「……えへへ。お兄ちゃんに調教されるみたいで、そういうのも良いよね!」
「ダメだこれは……手遅れかもしれない……」
シクロはがっくり、と項垂れてしまう。アリスは、シクロの想像以上に難敵であり、常識が抜けていた。
まさかここまでだったとは、と、過去の自分のアリスへの甘やかしを恥じ、後悔するばかりである。
「……ご主人さまは渡しませんからっ!!」
アリスの発言にショックを受け、固まっていたミストが再起動。対抗するように、シクロの腕に抱きついてくる。
「シクロはん……実の妹まで手篭めにするとは、やるやないか」
一方で、カリムは面白いものを……おもちゃを手に入れたかのような顔をしてシクロをからかう。
「――英雄色を好むとは、まさにこのことなのですね! 流石です、シクロさんっ!!」
そして隷属契約の見学に来ていたデイモスの息子、クルスはなぜかシクロへの好感度を高めていた。
「……どうしてこうなった!!」
そんなこんなの状況に頭を抱え、シクロは心底疲れた様子でボヤくのであった。
本日、確認してみたところ年間総合ランキングで290位に入ってました!
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というわけで、これからも頑張っていきます!





