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08 養子縁組




 婚約破棄から、さらに一ヶ月後。

 シクロも職人ギルドで時計技師としての仕事にだいぶ慣れてきた頃であった。


「……お兄ちゃん。お母さん。話があるの」


 そうやって夕食の席で話を切り出したのは、アリスであった。


「どうしたの? アリスちゃん?」


 サリナが訊くと、アリスは躊躇いながらも口を開く。


「……冒険者ギルドのギルドマスターに、養子にならないかって進められてるの」

「養子? なんでそんなことに?」


 シクロが疑問に思って尋ねると、アリスが解説をする。


「賢者っていう特別な職業スキルを持ってるから、色んな人からやっかみを受けることもあるんだって。それに、強いからって無理やり無謀な仕事をやらされることもあるかもしれない。そんな時に、私がギルドマスターの養子なら、守りやすくなるんだって」

「どうして?」

「よくわかんないけど、ギルドマスターは貴族に準ずるぐらいの地位があるからって言ってた」

「ああ、なるほどね」


 アリスの言葉で、シクロだけは納得した。

 ギルドマスターが貴族に準ずるというなら、その子供もその権威にあやかることが出来るのだろう。

 それに、そういった立場があって初めて繋ぐことの出来る縁もある。立場のある人間との縁が出来れば、それもまたアリスを守る為の力に繋がる。


「……ボクは、アリスの好きなようにすればいいと思ってるよ。実際、養子になった方がアリスの安全って意味では大きいと思うから」

「シクロちゃんが言うならそうなのね? なら、ママもおんなじよ」


 シクロが意見を言うと、サリナも同意する。

 これで、養子になるかどうかの判断はアリスに任されることになった。


「……分かった。よく考えてみる」

「うん。でも……個人的には、アリスがボクの妹で居てくれた方が嬉しいかな」

「ふ、ふんっ! 別に、私も同じだからって悩んでたわけじゃないんだからねっ!!」

「はは、分かってるよ」


 いつものアリスの照れ隠しを、シクロは笑って受け止めるのであった。




 ――事態が変わったのは、さらに一ヶ月後。

 シクロがスキルの使い方も理解し始め、時計技師として高く評価され始めた頃であった。


 なんと、アリスは養子縁組を受けることに決めたのであった。

 シクロは、なんだかんだ言ってアリスは養子縁組を断るものだと思っていた。


 けれど、最後に決めたのはアリス本人の意思だ。否定するわけにもいかない。

 結局、シクロはアリスがギルドマスターの養子となるのを、黙って見送るしか無かった。


 ――別れの日。アリスが実家を出て、ギルドマスターの屋敷に住まうことになる日。

 家の前で、シクロとサリナはアリスを見送る。


「じゃあ、元気でやるのよアリスちゃん。困ったことがあったら、いつでもママに相談してね?」

「うん。ありがとうお母さん」

「アリス。向こうに行っても、元気でな。ボクも寂しいけど……アリスの決めたことなら、応援するよ」


 シクロが言うと、アリスは照れたような表情を浮かべる。


「……べ、別にお兄ちゃんに応援されなくたって、私頑張るんだからねっ!!」

「はいはい。アリスは優秀だもんね」


 ボクとは違って、という卑屈な言葉を、なんとか飲み込むシクロ。

 そして、最後にアリスが一言言い残す。


「……それと、私がギルドマスターの養子になるのは、自分の為なんだからねっ! 別にお兄ちゃんの為とか、そういうのじゃないんだからねっ!!」

「ん? そうだね。分かってるよ」


 それは当然のことだろう、とシクロは思っていた。

 アリスとしては別の意味を込めていたのだけれど――今回ばかりは、少し遠回しすぎて、伝わっていなかった。


 こうして――アリスもまた、シクロの側から離れていくのであった。

お読みいただきありがとうございます!


本日の連続投稿はこの話で終わりです。

明日からも1日4回、9月5日まで連続投稿が続きますので、是非お楽しみください!


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